3-07 オワタ式ポスアポ世界で生き延びる~物理法則無視建築は今日も最強です~
主人公■■■■は、海外ゲームを中心に遊んでいるゲーマーであり、その日もVRゲームである、ポストアポカリプスの世界で冒険する3Dサンドボックスゲーム『アウターヘヴン』にログインしていた。
ゲームを楽しんでいる最中、■■■■はゲームの異常に巻き込まれ、見知らぬサーバに接続。その上、ログアウト不能の状況に陥ってしまう。広大な世界に一人取り残され、頼みの綱は、これまでの経験で培ってきた『ゲーム内建築』のみ。
■■■■は、ゲーム内に取り残された少女■■と共に、過酷なゲーム世界で生き残るために抗い続ける。
見上げると、空に赤い月がかかっていた。
オレの周りはどこまでも広がるだだっ広い平原で、東の方に枯れ木だらけの木々の群れがあるだけだ。
そして、立っている場所から三ブロック分先は、底が見えなくなるほどの深い穴が、四ブロック分、掘ってある。
「時間は……あと三分で十九時か。そんじゃ、そろそろやるか」
オレは軽くジャンプして足元を指定、石ブロックを出現させる。
きっちり図ったような正方形。切り石と見間違うようなそれは、しっかりとした足場になってくれた。
「よっ、ほい、ほいっ、ほいっ、ほいほいほいっ」
ジャンプ、足元指定、石ブロック出現、着地。さらに、ジャンプ、指定、石、着地。
一定のリズムで、重ねて、重ねて、どんどん重ねて。
オレの視界はあっという間に、地上からはるかな高みに到達。
同時に、かなり開けた視界の無効から、黒い影がぽつぽつと、こっちに向かってくるのが見えた。
「見たとこ、ほとんど『インヴェイド』ばっかり。いくら難易度上げても、七日目はこんなもんか」
近づくごとに、そいつらの姿かたちが分かってくる。
そのほとんどが人間、というか、体のあちこちが破損したり、青緑色の光る粘液に覆われた人間モドキ。
たいていのプレイやーはゾンビって言うけど、オレは設定どおり『インヴェイド』と呼ぶようにしてる。
でないと、せっかく別ゲーやってる意味ないし。
「あとは『スピッター』と『ブルート』……って、あれ『サージャント』か」
スピッター。
手足がひょろ長い、ぎりぎり人間ぽい見た目のバケモノ。口から酸を飛ばす遠距離攻撃があるから、このぐらいの高度を取っとかないとまずいんだよな。
ブルート。
この手のゲームでおなじみ、メチャアメリカンデブのパワータイプ。動きは鈍いけど耐久力は高くて、まともに相手するのは超面倒。
サージャント。
こいつだけはほかの連中とは違って、つるつるした光沢のスーツと、三角形にとがったヘルメット。さらにゆがんだ八の字型をした、特殊な武器を装備している。
「じゃ、おっぱじめますか!」
オレはさらに足元に石を出現させる。今度は積むんじゃなくて、床面を形成するように敷く。
それから、あらかじめ創っておいたものを設置する。
オレの身長ぐらいありそうな、でかい機関銃に似た『タレット』を、東西南北方向に一台づつ。
そんな準備をしているうちに、最初の一群が掘っておいた穴の淵に集まってきた。
でも、何かに戸惑ったようにふらふらして、数だけがひたすら増えていくだけ。
「あ、しまった。侵入ルート作ってないじゃん!」
久しぶりなんでうっかりしてた。このままだと、スピッターが遠距離攻撃初めて、支柱だけが壊される。
オレは破壊用のでかいハンマーを取り出し、床の一部を壊すと、大急ぎではしごを貼り付けながら地面へと下っていく。
その間に、
「プシャアアッ!」
うおっ、あぶねえっ。
オレの頭上や脇に向けて、穴の淵にいた手長足長の敵が、酸をバシバシ飛ばしてくる。
とにかく、床から一ブロックのところまで、はしごをセットして、
「キャアアアアアアアアッ!」
梯子が設置されると、穴の淵に群がっていた動く死体のような『インヴェイド』が、ばらばらと地面へ飛び下りを開始する。
そして、
「アアアアアアアアッ!」
地面に掘った穴の下に強いておいた、杭の罠にぶっ刺さって、砕け散っていく。
どうやら普通に、罠は機能してるみたいだ。
「って、のんびりしてる場合じゃない!」
オレはそのままはしごを上がり、再び細長い塔のてっぺんのフロアに陣取った。
敵共はというと、知能も全く感じない動きで、続々と穴に落ちて、オレの掛けたはしごに、列をなして上り始めていた。
「おー、がんばれがんばれ。って、結構早いな」
念のため、オレは一ブロック分の石を床の端に作り、細い通路を作った。
リアルでやったら絶対に落ちる、そもそもこんな形状は成立しないんだけど、ゲーム内法則にしたがえば、異常な建築も自由にできる。
「オアアアアアア」
叫びながら、最初の敵が顔を出し、
タタタン、タタタタタタッ。
軽くせき込むような音と共に、設置した四台のタレットが火を噴く。ハチの巣になったインヴェイドは、そのまま地面へと落下していく。
梯子を上がっていた何匹かが一緒に地面に落ちて、砕け散っていく。
しかも、スピッターもブルートも、お行儀よく列をなして、こっちへ上がってきた。
「プッシャーブロックがドロップしてたら、あいつらも処理できたんだけど、明日以降で早めに自作しないとだな」
オレは手にしていたハンマーを構え、敵を待ち構える。のそっと、のんびりした動きで醜く太った怪物が頭を出し、
「うりゃっ!」
全身が出る前に、思い切り一発殴る。同時に、タレットの斉射を喰らって、デブが後続を巻き込みながら落ちていった。
どうやら、防御のための設備は、オレも含めてちゃんと機能しているらしい。
「あとは、これを朝までしのぎ切れば――っしょい!」
またまた一匹、頭を出したやつをぶん殴って落とす。
作業と化した防衛戦を、ひたすら繰り返す。
これが、オレのやっているゲーム『アウターヘヴン』のプレイヤーの、ごくありふれたプレイ風景だ。
【1999年、7月。
地球は征服された、異星からやってきた宇宙人によって。
彼らは地球環境を自分たちの惑星と同じにするべく、動植物や病原菌、環境改編のためのロボットを投入し、何もかもを改ざんした。
そして月日は流れ。
2025年、七月。地球文明は崩壊し、人類は極限まで数を減らし、『あなた』は最後の生き残りとして、生き抜いていくことになる】
ホードが落ち着いたところで、オレはVRヘッドセットを外し、パソコンのモニターに映る画面を、ぼんやりと眺めていた。
これが海外ゲームを中心に扱う、ゲームプラットフォームの販売ページに書かれた『アウターヘヴン』説明文。
評価は星3.8で、まあまあ好評。
実際、この手のサンドボックスゲームとポストアポカリプスを組み合わせたゲームは、海外では結構な人気だった。
アイテムはすべてボクセルで描かれ、いわゆるアセットを使えば、開発も簡単だからって、中小のゲームスタジオが結構な数を販売している。
オレもこの手のゲームは好きだから、そういうゲームを買ってはゾンビを撃ち殺し、鉱石を掘って延べ棒にした後、なぜか錆びついた状態でできる武器や道具を使って、拠点を築いたりしていた。
「――ゲーム内の敵の出現と、アイテムドロップの一覧を出力」
オレが声を掛けると、ヘッドセットのマイクがコマンドを拾って、バックグラウンドで動いていたソフトを起動させる。
集計されたデータを、アシスタントAIの音声が読み上げた。
『資材系アイテム:132、武器系アイテム:34、弾薬系アイテム:73、回復系アイテム:22、イベントアイテム:14』
「イベントアイテムの内訳」
『イベントアイテム内訳。コモン:7、アンコモン:4、レア:2、エピック:1』
最後の言葉に、オレは体を起こした。
ゲーム画面をパソコンのモニターに回し、アイテム一覧をチェック。キャラクターのインベントリ、その隅っこに、何かがあった。
【ミスティック・フラグメント:ポイントXを知るために必要な素材。四つ集めることでイベントが進行する】
「っしゃあああっ! これでようやく、クエストに参加できんぞオラァっ!」
それは緑色の、小さな結晶のようなアイテム。
オレが『アウターヘヴン』にはまったきっかけが、これの存在を知ったからだった。
たいていのポストアポカリプスをテーマにしたゲームは『生き残る』ことが、ゲームの目的になる。
ゲーム内では、文明社会が壊れて死に絶え、個人の努力で生き延びなければならないというのが大抵の設定だ。
それはゲーム内イベントにも表れていて、小さなクエストがあっても、ゲームクリアにつながるような『メインクエスト』は設定されていないことが多い。
「とはいえ、ここから先が、まだよくわかんないんだよな」
いろいろなゲームフォーラムを見ても、このイベントアイテムから始まる『メインクエスト』は、いろいろな条件があるらしい。
メインクエスト達成を示すアチーブメントは、いまだに『0%』のまま。ネットで集合知が簡単に集まる今の時代に、この数字は異常だ。
実際、このゲームに対する評価を下げているのが、クリアできないメインクエストの不満のせいだって話もあった。
「……まあ、わかってることをやっとくか」
オレは、このゲームメーカーが主催している専用フォーラムにアクセスして、自分のハンドルとソフトに振られた専用のIDを書き込む。
ほどなくして、画面の端に専用ウィンドウがポップした。
【実績:リベレイターが解除されました】
これで自分のキャラクターが、メインイベントへの参加資格を得たわけだ。
ただし、参加できるのは一つのキャラクターにつき一回のみ。
キャラの死亡やイベントが失敗した場合、二度とチャレンジできない。
「今度こそ、最後まで到達してやるからな」
準備は整った。
オレはヘッドセットを身に着け、ゲームの世界へと舞い戻った。





