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櫻木

作者: 西框 清隆

テーマ やわらか

キーワード 季節

非表示ワード 凪


―――もう、忘れてもいいのかもしれない。あれから五年が過ぎたのだから。

マグカップに入ったコーヒーを飲みながらそんなことを考えていた。

当時同棲していた彼が突然、叶えたい夢がある、一年待っていて欲しいと言い残し、この部屋から出ていってから、いつの間にか五年もの時がたっていた。

五年間彼からは連絡は一度もなく、生きてるのかさえわからない。

それでも、もしかしてと思い、一人で暮らすには広すぎて落ち着かないこの部屋を手放せずいる。

部屋の中は、彼が出ていった時のままで、なに一つ変わらない。リモコンの位置すら変えていない。

しかし、五年も過ぎると自分の中にも信じたい自分より、諦めようとする自分の方が気持ち的に上回ってしまい、ついつい不動産屋の前で立ち止まって手頃なマンションを探してしまう。

もう、桜が咲く季節。新しい生活を始めるなら今しかないのかもしれない。

友人からも彼のことは忘れて、新しい生活と恋愛を奨められる。

でも、どうしても諦めがつかない。もしかして、と心に過ぎってしまうから。

風が吹く度、ベランダから見える桜並木の花びらが舞う。

そういえば彼が出ていった日もこんな景色だった。あれから五年も経つだから、そんなこと忘れても良いのに、なんでこんなに忘れられないんだろう。

気付くと、頬を生暖かな涙が伝っていた。


――もう、忘れて、明日不動産屋さんに相談しよう。新しい生活に向いてる部屋を。


そう、思った瞬間だった。

部屋に突然鳴り響くインターホン。私は、驚いて玄関の方を向いた。

「皐月いるか、五年かかったけど、帰ってきた。こんな俺をもし、許してくれるなら、部屋に入れ欲しい」

それは明らかに彼の声だった。五年振りに聞いたあの優しい声。

涙が溢れそうになるのを堪えて拭い、玄関に向かって走り出す。

始めに言う言葉は決めていた。

ドアノブに触れながら、口を開く。

「遅かったじゃない。待ってたんだからね」

「ごめん」

彼の辛そうな声がドアの向こうから聞こえる。

私は、思いのたけをドアを開けながら、一言に託した。

―――おかえりなさい


春風の香りとともに彼を抱きしめた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] こんな短いのに、表現力があり、私の寂しかったと言う感情がよく分かりました。また、ストーリーも良かったと思います。 [気になる点] 素人の自分が言うので、あまりきにしないでください。自分だけ…
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