一 ひとりごと
ことの起こりは、私の父、つまりはハプスルク大公の「ひとりごと」であった。
私は、父の執務室にある美味い茶を飲みに、よく大公の執務室を訪問している。
いつもと同じように茶を飲みにいった日、目の前で茶を飲みながら父が、私にだけ聞こえるような小さな声で、ポロリとこぼしたのだ。
「プリンセスは、いかがお過ごしなられているだろうか。」
父は、今なお玉座を狙っている。だからこそ、私的な場において、現皇家の姫のことを「皇女」と呼ぶことはあれど、敬称であり、主君の姫君に対する呼称「プリンセス」を使うことはない。
ひとりごとであれば、なおさら。それも父は、家族の前ですらひとりごと一つ漏らさぬ用心深き男。
ここから推察されるのは、父が敬うに足る相手、つまりは前王朝の姫がいるということ。
そして、父は「いかがお過ごしなれられているか」気にかけている。つまりは『諜報のハプスルク』として名高いハプスルク家ですらわずかな情報しか得られぬ、または得ぬようにしている家に、その『プリンセス』がおられるということ。
そしてそれを、わざわざ私のまえでこぼした。その時、目の前で素知らぬ顔をしていた父は、いつもの『休息中の父親』ではなく、『当主』の目をしていた。
『諜報のハプスルク』の長としては、あまりに迂闊な行動。間違いなくわざとである。
つまり。父は、この謎めいたプリンセスのことを調べろ、知っておけ、といっているのである。ハプスルク家としてではなく、私個人として調べ、露見せずに結果をもってこいと。
おそらくは、家の今後のために。
わが家は、確かに前王朝の忠実な臣下であるが、同時にとてつもない野心家である。それも、今代当主たるわが父は、その野心に足る能力を持った、傾国の男。
そして、ハプスルク家そのものが、『民の味方』という姿勢を貫くことで、既存の勢力に追従せぬ異質な家。
そんな家にとって、『前王朝のプリンセス』は、これからの大きな企みに欠かせぬ駒である。
ーこれは、私への「お試し」だ。
諜報のハプスルクは、生半可な者に継がせることのできる家ではない。ゆえに、わが家は男女年齢血筋関係なく、力あるものが家を継ぐ。ハプスルクの血を継ぎ、実力があるなら誰でもいいのだ。
そして直系の長女である私は、今のところ跡継ぎの最有力候補であることになっている。
いわば、後継者にたる能力を持っているか見極める、試験である。
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