表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品には 〔ボーイズラブ要素〕が含まれています。

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

夏、墓参り、俺。幼馴染はたぶんゾンビ【2000文字】

作者: 有梨束
掲載日:2026/01/10

去年死んだ幼馴染が生き返った。

いや、正確に言うと墓の中から蘇って、出てきた。


ガキの頃の遊び場だった山の上に墓が並んでいる。

その1つ、『侑』が眠っていたはずの墓の下の地面にがっつり穴が空いている。

目の前には砂まみれの侑が、立っている。

「うちの村って、土葬だったんか…」

「ツッコむとこ、そこじゃねえ…」

「とりあえず、服着ろよ。あ、ゾンビって素っ裸でもセーフか?」

「アウトだろ」

帰省のためにリュックに入れていた俺のTシャツと短パンを渡す。

侑は気まずそうにしながら、それを素直に着ていく。

「お前、ほんとは生きてたん?」

「ちゃんと死んだわ、余所のトラックに轢かれて」

「だよ、なぁ…」

生返事をしながら、侑のことを凝視する。

どこからどう見ても、俺が知っている侑だ。

よくよく見ると、去年の高校生の侑のままな気もする。

「千暁こそ、何しに来たん?」

「何しにって…」

「俺の通夜にも葬儀にも来なかったやん、薄情者ぉ〜」

「それは…。いけるかよ、お前が死んだって認めるようなもんじゃんか…」

「死んでんだって」

「だったら大人しく墓の下に居ろよ」

「それはそう」

着替え終わった侑が不服そうにTシャツの襟を摘んだ。

「なんかデカい」

「お前と違って成長したんだわ」

「千暁の方がデカいとか、ムカつく」

こういうところは何も変わっていない。

少しだけ俺より背が低い侑。

少しだけ俺との間に距離を空ける侑。

目に映る侑の変わらなさに、ほんの少し寒気がした。

砂まみれなのが気になるのか、侑は犬みたいに首を振った。

「…で、ゾンビ生活でも始めるんか?」

「俺って、ゾンビなのかな」

「まあ、血色は悪いな」

「俺が噛み付いたら、千暁もゾンビになるんかな?」

「やるか?」

「断れよ」

侑は、あからさまに嫌そうな顔をした。

はああ、と侑は頭を掻いたあと、その場に座り込んだ。

俺も倣って、隣に座った。

「千暁は結局大学にしたの?」

「ああ、A大にした」

「ふーん。大学楽しい?」

「バイトと授業で忙しくてあんまり」

「俺も生きてたら、千暁と同じ大学だったかな」

「侑は俺と同じとこ嫌がってたじゃん」

「こんなことになるなら、一緒でよかったよ」

「…」

侑はまっすぐ目の前の景色を見ている。

こっちを見ない。

俺は侑の横顔を見た。

「俺が、千暁のこと好きだったって言ったら、どうする?」

「…知ってた」

「なんで」

侑は膝に顔を埋めたかと思うと、視線だけようやくこっちを向いた。

その目を見ながら、俺は真面目に言う。

「なんとなくわかってた。いつからか、俺の近くに来なくなったし」

「はーーー、なんだそれぇ…」

「幼馴染の勘、舐めんなよ」

「…それはそう〜」

侑は完全に膝に顔を埋めた。

くぐもった声がした。

「…俺、死ぬって思った時、『もう一回千暁に会いたい』って思ったんだよ」

「…うん」

「なのにお前通夜も葬式も墓にも来ないし」

「…悪い」

「なのに、今更来るし」

「…ようやく、俺も受け入れてきたとこなんだよ」

「そりゃ化けて出るだろ」

「それは、そうだな」

ここから、俺らが育った場所が見える。

あそこで、ずっと侑と一緒にいた。

上京したって、バラバラの道に進んだって、帰省のたびにこうやってなんとなく顔を合わせて、近況報告して、同じだけ歳を食って、酒を酌み交わして、そしてこの村じーちゃん達みたいに面倒臭えジジイになっていくんだと思っていた。

去年と変わらない侑を見る。

「千暁、好きだったよ」

「うん。ごめん、俺は同じ気持ちにはなれない」

「知ってる。だから言わなかったんだよ。…幼馴染舐めんな」

「それはそう」

俺の返事に侑は盛大にため息を吐いて、大の字になって横になった。

「はあーあ、疲れた。眠い」

「ここで寝るなよ」

「うん、墓に戻る」

侑は俺を見上げて、眩しそうに目を細めた。

「千暁、もっと墓参り来いよ」

「そうする」

「来ないとまた化けて出てくるから」

「安らかに眠れよ」

「短命でも長寿でもいいからさ、生きてる間はなるべく来てよ」

「そこは長生きしなよって言うとこ」

「やだね、俺はもう死んじゃったんだから」

侑はケタケタ笑うと、立ち上がって、フラフラと墓の方へ歩いていく。

俺はその後ろをついていく。

「あ、彼女は連れて来んなよ。フッツーウに嫌だから」

「ゾンビって、人のこと呪えるんかな」

「意地でも祟ってやる」

笑った侑を見て、俺の気持ちがようやく落ち着いた気がする。

「じゃあ、もう一眠りするよ。よいしょっ」

「そんな、自ら穴に戻っていく感じなん…?」

「千暁、上から土かけといて」

「マジかよ…」

侑は墓の下の穴にすっぽり収まると、ヒョイっと手を挙げた。

「じゃあね」

「侑、会えてよかった」

侑は一度目を見開くと、ガキの頃みたいにニカッと笑った。

「知ってる」

そう言うと、ゆっくり瞼が閉じていって、侑は再び眠りについた。


今日のことは、夢だったのかもしれない。

俺が見たかった幻影なのかもしれない。

それでもいい。

俺は墓を後にして、山を下った。

「あ、服返してもらうの忘れた」



毎日投稿10日目。お読みくださりありがとうございました!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ