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Blood type V  作者: ROM
16/19

吸血鬼と失踪者

 



コテージの床にあった隠し扉、地下へと続く階段の先には謎の小さな部屋があった



このホテルの地下は従業員の活動スペースになっているらしく、この部屋は白石さんの個室なんだとか



この地下に友人達がいるらしいが……










「俺、このまま部屋から出ても大丈夫なのか?」


「ちょっと待ってて、準備するから」






「……今度はおとなしく待ってなさいよ」





そう言って彼女は部屋から出て行った



一人に戻ってしまった、今日はなんだか誰かを待ったり待たせたりする事が多い


待つのは得意じゃないけど、またぶっ飛ばされるのは嫌だし、とりあえずおとなしく待ってよう




「……」



他人の部屋に一人っていうのは落ち着かない、ついキョロキョロと辺りを見回してしまう


しかしこの部屋色々揃ってるな


普段の生活に必要なベッドや冷蔵庫、それにエアコンやテレビ等のちょっと高価な物まである


控え室にしてはとても豪華だ、休憩の時だけに使うには見えない、余裕で生活できる水準だ





少し喉が渇いたな、ちょっと飲み物を分けてもらおう


悪いと思いつつ勝手に冷蔵庫の中からジュースを取り出した


甘いのばっかり入ってたな……まぁ疲れた体には丁度いいかも







「ゴクゴクッ」



「………ふぅ」





渇いた喉を潤し、体にひんやりと涼しさが漂う


不安や恐怖が薄れて、代わりにミルクティーの優しい甘さが脳内を満たしていく



ゆっくりと体から緊張感が抜ける



ほら、仕事終わりの一杯は最高に美味いとか言うだろ?あんな感じ



完全にリラックスモード



実際は仕事も何もしてないけど


そういえば俺は結局何をすればいいんだろう?


白石さんからは俺の血が吸血鬼を浄化する力がある事しか聞かされてない、具体的に何をするかは曖昧なままだ



やっぱり血を飲ませればいいのかな?





……それ何か気持ち悪いな






そんな事考えながらまた辺りを見渡していると壁に張られている一枚の写真に目が止まった



写っていたのは制服姿の女子生徒が二人



写真左の笑顔でピースしている子、髪が今より少し短いが多分白石さんだ、顔は今とほとんど変わっていない



写真左の子は赤みがかった茶色い髪がとても綺麗だ、顔立ちは白石さんとは対照的で明るくて活発そうな印象



二人は同じ学校のクラスメイトで、きっと仲の良い友達なのだろう、それはこの写真を見れば容易に想像できる





という事は白石さんの隣に写っている彼女も……




三年前の行方不明者の一人?



「ねぇ赤嶺君」



「!!」



振り返ると白石さんが大きなカバンを抱えて立っていた


「……お、おかえり」


「それ、何持ってるの?」


「あ……!」



白石さんに持っていた写真を一瞬で奪われた


と言うより気付いた時には既に写真は彼女の手元にあった、これが上位の吸血鬼の力なのか



「あなたも薄々気付いているでしょう?」


「え、何の事?」


「あの封筒の中を見て気になる事がなかった?」



封筒の中、確か書類には三年前の事件と白石さん達に関する事が書いてあった



「あれって白石さんが行方不明者の一人って事だよな」


「それはよほどのバカ以外なら理解できる事ね、他には気付かなかった?」


他にも……?




あの書類は白石さんが俺を呼び寄せる為に彼女と三年前の事件の関連性を記したものじゃないのか?




「いや、特には何も……」


「従業員のリストをもう一度よく見て、何か気付く筈よ」


「……わかったよ」



白石さんの言われるままにもう一度、封筒を開き、従業員のリストを見直してみた




しかし何も気になる点は無い



知ってる名前がある訳じゃないし、従業員の年齢もみんな少し若いだけで……




「……!」



偶然なのか


これに書かれた従業員の年齢……



「やっと気付いたようね」



従業員の年齢が片寄りすぎてる、白石さんを含めほとんど18才か19才


全体の約九割ぐらいの人が同じ世代、普通ならあり得ない状況、だけどこんな事が起こり得る理由を俺は知っている



そう、これで全て繋がる







――三年前の行方不明事件






失踪したのは当時高校一年生の約30名


その内の一人、白石さんは今こうしてこのホテルで働いている


そして彼女と同じ世代のホテルの従業員



これらの情報から考えるに導き出される答は一つ




「まさか、このホテルの従業員は皆……」



「そう、皆私のクラスメイトよ」





「な、なんで白石さん達が……いつからここで?」


「一年前のオープンの時から」


「今までどうしてたんだ?三年前に何があったんだ?」



「それは……いずれ話すわ、とりあえず私の目的は理解できたでしょ?」



「……あぁ」




彼女は言っていた、救えるのは俺しかいない、友人達も『私達も』


つまり、このホテルの従業員全員が吸血鬼だって事だ



「驚いた?」


「……そりゃもう」



俺は今や吸血鬼達の生活の場に足を踏み入れているのだ


今でもあの紅い瞳を思い出すだけで吹雪に包まれた様に身体中が震え出す


やはり死の恐怖なんて簡単には消せやしない、先程の余裕なんて一瞬で消え去ってしまった




どうしてもあのコテージで起きた事が脳裏から離れない


あの刃がおれの胸に振り下ろされる光景が何度も再生される




体があの恐怖を覚えているんだ……




「大丈夫よ」





彼女は震える肩に優しく手を当てる







「赤嶺君は私が絶対に守ってみせる」



「白石さん……」



「だからお願い、私に協力して」





……大丈夫だ信じるんだ彼女の事を、何より自分自身を


俺は皆を助ける為にここまで来たんじゃないのか?結局、吸血鬼には会う事になるんだ、ここで怖じ気づいてどうする


どっちにしても友人達を助けるには彼女の協力が絶対条件


俺達は友人達を助けるという共通の目的がある、二人で協力すれば、きっと……




「大丈夫、逆にやる気出たよ……白石さんの友達も絶対に助けるって」



「ありがとう、赤嶺君の友達もきっと助けてみせるわ」





気づくと体の震えはもう止まっていた







「じゃあとりあえずこれに着替えて」



白石さんはカバンの中からホテルの制服を取り出した



「なるほど変装か」


「さぁ、早く着替えて」


「いや、あの……」


「……私は後ろ向いてるから」




言われた通り素早く制服に着替えた




「もういいよ白石さん」



彼女は振り返り、爪先から顔へとゆっくりと視線を移す



「ふふっ、制服中々似合ってるよ」



「そうかな?」



「馬子にも衣装ね」



「あ、ありがとう」



「じゃあ行こうか……赤嶺君、私から離れちゃダメだよ」



彼女はゆっくりと扉を開いた、目の前には長い廊下が続いている










もう覚悟はできてる


俺は強く最初の一歩を踏み出した




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