勇者になりたかった。
「「ぼくたちがゆうしゃになるんだ!」」
このときの僕達は、何にでもなれると思っていた。
なりたいって気持ちさえあれば、どんな者にでもなれると思っていた。二人共、そう信じていた。
僕が勇者に憧れたのはただ、かっこよかったから。多分、それだけ。特に理由なんて無い。
初めて勇者を見たのは、なんかのアニメだったと思う。
悪い敵と戦い、勝利を掴み取る。そして、誰にでも優しくてみんなから頼られる存在。どんな事があっても諦めずに進み続ける―――
そんな勇者になりたかった。
そのために、僕は目の前で困っている人がいたら誰よりも早く助けに行った。
僕は勉強だって頑張った。みんなが勉強で分からないところがあったら、教えることができるように。
僕はサッカーだって頑張った。変な人がいたら、ボールをぶつけてやるんだ。
僕は試合に負けたって泣かなかった。どんなに悔しくても、次頑張ろうって声をかけて。
それこそが、勇者の役目だと思った。
でも、こんなに、こんなにも頑張ったのに僕は勇者にはなれなかった。
ある日、■■は言った。
「将来は、一緒に勇者になろうぜ!昔、約束しただろ!」
この言葉で僕は昔した約束を思い出した。
今まで忘れていたことが不思議なくらい、はっきりと、鮮明に思い出すことができた。
「「ぼくたちがゆうしゃになるんだ!」」
僕にはあまりいい思い出とは思えなかった。
しかし、■■にとっては最高の思い出だった。
■■は、顔が良く、勉強もスポーツも出来る、愛想も良く、みんなから頼られる、いわゆる完璧人間だった。
僕は思った。
『あぁ、こういう奴が勇者になるんだな。』
僕の努力が足りなかった訳じゃない。
僕の頑張りが無駄だった訳じゃない。
人一倍努力して、自分を犠牲にして、それでも勇者にはなれなかった。僕が■■に勝つことができたのは勉強だけ。テストは毎回学年一位だった。
気づけば僕は、『そこそこ運動もできて、そこそこ優しいガリ勉』という立場にいた。
僕は、僕には、生まれつき勇者になる素質なんて無かったんだ。
だから僕は■■にこう言った。
「勇者っていうのはね、どの物語にも一人しかいないんだよ。」
「そういう常識を壊すのも勇者の役目だろ?」
なんのためらいもなく発された一言
……本当に、そういう所が勇者なんだろう。
しばらくして僕は、勇者になる事を諦めた。
現実世界には、はっきりとした勇者の定義なんてない。
だから、すべて周りからの評価だ。
なら、■■に勝てるはずが無かった…
僕はずっと、ずぅっっと、■■が嫌いだった。
僕の夢を奪って、僕の希望を砕いて、僕の気持ちなんか分からないくせに。
なんで、僕の方が努力したのに、なんで■■が勇者になるんだよ。
……分かってる。
ここで■■を恨んで、妬んで愚痴る奴なんて勇者に向いてない。
そんなの僕が一番わかってるのに。
僕が誰よりもわかってるのに―――
勇者になれなかった僕。
勇者になった■■。
……違う。
こんなの言い訳だ。
なれなかったんじゃない。ならなかったんだ。
なりたくなかった?そんな訳無い。
なりたくて、勇者になりたくて、でも、なれなくて。
自分でも矛盾してるって分かってる。
今更、勇者にならなかった事に対して、後悔してる。
今になって、どれだけ後悔しても、どれだけ悔しがっても、諦めた事実は変わらない。
そこまで考えて僕はふと思う。
僕に後悔なんてする資格ない。
後悔なんて本気で努力して、それでも思うような結果にならなかった。そういう奴が使う言葉じゃないか。
僕は、人助けも勉強もサッカーも全部、全部、本気で頑張った。
だけど、僕は「勇者になる事」を本気で頑張っただろうか。
勇者になる事は頑張ってどうにかなるものじゃないって分かってる。でも、少なくとも、僕には、途中で諦めた奴には、「勇者」にはなれない―――




