ex-boyfriend
翌日、魂が抜けたようなスーザンを伴ってエヴァンとラルフはアトランタに着いた。
E大学病院はマスコミを完全にシャットアウトしていたが病院としては機能しているわけでラルフは友人の医師にすでにアポをとっていた。
実際、今のスーザンは患者として受診する要素はじゅうぶんなほど憔悴しきっていた。
昨夜、スーザンはラルフにもたれかかってずっと泣いていた。ラルフは一緒に泣きながらその肩を抱いていた。
3人はラルフの友人の医師と面会した。
「ラルフ、ひさしぶり」
「ダニー、無理言ってごめんなさい」
ラルフとそのダニーと呼ばれたハンサムな医師は軽くハグした。あれ? とエヴァン。
「アタシのボーイフレンドと彼の伯母さまよ」
「キュートなカレだね」
とダニー。
あれ? なぜラルフが女コトバを使うんだ? それに何なんだ、この会話。エヴァンの心がざわついた。
「はじめまして、ダニー・トンプソンです」
さわやかな笑顔で手を差し出すダニーに対してエヴァンの笑顔は若干引きつっていた。
「エヴァン・ギルバートです。彼女は伯母のスーザンです」
「スーザン・ギルバートです。今日はありがとうございました」
憔悴しきった表情のスーザンだったが自分のために尽力してくれた同業者のダニーに対してしっかりと挨拶した。
「患者のヒューズ氏はもちろん完全に隔離されて面会どころではないけど彼のご両親はマスコミの攻撃をかいくぐって到着してるよ。僕が案内できるのはそこまでだ」
「ありがとうダニー。でもご家族は両親だけ? 奥様とかは?」
とラルフ。
「いや、ご両親だけだよ、この病院に待機してるのは。待機室まで案内するよ」
長身でハンサムな医師のあとに続いたエヴァンたちだった
。
「あの、ラルフ。聞いてもいい?」
耐えきれずエヴァンが小声で聞いた。
「なぁに?」
「ダニーって?」
「元カレよ」
「そっか……」
そっかー、そうだよな。僕だって過去に数え切れないほどの恋人を捨ててきた。こんなに魅力的なラルフが過去にボーイフレンドがいないわけないじゃないか。
颯爽と歩くダニーの後ろ姿を、複雑な思いでエヴァンは見ていた。
さっきハグしてたラルフとダニーは悔しいほどお似合いだったな。チクショ。
自称小説家、ゲイのフリーター、セックス依存症で弁護士のひもの僕。
将来を嘱望された新進気鋭のゲイの医師、めちゃくちゃハンサムでムカつくほどのさわやか野郎のダニー某。共通点はゲイって部分だけじゃないか。
こんな時にやきもち焼くなんてエヴァン・ギルバート、お前はなんて小さい男なんだ。SHIT!
エヴァンがひとりジェラシーに悶え苦しんでいた頃、スーザンは少し冷静さを取り戻していた。
スコットに一目会いたい一心で衝動的にアトランタまでやってきたが彼の両親に会える立場の自分ではなかった。拒絶されても罵倒されても仕方がない。
でも会いたい! スコットに会いたい! もう自分の気持ちは偽りたくないスーザンだった。
家族待機室のドアをノックしたダニーはスーザンたちの来訪を告げて
「じゃ、僕はここで失礼するよ」
とさわやかな笑顔で職場に戻って行った。去り際にダニーが軽くラルフのヒップにタッチしたのをエヴァンが見逃すはずはなかった。Woo!