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Amanda

バネッサを狙撃した犯人の詳細がマスコミによって明らかにされた。

その男はデスメタルバンドDunkelheitダンケルヘイトのデビュー当時からの狂信的ファンで最近のDELUGEの台頭を暴力をもって封じようとした単独の犯行だった。

バネッサに致命的なダメージを与えることができなくてとても落胆していることも報道された。

犯人の男は体と車椅子の背もたれの間に拳銃を隠し持って会場に入ったということだった。

車椅子利用者を装ったということで入場ゲートのボディチェックもノーマークに近かった。


両バンドのファンによるSNS上のバトルも勃発していた。

Dunkelheiダンケルヘイトのヴォーカル、バネッサと最終オーデションで戦ったアマンダがブログでバネッサの回復を祈っていると書き、今回のことは暴走したファンによる偶発的な悲劇だったと綴ったことによりたちまち炎上した。


「エヴァンはアーロンのそばについていてあげて」


と言い残してラルフは仕事があるためバネッサの容態を気にしながら家に帰った。

家に泊まるように言ってくれたアーロンの家族の申し出を辞退したエヴァンは安いホテルに宿泊していた。


意識を取り戻し一般病棟に移ったバネッサの傷は順調に回復してきたが、彼女の身に起こった重大な悲劇をまだ本人は知らなかった。


「あなたに最高のステージを見せることができなかった、ごめんなさい」


弱々しい声でバネッサは婚約者に謝った。


「最高にかっこよかったよ。続きは復活ライブで、ということだね」


「うん、わかった。ところで私の指輪知らない? あれがないと落ち着かないの」


「ジャーン。僕が持ってるよ」


アーロンは拳を突き出してチープリングをはめた小指を見せた。


「治療が終わるまで僕が預かってるよ。そして新生バネッサにもういちどプロポーズする」


「アハハ、アーロンったら」


バネッサの前では明るく振る舞い、病室を出ると深いため息をつくアーロンだった。


事務所を通じてDunkelheitダンケルヘイトのヴォーカル、アマンダからお見舞いに行きたいという申し出があった。

家族以外、外部との接触を断ってきたクリスだったが、アマンダからの申し出だけはバネッサに伝えた。


「もちろん歓迎するわよ。断る理由なんてないわ」


バネッサらしい強気の発言が出てくるほど回復したということでクリスは安堵した。しかし退院前には彼女が直面すべき現実の壁が立ちふさがっていた。


エヴァンは自主的にアーロンの心のケアに努めていた。なんでそこまでやるのか自分でもわからなかったが、今のアーロンを見捨てて帰ることはできなかった。バネッサがすべてを知るその日、アーロンを支えなきゃという強い思いがあった。それはラルフの思いやりでもあった。


エヴァンとアーロンが病院ロビーにいるとき、アマンダはやって来た。

スタッフとマスコミを引き連れた一行の中、真紅の薔薇を抱えたアマンダは薔薇さえも色褪せて見えるほど輝いていた。


「今日だけはメイクさせて」


病室でアマンダを待つバネッサにデスメタル界のディーバとしてのプライドが戻っていた。

薔薇を抱えたアマンダとバネッサのツーショット画像と動画は世界に配信された。


「二人だけにして」


ツーショット撮影後、アマンダはスタッフ、マスコミを追い出した。

バネッサは内心、身構えた。アマンダの真意がわからなかった。

二人だけになると突然アマンダはベッドの傍らにひざまずいた。


「ごめんなさい、ごめんなさい」


見事なブロンドを震わせて泣き出したアマンダにバネッサは言葉を失った。


「ごめんなさい。私たちのファンがあなたを傷つけてしまった。私はフェアにあなたと戦いたかったのに、彼は狂ってるわ。でも私たちのファンだったことは確かなの。許して」


顔を上げたアマンダのメイクは完全に流れていた。


「許すも何も、アマンダあなたが悪いんじゃない。私はすぐに復活するわ。新生バネッサとDELUGEはもっとパワーアップしてると思って覚悟なさい」


デスメタル界の二大ディーバは抱き合った。アマンダはさらに泣いた。メイクはもっとひどいことになっていた。

当初、アマンダの訪問はマスコミ向けの商業的なパフォーマンスかなと思ったバネッサだったがその思いは消えていた。

病室を出ようとするアマンダにバネッサは思わず声をかけた。


「アマンダ、その顔のままじゃマズイわ」


「あっ。いけない」


バッグからサングラスを取り出すとアマンダはそれをかけて泣き顔を隠した。


「待ってるわ、バネッサ」


と再び毅然と背筋を伸ばしたアマンダの鼻はまだ赤かった。


「お見舞い、本当にありがとう。あなたとこうやって再会できてよかったわ」


アマンダを見送るバネッサの、その笑顔が凍ってしまうのは同じ日の午後だった。



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