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Blood type V  作者: ROM
12/19

~紅い瞳~

彼女に会いに中央エリアまで戻ってきた



ディナーイベントもそろそろ終わりが近いようだ、ステージ前では既に食事を終えて会話を楽しんでいる人達もいる


だが


やはりその中に友人達は見当たらない




会場の入口手前にはもう見馴れた長い黒髪の少女がたたずんでいる


彼女は自動販売機に背を預け天井を見つめていた、蒼白い光に照らされミステリアスな雰囲気を漂わせている



これで彼女に会うのは三度目、彼女とは何か縁があるような気がしてならない







……もちろん悪い意味で




「白石さん……」


「………」


「聞きたい事があるんだ」


「………」


彼女は一言も喋らない、まるで俺の事など気付かないように、ただ蒼白く照らす照明灯を見つめ続けている



「白石さん、三年前の事だけど…」




封筒の中の事を話すと彼女はようやく言葉を口にした、僅かに聴こえる程度の小さな声で




「赤嶺君、今は部屋に戻って」


「な、え…何で…?」


「私も後で行くから……早く」



何で部屋に戻らないといけないんだ?理由を尋ねるも彼女が再び口を開く事は無かった



「わかったよ……戻ればいいんだな」



今は何か都合が悪いらしい、ホテルの仕事がまだ残っているのかもしれない、ここは彼女の言う事を聞いておこう









結局、彼女から何の情報も得られないまま部屋に戻る事になった



部屋に戻る途中、一応友人達の姿を探すがやはり誰も発見できない、代わりに他の人々の楽しそうな姿だけが目に写った





久しぶりに皆で集まって、話をして、一緒にご飯を食べて、これから楽しい時間を過ごせると思っていたのに……


知らない誰かの楽しそうな笑顔や声、ホテル内を優しく包み込む蒼い光も、今はただ虚しさを強くさせるだけ





文字通り「ブルー」な気分






部屋に入っても誰もいない、誰も話し掛けてくれない


これほど孤独と不安を感じた事は今まで一度も無かったんじゃないだろうか




「………ハァ」


考えていても答なんか出ない、信じるしかない、皆を








しかし遅いな……



具体的に何時に来るとは聞いていなかったからしょうがないけど、状況が状況だけに正直一人でいるのは心細い、


どうしても集団失踪事件の事を思い出してしまう




……本当に彼女は三年前の事件に巻き込まれていたのだろうか?



部屋で一人考え込んでいると突然――




ガチャッ!




「何だ…今の音?」



隣のコテージから聞こえてきたような…



「……あ」



今の音ひょっとして鍵を開ける時の……




もしかして誰か帰って来たのか?



そうだ、きっとそうに違いない!


待ちわびた再会の予感に自然と足はその音の方へ向かっていた






早く安心したかった―



だから何も考えていなかった―



あの時少しでも冷静だったなら―






「おーい!誰かいるのか!」


勢いよく扉を開けて中に入る


そこにはいつも見慣れたクラスメイトの姿があった




「赤嶺君、どうしたの?」


「はぁ、良かった…無事で」



緊張からの解放、全身の力が抜けていく



「心配って何の事?」


「いや、いつまで経ってもみんな帰って来ないから心配したんだよ……あれ、他に誰もいないのか?」


「うん、この部屋には私だけだよ」


「そっか…」


…ん?あれ?






――この部屋?






「なぁ、ずっと一人だった訳じゃないんだろ?」


「そりゃそうだよー」


「最後に会ったのって誰?」


「ん~班長の玉井さんと夜まで一緒にいて、その後すぐに私はここに来たよ」


「二人だけで?他の人は?」


「うん、ずっと二人だよ、他に学校の子は見なかったな~」


「……ふーん、本当に?」


「本当だって~赤嶺君急にどしたの?」



何だ、この肌に薄く張り付くような気持ち悪い違和感は、何かすっきりしない、胸騒ぎがする






「この部屋ってさ、黒木達の班が泊まってる部屋なんだ」


「……そうだね、知ってるよ」






「あのさ、鍵掛かってなかったか?」







「……!!」


「え…と…それは…」


「俺、全員の班のコテージ調べたんだ、夜の時点で鍵が掛かってない部屋は一つだけだった、その部屋も最後に俺が鍵を閉めて出たから全ての部屋の鍵は閉まっていた事になる」


「………」


「お前、何でこの部屋の鍵持ってるんだ?この部屋に何か用事でもあるのか?」


「…え…ぁ、そうそう!部屋に戻る時に黒木君にたまたま見つかっちゃって、荷物持ってくるように頼まれたんだ」






何で……嘘をつくんだ


何故本当の事を話してくれない……






「……嘘だ」


「…う、嘘なんかじゃないってば!」


「お前言ってたよな……」



「ずっと玉井さんと一緒にいたって、他の人には会ってないって!」









「そ、それは……あの…」


「何を隠しているんだ?本当の事を教えてくれよ」


「ぅ………」




彼女は何も答えずにずっと俯いていた、その内、息が荒くなりガタガタと小刻みに震え始めた、明らかに様子がおかしい




「ハァ…ハァ……」


「な、おい大丈夫か!」



直ぐに駆け寄って彼女の震える肩に手を当てる



「どうした!具合でも悪いのか?」




「うぁぁぁああああ!」






凄まじい雄叫びと共に彼女の華奢な拳が俺を捉えた、痛みを感じてから気付く程の圧倒的な初動の差、とても避ける事なんてできなかった


激しい衝撃と同時に体が宙に浮いた


今まで味わったことの無い浮遊感、自分が宙に浮いてる事をはっきりと理解できる位、時間の流れが遅く感じる


そのスローモーションな世界は背中に走る衝撃によって途絶えた




――ガシャーン!



俺はまるで強力な引力に引き寄せられるように勢いよく食器棚に激突した


辺りにガラスや陶器の破片が散らばる



「ぐぅ……い…痛ぁ……」



何が起きた?今何が起こっている?


……身体中が死ぬ程痛い、意識を保つのがやっとだ



痛みを堪えて何とか壁にもたれ掛かり立ち上がる、グチャグチャになった視界の中に写った人影、



「ふは、あははははははははは!」


「賢いね~赤嶺君は」


「………!」


「もう面倒くさくなっちゃった♪」


「…ハァ…何を…言ってるん…だ?」


「ごめんね赤嶺君、私の理性がある内はなるべく傷付けたくなかったけど……」


「何の…事だ……」


「もう駄目みたい、ねぇ早く頂戴アナタノチヲ」




「おい…?今、何て言った…?」




彼女はゆっくりとした足取りで近づいてくる、こんな状態じゃ逃げる事なんてできない、じりじりと距離が縮まっていく


そして鼻先10cmの所でピタリと



彼女は止まった



そしてゆっくりと



その目を見開いた




「……!!」




全身の血液が凍りついていく


身体中から痛みが消え、代わりに凍え死ぬ程の寒さが襲う




「な…何だよ………その目…」




見開かれた鮮やかな――紅い瞳




ふと白石さんの言葉が蘇る





――今夜、貴方の前に現れる





本当に存在したのか


今、目の前にいるのが


彼女の言っていた……




――吸血鬼






彼女は紅い瞳を一際大きくさせると食器棚から落ちて、床に転がったナイフを拾い上げそれを振りかざした



殺される……!



わかっていても体が動いてくれない、爪先から頭まで完全に恐怖で凍り付いている、直前に迫る死の恐怖から自分を守る事ができない




そして振り上げられた凶刃が、今ゆっくりと降り下ろされた――






また空間がスローになった


懐かしい映像が頭に流れ込んでくる


今度のは知ってる、あのよく過去の記憶が一瞬の内に蘇るっていうアレだ


何て言ったけな……



あ、そうだ確か走馬灯だっけ



そっか、俺死んじゃうんだ………







目を閉じる瞬間、誰かが俺の名前を読んだような気がした……





――グシャッ!!





部屋中に嫌な音が響き、真っ暗な世界が広がった




一筋の光も見えない暗黒


だけど微かに音だけ聴こえる、


ドクンッドクンッと跳ねるような……










あれ、これって……




恐る恐るゆっくりと目を開く



「アレ?…生きてる…」



絶体絶命のあの状況、流石に死を覚悟していたが俺はこうして生きている


だが体に残る激しい痛みがあれが夢では無かった事も同時に示していた




「………」




そこには不機嫌そうな黒髪の美女――



「…し…白石さん?」





「全く、なんで部屋で大人しく待てないの……?」





彼女の足元には先程の吸血鬼が横たわっている、



まさか……




――彼女が助けてくれたのか?





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