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低温滅却 ―フリーズドライ―

小説家になろうの前のアカウントの時に載せたかもしれない。

サークル用に書いたものを改訂したバージョンです。

やはり過去作品はハズイ……。


 ――― ユウリと一緒に生きて ユウリが死ぬその時まで ――


                      雨宮 有理(あまみやゆうり)



 ユウリは複雑な女の子だ。

 家庭環境、趣味嗜好、容姿服装、性格人格、たしかにそれらも複雑だ。でも彼女が複雑だという所以は、その心の奥底にある闇の濃さだと思う。

 でも僕は彼女を美しく、愛おしいものだと感じている。

 幼いころからの両親の変態的な暴力で、顔や身体に無数の切り傷を持ち、取り分け死や暗い話に興味があり、いつも全身真っ黒の燕尾服を着て、常に無口でクールに振舞うと思えば、気に入ったモノにはナイフで襲いかかる習性なんてものもある。もちろん超絶笑顔で。

 しかし、それらの要素は彼女の美しさを引き出させるためのスパイスでしかない。

 体中についた傷は彼女の妖艶さを醸し出すことに一役買っており、死や暗い話をさせれば彼女はとても生き生きとした素晴らしい笑顔を見せてくれ、全身黒の燕尾服で男装する彼女は短い黒髪もあいまって少年のようにも見えるが、それこそ逆に溢れ出る彼女の魅力を品の良い領域で押さえつけている。

 彼女が無口でクールな普段から、斬り裂き魔に変貌する時の姿と言ったらもう……身もだえしてしまう。

 彼女に襲われて昇天しない男などこの世にいない。僕は声も高々にそう言いたい。なぜなら、毎回襲われる後は人生で最高の心地なのだから。

 そうだ、またユウリに斬り刻んでもらおう。そう思い立ったら何故だか無性に身体がむずむずしてきた。それじゃあ今すぐにユウリの部屋へ―――

「ユウリの部屋が、何?」

「ほうわぁ!」

 部屋全体が軋む音と共に、僕は椅子ごと後ろに倒れこんだ。日頃から付けているユウリ日誌を書いている途中に後ろから人の声がしたのだ。驚かないわけがない。

 それよりもだ、今聞こえた声には聞き覚えがあり過ぎて、誰だか断定したくないと耳と脳が叫んでいる。

 それでも好奇心旺盛な僕の眼は勝手に首を動かし、その声の主を見据えた。

 ため息一つ。あ、これは後ろめたさとかじゃなくて、美しいものを見たときの感動のため息。

 ユウリが背後に美しくたたずんでいたから。

 ユウリはそんな僕を見ずに、僕の部屋の机に置かれていた日誌に歩み寄り、ぱらぱらとページをめくって見始めて……何ですと?

「ちょ、待ってユウリ! こ、こ、これにはマリアナ海溝より深い訳が―――」

 ひゅばっと顔の側面を何かが掠める音がした、と思うと、いつのまにか自分の頬にぱっくりと切り傷。

「な、な、な、なんじゃこりゃああああああ!?」

 顔を掠めて背後に飛んでいったものを確認。

 コ○ト社製の某投げナイフ、全長二十五センチ、それが壁にしっかりと根を生やして突き出ていた。

 そんなユウリのお茶目な? 抵抗に僕は唖然としつつも、ユウリのそんな行動に見惚れていたのも事実だ。

 ユウリは僕の書いたユウリ日誌を読み切り、パタンとその分厚い日誌を閉じると、僕の方を向いて呆れたような顔をする。

「君はまだこんなことをしているのか? ユウリのことなんて書いても面白くもなんともないだろうに」

「そ、そうかな? ユウリは見ていて飽きないし、ユウリのことは初めて会ったときから好きになってしまったしね。僕はユウリが大好きだよ」

 僕はユウリを強調して、そう恥ずかしい告白をした。

 でもそれは僕の正直な気持ち。僕がユウリを愛する気持ちに澱みなど入る余地などない。

 ユウリは一呼吸置いた沈黙の後、その告白に頬を掻きながら少し動揺している。

「……やはり君はユウリのことが好きだったんだ。まいったな、私はどうしたらいいんだ?」

 ユウリには珍しい澱み方。いつもは冷静になんでも受け止めるユウリが、こういう反応を示すときは真面目に考えてくれている証拠。

 二人の行く末についてどういった意見を出したらいいか思案してくれているのだろう。

「ああ、でも気にしないで。僕はただユウリが好きなだけだから。ユウリとどうこうしたいだなんて考えていないし、これが叶わない思いだってわかっているから」

 これをあまり深刻にとらえられては困るから、僕はできるだけおどけた風にこの話を切った。

 ユウリはまだ言いたいことがあったのだろう。一度口を開きかけたが、僕が話を茶化した時はその話を続ける気がないとわかっているから、ユウリは口を閉じて黙った。

 そして、その代わりなのだろうか。ユウリは僕に普段あまりくれない言葉をくれた。

「ありがとう」

「え……」

 僕は耳を疑った。ユウリがお礼を言うことなんてありえない。ユウリは誰に対しても悪い意味で平等だ。誰かに感謝する感情の振れ幅は持ち合わせていないはずだし、お礼の言葉を知っているかどうかも怪しかった。でもユウリは僕にお礼を言ってくれた。

 お礼を受けた僕が硬直しているのを見て、ユウリは少しムスッとした顔になる。

「私は確かに礼をする意味など知らない。でも何故だかユウリを好きになってくれた君にそう言いたくなったんだ。理由なんてないよ」 

 ぶっきらぼうに言うユウリの言葉が嬉しかった。その感情だけが今の僕を埋め尽くしていたのかもしれない。

 僕はそれだけよかった。極たまにでいいから二人の心と触れ合っていればそれでいいと。そう思っていた。

 でもその時僕は、迫りくるユウリの死に何一つ気が付けなかった。今日一緒に話していたユウリが、自室で冷たくなって発見されるその時までは。


       ■□■□


 僕が雨宮家に使用人見習いとしてやってきたのは今から少し前。僕はまだまだ子供で、何一つ自分で生きていけるような力は持っていなかった。

 雨宮家でやっていけるのか不安で不安でたまらなかった僕だったが、その時にあの二面性を持ったユウリ、そして厳しいけど優しいユウリに会った。

 ユウリは今まで僕の会ってきた人間の中では異質な存在であったが、同時に今まで会った中で一番美しい人間でもあった。

 僕たちは必然的に友人という関係になっていったと思う。周りの人間が言うには、雨宮家の人間と仲良くなることは大変難解であることらしい。雨宮家の人間は世間とはズレているそうだから。

 仲良くなれたのは僕がズレているからだろうか。そう思っていたけど、ユウリ達に聞くと、僕はズレているのではなく、壊れているのだと言われた。

 でも僕はユウリ達と生きていけるのなら壊れていても構わないと思った。彼女らほど魅力的な人間などこの世には存在していないと、僕は狂信的な感情を注いでいた。

 でも今日ユウリは死んだ。それでも雨宮家は冷淡だった。ユウリの葬式などしないし、涙一つ流す人もほとんどなく、未だユウリは自室に寝かされているままだ。

 そのユウリの死の後、僕は茫然としたまま街の中を歩いた。

 何時の間にか、まわりは見たこともない光景が広がっている。見たこともない街、見たこともない人達、そして、見たこともない店がそこにはあった。

「こんな所に店?」

 木製の看板に店名が書かれており、それに付属するようにかみ合った大小の歯車を模した時計の飾り。

 一目見てその店に興味を惹かれた。茫然自失に陥っていた僕には丁度いい気分転換だと思って。

「いらっしゃいま――ほわ!」

 店の奥から走り寄ってきた和装の店員が見事なヘッドスライディングを決める。これはかなり痛そうだ。

「大丈夫かい?」

 何故だか可哀想だったから僕はその店員に手を貸して起こしてやる。「あ、ありがとうございます」と礼を言いながらその店員は僕の手を掴んで立ち上がった。

「あ、お客様ですか? すみません、今店長出て行っちゃったみたいで……」

「ああ、いいよ。僕は少し気分を変えたいだけだから」

「はあ、気分を変えにですか……」

 僕は和で統一された店内に置かれた様々な物品を、嫌なことをふっきるかのように隈なく見ていく。とりわけ真新しいものがあるわけではない。でも何かが気にかかるような品の雰囲気。

「ここは。灰色領域(グレーゾーン)にある想いと想いを巡り合わせる場所。お客様の巡り合いたい想いに出会えるかもしれませんよ」

 その小さな店員さんは暗い表情の僕にそう店の紹介をした。「いつか自分の店を持ったらそう言いたいんですけどね」とその後に、照れくさそうにしてそう付け加えたのだけど。僕はそれに「叶うといいね」と微笑んだ。

 そして、視線を商品に戻し、それを見つけた。

「有、理?」

 白い封筒に雨宮有理と書かれた手紙。宛名は……僕宛てだ。

「――店員さん、これは?」

 いそいで僕はその封筒のことを店員に聞いた。

 店員はその封筒を見ると、「ああ」と感慨深げに頷く。

「それは売り物じゃないんですよ。いつでしたか、綺麗な方が来店された際にこれを置いて欲しいと言われたんです。私の大事な人が取りに来るからって。

 こちらとしては断る理由もないし、一応置いてあるんですけどねえ……その大事な人は取りに来ない。どうしたものでしょうか」

「この手紙の宛名は僕の名前だ。この手紙を置いていった人は頬に切り傷があって、綺麗な短髪の黒髪、全身を覆うような黒い服を着ていなかったか?」

「え、ええそうです。ということはあなたがその―――」

「うん……開けてみても良いかい?」

 僕は興奮しながらも店員にそう言った。店員はその僕の剣幕に押されながらも、一度だけ頷いた。

 僕はその封筒をもどかしくも開け、中に入っていた便箋に書かれた文章を目でたどった。

 その文章を読むなり、僕は足元が崩れるような感覚を覚えた。

 ユウリの残した手紙はあまりに衝撃的で、哀しすぎて、胸の中が締め付けられる。

 強く自分の胸を押さえながらその文章を僕は反芻した。それは僕が知っておかなければならない酷い真実なのだから。

 ユウリが書いた手紙の内容は雨宮家の現実。ユウリ達子供に行っている非人道的な遊戯。

 遊戯とはすなわち子供たちに対する暴力。いや、『暴力』でも優しすぎる行為の数々。えずきながらも僕はそれを読み進めると、それはもう雨宮の狂楽の羅列であった。

 そして、わかった事実はそれだけではなく、今の雨宮の実子は今のユウリの代で四代目だということ。それはユウリ達以外に少なくとも三人の子供が犠牲になっていることになる。

 身体中の血が沸騰しているようだった。小刻みに僕の体は震える。

 でも、最後に追記された形でユウリの言葉が書かれているのを見て一気に怒りが冷めた。



 ―――親愛なる君へ、この手紙を読んでいる頃は私は死んでいるのだと思う。今までの文を読んでもらえば分かるはずだけど、雨宮家の兄弟たちは僕達のように暴力という嗜好のはけ口として生まれた。

 でも僕たちは生まれてからそうだったから、それを苦だとは思わなかった。それが当たり前だったからね。でも君と出会ってそれは変わった。

 ユウリは君のことを好きになったし、前よりユウリは人間らしくなれた。それは君の功績だよ。君はユウリと言う存在を救いあげてくれた、でもそれは壊れた君にしかできなかったんだ。これは運命だとね。

 もし、万が一私が死んでいなかったら、ユウリの運命を君に託したい。それが一番の願いだ。

 ああ、手紙は難しいね。うまく書けないよ。だから、最後に一言だけ。

 

「ユウリと一緒に生きて。ユウリが死ぬその時まで」


 僕はその最後に書かれた文章を口に出しながら、その場に泣き崩れた。ユウリが残した最後の言葉。僕はそれに何度も頷いて誓った。     

 ユウリの手紙を抱きしめて、時間が止まったかのようなこの不思議な店の中で。

「大丈夫ですか?」

 いきなり泣き出した僕を心配そうに見つめる店員は、そう言って僕にハンカチを渡す。

 渡されたハンカチを持って受け取って小さく首を縦に振った。

 だが、ここで何時までもこうやっている場合じゃない。僕は泣きはらした顔のまま立ち上がった。

「店員さん、この手紙もらってもいいかな?」

 僕は精一杯作った笑顔でそう訊ねた。

 その申し出に店員は朗らかに笑うと。

「いいですよ。やっぱり商品は貰うべきお客様に貰われないと」

「ありがとう。じゃあ僕はこれで」

 ユウリの手紙を懐にしまうと、僕は店を後にしようとした。

「あ! ちょっと待ってください!」

 店員は出ていこうとする僕を引きとめ、メモとペンを渡してくる。

「ここに今住んでいる住所と名前を書いてください。訳は聞かないでくださいよ。これは秘密なんです」

 意味ありげに店員は言ったが、少し疑問に思っただけで僕はそのメモに自分の本名と、ずいぶん昔に住んでいた家の住所を記入した。

「これでいいかい?」

 書いたメモを店員に渡す。  

「これが何か?」

「いいえ、またのお楽しみです」

 にやにやと笑いながら店員は奥へと下がっていった。

「あ、そうだ! 君の名前は?」

 何故だがその店員の名前が知りたくなり、思わず聞いた。

 店員はさわやかな笑顔を浮かべて。

「ボクの名前はカイ。そう覚えておいてください」

 それを聞いて僕はその店を出た。


 雨宮家の僕の自室で、僕はどうやってこの家を潰すのか思案していた。

 雨宮家の暗部の証拠はユウリが残した封筒に同封されていた。雨宮家を社会的に裁くことは可能だ。

 しかし、この家の住人がそれごときで動じることはないだろう。雨宮家の人間は普通の人間とは違うのだ。罪の意識もないし、法の罰も効果が薄いに決まっている。

 となれば残るのは奴らが重きを置いている物を重点的に攻めることぐらいだろう。

 ――それは一体何なんだ。

 僕は頭を抱えてユウリの手紙を何気なしに見た。


 ―――ユウリトイッショニイキテ―――


「―――そうだ、ユウリと一緒に生きていけばいいんだ。奴らの悦びを奴らから奪ってしまえば」

 僕は深い深い眠りについたユウリの所へ向かう。

 ユウリの自室に入り、彼女の冷たい身体を抱き上げると、僕はそのまま雨宮家を出ていくことを決意した。

 

       ■□■□


「パパさま~こっちこっち!」

「こらこら悠奈(ゆうな)、そんなに走り回ったら危ないよ」

 僕は雨宮家から拝借した金品で、昔住んでいた家を買い取り、二人で……いや、今は三人で住んでいる。

 雨宮家の行っていたことの証拠を様々な所に流した後、奴ら一族を法の場に。

 そして、僕がユウリを彼らの手から奪ったことで、奴らは自分たちのエゴの行先を失った。ざまあみろといってやりたい。

 でも、ユウリの死は奴ら全員の死ですらあがなえない。ユウリの存在は僕にとって、僕たちにとって大きなものだったのだから。

「悠奈、ほらこっちへ」

 それでも僕には彼女がいる。

 雨宮にいた頃よりは幾分か柔和になった笑顔は、以前僕に向けていたサディスティックな笑みよりも魅力的に映る。

 雨宮の残した傷跡はまだ全身に残っている。それでも、彼女は外に出てから美しさに磨きをかけたようだ。

 正直、汚れた僕には眩しいほど彼女は輝いている。

 愛しい我が子をその手に抱きしめて、母親の顔になった彼女を見つめながら、僕はゆるやかに笑んだ。

「ユウリ、悠奈、今日の夕飯はどこかへ食べに行こうか?」

「いいのかい? 今日は特別な日でもないだろうに」

「おでかけ~? ゆうなもいく~!」

 僕はこの生き方をずっと続けていこうと思う。今日はそれを決意した記念日。だからどこかへ行こう。そう言ったらユウリは「やっぱり君は壊れているね」なんて返される。

 でも悠奈が喜んでいるからよしとしよう。

 「郵便で~す!」

 なんと、珍しいこともあるものだ。知り合いなどほとんどいない僕たちに郵便が届くなんて。

 僕は郵便配達員の声のする方へ向かう。

 そこにいたのは何年か前に見た顔。確か、カイといったか。

「久しぶりだね、数年は経っているのに君は変わらないな」

「ええ、まあ。そういう人間なんで。ああ、それよりも手紙ですよ。前ご来店された時に書かれた住所の通りに持ってきましたからね」

「手紙、誰から?」

「ええと……雨宮有理さんからです」

 長い間聞いていなかった名前。でも何故だか何時かもう一度聞くことになるだろうと思っていた名前。

「そうか……秘密とはこういうことだったんだね? うん、ありがたく読ませてもらうよ」

「ええ、ちゃんと読んであげてください。では、機会があったらまた店に来てください。サービスしますよ」

 跳ねるようにカイは去っていった。最後まで不思議な子だ。

 僕はそれを見送った後、ユウリを手招きして呼び寄せた。

「何?」

「有理から手紙届いたんだ。一緒に見るかい?」

「―――有理から?」

 ユウリは驚きながらも僕の後ろへ回り、僕が広げた手紙を見始める。



 ―――これを読んでいるということは、君が悠里(ゆうり)を雨宮から救い出してくれたということだろう。僕はもう一度お礼を言いたい。

 ありがとう。

 話は変わるけど、雨宮は双子の兄である私と悠里を見分けることが出来なかったが、君はわかっていたんだろう? 本当は悠里があの日死ぬはずだってことを。

 君には済まないと思う。いくら悠里のためだとは言え、私が悠里の身代わりになったことは君に大きな負担を強いてしまったかもしれない。

 でも私は兄として、双子の妹である悠里と、君に生きていて欲しかった。

 許してくれとは言わない。これは私のエゴだからね。

 短くなるがここまでにしよう。これ以上書き続ければ、山のような手紙を君に送りつけてしまいそうだ。

 私にこうまで思わせたのは君だよ。君がいてくれて本当に良かった。

 最後に悠里へ、私は兄として何も君にできなかったが、君だけは人間らしく幸せに生きてくれ。そして、私が出来なかったことを飽きるほどやればいい。そして―――


「「またいつか三人で会おう。先に行って待っている。じゃあね」」


 悠里と共に最後の一文を読み終えると、僕は手紙を閉じた。

「有理……私、私は――」

 手紙に全て目を通した悠里は、黒い瞳からぼろぼろと涙を零して僕にしがみついた。

 涙に震える悠里を僕は抱きしめながら、有理の言葉を噛みしめる。

「いつか、いつか有理の墓参りに行こう。悠奈を有理に見てもらうんだ。僕たちは今幸せに生きていますって」

「―――うん……うん!」

「パパさまとママさまないてるの? どこかいたいの?」

 抱き合ったまま静かに泣いている僕たちを悠奈は心配そうに僕らを覗き込む。

 僕と悠里はその言葉に泣くのをやめ、悠奈を抱きしめて力強く笑う。

 有理が残した言葉を胸に、僕たちは生きていこう。何時までも、どんなことがあろうとも。


 白い手紙が風に揺れて、僕たちは蒼い空に希望を見出す。

 

 また有理と出会うことを祈ろう。


 この、果てない輪廻の繰り返しの中で…… 

                        


                        

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