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Blood type V  作者: ROM
17/19

黒崎 楓

 


部屋を出た先には長い廊下が壁を挟むように続いている



さっきの部屋と比べて廊下はとても無骨


塗装も何も施されていない剥き出しのコンクリートの壁、弱々しい光を放つ天井の蛍光灯



暗くはないが、少し視界の悪い通路




「何か、急に廃虚みたいになったけど」



「雰囲気出てきたでしょ?」


白石さんがクスッと笑う



「勘弁してくれ」




少し歩いて振り返ると白石さんの部屋はもう見えなくなっていた


今のところは誰にも見つからず順調に進めている


というより人の気配がしない、上に出払っているのか



「誰も……いない?」



「チャンスじゃないか、今の内にサクサク進もうぜ」


「………」



「どうかしたの?」



「いいえ、何でもないわ」





何でもない、か





一瞬、彼女の見せた弱気な表情



明らかな動揺



何が彼女の脳裏に過ったのかはわからないが、良いことではないのは確かだ


彼女が頼りの俺としてはこんなに不安な事はない



いやポジティブに考えよう



誰も見当たらないのはラッキーな筈


だって俺の存在を誤魔化さずに進むことが出来るだから



今は進めばいい


何も考えず進めばいい




俺は黙って白石さんの後を歩いた



しばらく歩いて行くと、大きな両開きの扉の前で白石さんが足を止める



「赤嶺君、この部屋よ」


「この中にみんなが?」


彼女は静かに頷く



「私はここで待ってるから」



「えっ、まさか俺一人で行くの?」


「当たり前でしょ」


「いや、無理無理!一緒に来てくれよ」


「誰か来た時、困るでしょ?」


「そりゃ……そうだけど」


「誰か来たらノックするから、適当に隠れてね」



「はぁ……了解」



あー完全にヘタレだと思われてるな俺、でもしょうがないよな




……だって吸血鬼だぜ?




まぁ、そんな事言ったってどうしようもない


恐る恐る扉を開く




「……何だ、この部屋」




目の前には真っ白な景色


そして広い室内に置かれた、これまた真っ白なベッド





……病院?




部屋には誰もいない


あれ?ここにいるんじゃなかった?


辺りをグルッと見渡す、が



んー真っ白、



人どころかベッド以外何も




ん?これって……






辺りが真っ白だからすぐに気付いた


隅の方のベッドの下にポツンと落ちていた黒いチョーカー



いつも見ているから見間違う筈がない


これは春人が着けているものだ



何故こんな所にこれが?




答えは一つしかない


ベッドに手を当てると……少しだがまだ暖かい




やっぱり、この部屋にいたんだ




恐らくみんなここで眠っていたのだろう


問題はその後



みんなどこへ行ったんだ?





とにかく、来るのが少し遅かった


今頃になって白石さんの部屋でグズグズしていたのが悔やまれる





とりあえず、白石さんに報告しないと


チョーカーを手に俺は部屋を後にした






「おかえり、どうだった?」


「誰もいなかったけど……これが」



白石さんに落ちていたチョーカーを見せる




「素敵なチョーカーね、友達の?」


「あぁ」


「いい趣味してるよ、その子」


「そんな事より!どこに行ったか心当たりないの?」



「……ごめんなさい」


白石さんが申し訳なさそうに首を振る



「ど、どうすんのこれから」


「ひとまず部屋に戻りましょう、いつまでもこの場所にいるのは危険だし」


「……わかった」



しょうがないから俺達は白石さんの部屋まで戻った


戻る途中も警戒しながら進んだが、やはり誰とも遭遇する事は無かった


部屋の前まで着いた時、白石さんがポツリと呟いた



「まずいわ、赤嶺君」


「どうしたの!?」



「……やっぱり変なの」


「だから何が!?」





「恐らくバレてるわ、あなたが侵入してる事も、私達の計画も」





「なっ、何でだよ!まだ誰にも見られていないのに!」



「私が聞いた話ではあの部屋にいたらしけど私達が着いた時には誰もなかった、これって偶然かしら?」



確かに少し偶然……と言うか誰かの悪意が働いた気もしないでもないが、本当に偶然タイミングが悪かったんじゃ?



「後、ここに誰も現れない理由もわかったわ」


「理由なんてあるのか?」





「あなたよ赤嶺君」





「お、俺?」



「何度も言ったよね?あなたには吸血鬼を人間に戻す力があると」


「何度も聞かされたけどさ、それと何の関係が?」



「避けているのよあなたの事を、だから私達の前に誰も現れないの」



「え、でもそれって……」



「つまり、白石さんの仲間は人間に戻りたくないって事?」



「いいえ、私の知ってる限りでは人間に戻りたいと思ってる子は何人かいるわ」



「じゃあ何故?」



「そう指示している誰かがいるのよ、一人しかいないけどね」



「そ、それは一体……」



「私のクラスメイトの一人、このホテルの社長であり、私達吸血鬼のリーダーでもある、そして私の一番の親友」


社長?


リーダー?


親友?



親友って、もしかしてあの写真に写っていた?



「彼女に気付かれては、もうお終いよ」


「そ、そんな……何で!?」


「私達は基本的に彼女の言う事に従って動いているわ、実際誰も私達の周りに現れないでしょ?」



「そんな、じゃあ……」



「心配しないで、赤嶺君達の事は私が頼んであげる」


「そんな事、本当に聞き入れてくれるのかよ?」


「大丈夫よ、私の頼みなら聞いてくれる筈だから……無関係のあなた達は必ず無事に帰すわ」



「………」



彼女は落胆していた


かけられる言葉なんてない




「じゃあ行きましょうか……」


「あ、あぁ……」




先程の真っ白な部屋を通り過ぎ、角を曲がると広いフロアが、その先には赤色の扉





――コンッ



――コンッ、コンッ




白石さんが何度か扉をノックする





「……どうぞ」





白石さんと顔を見合わせる


「大丈夫よ、行きましょう」




ゆっくりと扉は開かれ、部屋の主が姿を現した





「あなたが赤嶺君?」



「は、はい」



「はじめまして、このホテルのオーナーをさせて頂いてます黒崎 楓と申します」



黒崎 楓と名乗る彼女はやはり白石さんと共に写真に写っていた人物だった


赤みがかった茶髪に可憐なルックス、あの写真から出てきたかの様に全く同じ制服姿で



「楓、赤嶺君のクラスメイトをどこにやったの?」


「希ちゃーん、お客様の前ではオーナーって呼んでっていつも言ってるでしょー」



「質問に答えて!」



「今は部屋でお休みになってるわ」



「血を貰ったら解放する決まりでしょ!」


「希も決まりを守ってないじゃん、ダメだよ部外者を連れてきたりてー」


隣で見ていると女子高生が些細な喧嘩をしている様にしか見えない、物騒なワードが混じっていなければな



「……私が諦めればいいんでしょ?だから彼の友人達を解放して」


「別に危害を加えるつもりは無いし、今まで通り無事に帰すってば」




「あ、そうそう赤嶺君、ここで見聞きした事は内緒だよ……まぁ誰も信じないと思うけどね」



「………」




これで全て解決したのか?


本当に……これで……






「黒崎さん!」



「……なに?」



「皆で人間に戻ろうとは思わないんの?ずっとこの場所で生きていくのが本当に幸せなのか!」





「……人間ねぇ」





「赤嶺君、もういいよ、早く助けに行きましょう」


「楓、皆はどこにいるの?」



「……隣の大部屋、鍵はそこにおいてあるから」


「さぁ、行くよ赤嶺君」


白石さんは鍵を手にして、俺は彼女に引っ張られる様な形でこの部屋を後にした









「………」







――無理だよ


――人間になんか戻れないよ





だって私は――





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