海の見える2階建て
6時半頃。
父の運転する乗用車が、街へと入っていった。私たちの新たなスタートを切る街だ。
多くの住宅街などの建物が建ち並び、その奥にはさっき見たような青い大海原が広がっていた。
「どうだ愛理?この街で上手くやっていけそうか?」
「まだもう少し生活しないとわかんないよ。でも、こうやって外見だけ見ると、素敵な街だなぁって思う」
車窓の外で流れる景色を見ながら、父とそんな会話をしていた。
しばらくしてから、車が停まった。
「伊吹」
父が後部座席で眠っている伊吹のことを呼んだ。
「んー……」
顔をしかめて目をこする伊吹。
「もう着いたの?」
「着いたよ」
私が返事をした。
ふと外を見たら、引っ越しの業者のトラックがあった。
「ご苦労様〜」
父が運転席から出て、業者の人たちの方へ向かった。
「なぁ愛理」
「何?」
「ここなの?俺たちの家ってさ」
「そうだね」
父に続いて、私と伊吹も車から降りる。
「愛理、伊吹。車の荷物出しておいてくれないか?」
「はーい」
言われた通り、乗用車のトランクから簡単な手荷物をおろしていく。
「あの業者の人たちって、親父の友達のカッちゃんじゃね?」
「うそ、勝次さんって、こんな仕事してんの?」
「知らなかった?」
父の方を見る。
確かに父の友人の勝次さんがいる。
勝次さんは私たちに気付くと、にっこりと微笑みかけてくれた。
ひと通りの荷物を下ろして、新しい家の中へ入った。
前まで団地に住んでいたから、2階建ての一戸建ては改めて広く感じる。
2階へと上がった。
これから自分の部屋になるであろう部屋のドアを開けた。
「うわぁー」
思わず声が出た。
部屋の窓の外には、大きな海。
水平線がくっきり見えていた。
波の音が聞こえてくる。
この一瞬だけでこの街が好きになった時だった。
「カッちゃん、今日はありがと」
昼過ぎ。
引っ越しが終わり、父が勝次さんへ言った。
「いやぁどうってことないさ。それより、洋平も頑張れよ!伊吹や愛ちゃんのこと、ちゃんと支えてやれ」
そう言って勝次さんは、父の肩をポンと叩いた。
勝次さんは、私たちが前にいた街の人だ。
ここから普通の車で半日近くかかる。
なのにここまで来てくれたことに、すごく有難く思っている。
「伊吹、社会人なんだからしっかりしろよ!愛ちゃんも成人式近いだろう。写真でも送ってくれな!」
「送れたら送るんで、勝次さんも向こうで頑張って下さいよ」
笑顔で言う私。
この海の見える2階建ての家での生活に、胸を膨らます私がいた。