血の流れ
扉を開くとあの時と同じまた真っ白な空間が広がる
違うのは、探し続けた姿がそこにある事
みんなはベッドで寝かされていた、見る限り負傷している様子はない
全員無事なようだ
「よかった……」
楽観視してた訳じゃない
最悪、皆が人間ではなくなってしまっている予感もあったが
結果は全員無事、怪我人も無しと理想の形
……嬉しい気持ちはもちろんある
でも、その……何と言うか
素直に喜ぶ事が出来なかった
「みんなを上に運びましょうか」
「あぁ……そうだな」
俺の今日一日は一体何だったんだろう
急にみんなを拉致されて、吸血鬼となったクラスメイトに襲われ、白石さんに協力するも失敗に終わる
しかし結果的にみんなは無事
俺達はただ面倒に巻き込まれただけ
俺の体に流れているらしい特別な血
結局、何が特別なのかは謎のまま
真実かどうかもわからない
まぁ、今となってはどうでもいいか
「………」
彼女は次々と友人達を部屋へ運ぶ
顔色一つ変えず、まるで重さを感じさせる事なく運んでいく
――吸血鬼
映画や小説の中の存在、まさか本当に存在するなんて思いもしなかった
実際にその存在に触れて色々わかった
まず見た目は完全に人間そのもの、違うのは瞳が紅い事だけ、それも簡単に偽装できる
だが見た目からは考えられない怪力、それに加え高い自然治癒力
そして人の血を吸う事
ここまではヨーロッパの伝承に記されている吸血鬼と一致する点も多い
けど……俺が出会った吸血鬼は少し違う
太陽の光は苦手だけどニンニク、銀製品とかは大丈夫とか
『紅人』『紅魔』という吸血鬼の中に種類が存在する事
そして何より大きな違いが二つ
人に感染する事
元は普通の人間である事
そう
と、いうことはだ……
『吸血鬼と接触する』
↓
『吸血鬼、紅人に変化』 ↓
『一定の血液を得て紅魔へと覚醒』
↓
『生きる為に血が必要になる』
↓
『また人の血を吸う』
↓
『新たな紅人が生まれる』
早い話が無限ループ
そう、最初は無限ループだと思っていた
しかし白石さんから聞いた話では
確かこのホテルの従業員は白石さんの学校のクラスメイト、そのクラスメイトが全員吸血鬼……
だとしたら吸血鬼は最初から増えていない事になる、白石さん達が行方不明になってから三年の間、吸血鬼が増える事は無かったのか?
そういえば白石さんが言ってた
「血を貰ったら解放する決まりでしょ!」
そうだ、“直接”血を吸われなければ平気なんだ
それなら新しい吸血鬼を生まずに血を得る方法はいくらでもある
つまり、今回の俺達みたいに眠らせた後に地下に連れ込み採血の後に各自の部屋に返していた訳か
でも何か違和感?矛盾?みたいなものを感じる
何でだ……?
「……」
「……あ!」
その時、ある事を思い出したと同時に頭の中の歯車が一斉に回り始めた
いや、でも何で……?
しばらく考えてる内に白石さんが皆を運び終えて戻ってきた
「待たせたわね、さぁ赤嶺君も部屋に戻りましょう」
「あのさ、その前に二つ聞きたい事があるんだけど」
「赤嶺君、気持ちはわかるけど、もう今回の事は忘れた方が……」
「……」
「……わかった、でも話はコテージでしましょう、いつまでもここに長居しない方がいいわ」
「そうだね、了解」
白石さんの個室から少し離れた場所の部屋から地上へと続く隠し階段を進むと同じ様にコテージに辿り着いた
どうやら地下にある控え室は全てコテージへと繋がっているようだ
まぁその方が従業員の人達からしたら楽だよな……裏の仕事が
「プライバシーなんてあったもんじゃないでしょ」
「え?はは……正直バレたらヤバいよね」
「そうね……で、話って何?」
「……あのさ、今までの血を貰った人達は誰も吸血鬼になってないし、その後も無事に帰ってるんだよね?」
「誘拐して血まで勝手に貰ってるんだからそれぐらい人道的に当たり前ね、それがどうかしたの?」
「……やっぱり」
「えっ??」
「白石さん、何か忘れてない?」
「急に何かって言われても……」
「本当に今回は皆無事だった?」
「……あ!!」
「俺、吸血鬼に実際殺されかけた、しかもその吸血鬼は今日一緒に旅行に来てた俺のクラスメイトだった」
「そう……だったね」
「何で今回に限って被害者が出てしまったのか?」
「それは……私が赤嶺君に吸血鬼の事を手っ取り早く信じてもらえるように……」
「白石さんが吸血鬼にした?彼女を?」
「そうよ、どうせ赤嶺君が治せるのなら別に問題ないもの」
違う、彼女は何かを隠してる
でもここまで巻き込まれたんだ
俺には聞く権利がある……筈
「白石さん、それは無いよ」
「な、何でよ……?」
「そんな事したら地上の人達全員に危害が及ぶかもしれない、野放しにするのは危険すぎる」
「確かに、ね」
「そんなの冷静な白石さんなら実行する筈ないだろ?」
「それは……」
「それに俺が襲われた時、少しでも白石さんが来るのが遅かったら多分死んでた」
「う……」
「ギリギリまで粘って助けに行くなんてリスクが高過ぎる、その前の一撃でも運が悪かったら死んでたかも」
「……」
「白石さんじゃないんだろ?」
彼女は諦めたように小さく溜め息をつくと薄く笑みを浮かべて話し出した
「……凄いね」
「え……何が?」
「どこか抜けてて、ビビりで、特に長所も見当たらないと思ってたけど」
いやいや、ちょっと言い過ぎでは……
「楓に突っかかっていった時の気迫や真実を知りたいという気持ち、思ってたより強い自分を持ってるのね」
「い、いや、そんな大した事じゃ……」
「そんな事ない、貴方は私が出会った人の中で一番強い心を持ってる」
「いや、その、どうも……」
何か、凄い評価されてる?
「そんな君に免じて話してあげる、確かに彼女を吸血鬼にしたのは私じゃない」
「一体誰が彼女を……」
「それは……ちょっと……」
白石さんもわからない、か
「じゃあもう一つ気になってる事があるんだけど」
「何?知ってる事なら答えるよ」
「白石さん達は皆吸血鬼だけど元は人間なんだよね?」
「当たり前よ、最初から吸血鬼の生徒なんていなかったわ」
そうだよなやっぱり、そんな生徒がいたら大騒ぎになってるだろうし……
「じゃあ何で白石さん達は吸血鬼になったんだ?」
「……!」
「吸血鬼が人から直接血を吸う事で吸われた人が吸血鬼になるんだろ?だったら最初に一人はいないとおかしい」
「そうなるわね」
「白石さんは覚えてないの?吸血鬼に襲われた記憶とか」
「就寝時間になって部屋に戻ってからの記憶が無いの、気がついたらあの白い部屋のベッドの上だった……」
ん~やっぱりわかんないな
記憶が無くなっていた間に血を吸われたのは間違いないだろうけど
はっきりとした事はわからないが
最初に存在した吸血鬼の考えられるパターンは二つだ
『白石さんのクラスメイトの誰か』
『それ以外に当時ホテルにいた誰か』
後者ならまだ良い
いや良くはないが彼女達は不幸な事故に巻き込まれただけで、好きでこんな生き方を選んでいる訳じゃない
だがもし前者なら
友人達を吸血鬼して、皆の人生を狂わせた人物がクラスメイトの中にいる事になる
……徐々に三年前から続くこの吸血鬼の謎が見えてきた気がする
この謎が解けた時きっと
白石さん達を救うことが――