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スコット 1

「ごめんなさい、アタシが聞いたせいで悲しいお話をさせてしまって」


ラルフがポロポロ涙をこぼしながら謝った。


「いいの、全然平気よ。いつかみんなに聞いて欲しいと思っていたの。もう傷跡もかさぶたも残ってないわ。むしろ今日話せて楽になれたわ、ありがとうラルフ」


それでも母ルイーズの事故の間接的ではあれ当事者とも言えるイーサンとエヴァンはどうしようもなく落ち込んでいた。

当時、父も含め自分たちはスーザンに心身ともに助けられた。スーザンがいてくれたおかげであの恐ろしい事故から立ち直れたと言っても過言ではない。

そしてイーサンはシンディと結婚し、エヴァンはラルフという人生のパートナーを得た。父親レイクも40年の時間を取り戻し今はジョーイと暮らしている。

だけどスーザンは手に入るはずの幸せな未来をなくしていた。


「もう、しんみりしないでよ。でもイーサンとシンディ、あなたたち知ってる? ネグレストは立派な幼児虐待なのよ」


スーザンが指差すほうを見たらテレビでアニメを見ていたグレッグとセシリーのツインズはテディベアのラルちゃんにもたれかかってぐっすり眠っていた。


「アタシたちがベッドに連れて行くわ」


とラルフがグレッグを、エヴァンがセシリーを抱いて寝室に運んだ。


イーサンは不思議な錯覚を覚えた。ゲイのカップルの弟たちだけどその後ろ姿は一瞬普通のファミリーに見えた。それはシンディも同じだった。

スーザンはまた別の思いでリビングを出る4人を見ていた。今頃、スコットもきっといいお父さんになっているわね。そうに決まってる。彼にふさわしいかわいい奥さんと子供がいて。

私、魔女なんかじゃないわ。ちゃんと別れた男の幸せを願っているんだから、心から。


子供たちが見ていたアニメはとっくに終わりニュース番組が始まっていた。

テレビを消そうとしたスーザンは何気なく画面を見た。


『ジョージア州空軍基地から中継です』


女性レポーターの緊張した声が聞こえた。


『EVD(エボラ出血熱)に感染したスコット・ヒューズ医師がチャーター機で緊急移送されてきました』


スーザンの手からチャンネルリモコンが落ちた。その音でイーサン、シンディもテレビを見た。


『ヒューズ医師は非常に危険な状態で、アトランタのE大学病院に収容される予定です』


「スーザン、大丈夫?」


と声をかけたシンディにスーザンは


「スコット・ヒューズなんて名前、全国に何百人いると思って?」


と無理に笑顔を作った。

が、画面に日焼けした笑顔の男性医師の写真が映った瞬間、スーザンは声にならない悲鳴をあげて床に崩れた。あわてて駆け寄り伯母を抱くイーサン。


「スコット! スコット! スコット!」


冷静な伯母が取り乱して泣き叫ぶ場面にエヴァンとラルフが戻ってきた。


『スコット・ヒューズ医師は西アフリカのL国で長年医療活動に従事してきました。今回EVDに感染したアメリカの医療従事者3名のうち2名は現地で亡くなっています』


エヴァンとラルフはすべてを悟った。


シンディとラルフに抱かれてソファーに座ったスーザンは両手で顔を覆って泣き続けた。


「スコット…… スコット……」


彼女自身が熱病にうなされているかのように元の恋人の名を呼び続けた。


「明日アトランタへ行こう、スーザン」


とエヴァン。


「ジョージアならアタシに任せて。E大学病院には友人もいるわ」


とラルフ。


スーザンが言う『かさぶたも残っていない過去の恋』の傷跡から鮮血が流れていた。



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