3-05 抜筆!文字刀剣(キャラクタソード)!
Battle Build Curionis通称BBQ。それはトレーディングカードゲームとリレー小説の要素を併せ持つ近未来の対戦型物書きゲームである。二人のキュエリストが様々な制約を守りつつ交互に一つの物語を綴って行き、完結した時点でどちらがより多くの観客の支持を集めているかを競う。
そこに1,245戦0勝という戦績ながら常にランキング30位以内を保ち続ける男がいた。彼の名は鬼尾武尊。BBQでは名キュエルを生んだキュエリストには両者共にランキングポイントが与えられる。鬼尾は対戦者の持ち味を引き出し名キュエルを生み出させた上で勝たせていた。
そして、そんな鬼尾に一人の男が興味を抱いた。黒田大和、インプロバイザー、即興演劇の役者であった。黒田は鬼尾より強くなり、鬼尾に自分を倒すことを切望させるためにキュエリストになることを決意する。
「まぁ、インドア派通り越して引きこもりのお前がBBQに行こうなんて言うわきゃねーんだよなぁ」
俺は別に騙された訳でもないのに不満を言った。
「あ? 何言ってんだよ、黒田? BBQだよ?」
「俺の知ってるBBQと違い過ぎるんだよ!」
ここで、この部屋の主である佐川が言っているBBQとはBattle Build Curionisというトレーディングカードゲームとリレー小説の要素を併せ持つ対戦型物書きゲームである。正しくはBBCと略すべきところだがBBQも本来ならBBCと略すべきであることに倣ってBBQと略すことに公式が決めたそうだ。
二人のキュエリストが様々な制約を守りつつ交互に一つの物語を綴って行き、完結した時点でどちらがより多くの観客の支持を集めているかを競うらしい。
難しいのは対戦相手と二人で一つの物語を作り上げつつ競うところだそうで、物語をぶち壊してしまった場合にはキュエル自体が無効となり二人共にランキングポイントを削られるらしい。相手と協力して話を面白くしつつ、その貢献度や魅力で相手を上回る必要があるそうだ。
相手を苦しめるためにカードを使って攻撃したりキラーパスを送ることも可能だが、それをクリアされてしまうと逆に相手が支持を集める結果となってしまうので注意が必要だってことなんだが……。
「説明を聞いただけじゃ良く分からんなぁ。明日、見に行くなら予習しておいた方が良かないか?」
「分かってるよ、黒田。僕が好きなキュエリストのキュエルをTeaCubeで見よう」
そう言って佐川はモニターの電源を入れた。
「これが佐川の推しなのか?」
「ああ、鬼尾武尊だ」
「強いのか?」
「いや、1,000回以上キュエルしてるが勝ったことはない」
「はぁ? なんで辞めないのコイツ?」
「いやいや、キュエリストランキングは常にベスト30に入ってるんだから辞める必要ないでしょ」
「えっ? 勝ったことないのにランキング30位以内ってどういうこと?」
佐川の説明によるとランキングポイントの稼ぎ方はキュエルに勝つ以外にもあるらしい。
そもそもキュエルの勝敗を決める「観客の支持を集めているか?」の判定方法についての説明をしよう。
観客は一人一票持っている。観客はこの一票をどちらかのキュエリストに入れるか、どちらにも入れないかの三つのアクションから一つを選ぶことが出来る。そして、キュエルが終了する前であれば、いつでも自由に変えることが出来る。
だが、ただ相手より多く票を集めれば勝てるわけではない。
もしも二人が獲得した票を足した数が観客数の三分の一に満たなかった場合にはキュエルは無効となり両者共にランキングポイントを削られてしまう。
また、逆に二人が獲得した票を足した数が観客数の97%以上だった場合には名キュエルと認定され両者共にランキングポイントが与えられる。
「つまり何か? この鬼尾ってのは負けてばかりいるが名キュエルになることが多いってことか?」
「そういうことだが、ちょっとだけ違う」
「どう違うんだ?」
「まず名キュエルになることが多いんじゃない。『必ず名キュエルを生み出す』んだ」
そこで佐川は俺の目を見据えた。
「そして負けてばかりいるんじゃない。相手に勝ちを譲っているのですらない。相手の勝利をプロデュースしているんだ」
俺は佐川の言っていることが良く分からなかった。
「それは八百長ではないのか?」
「いいや、違う。彼と対戦相手との間には利害関係はなく、事前に接触すら取っていない」
「どうしてそんなことが言える?」
「BBQの運営はああ見えて結構真面目でね。同じようなことを疑って彼のことを徹底的に調べたことがあるんだ。その結果、潔白が証明されたというわけだ」
佐川はモニターに視線を戻した。
「まず、キュエルの最初に『1ターンの文字数』『完結までのターン数』『先攻後攻』『お題』の4項目のうち2項目ずつを決定するダイスロールを行う」
「ダイスロールって言っても全部AIがやってんじゃね〜か」
「ああ、司会、進行、集計から特殊効果まで全て一人の卓回しAIが担当する」
「特殊効果?」
「まぁ、見てりゃ分かるよ。それより、始まるぞ」
確かに、鬼尾の顔に気合いが入ったのが分かる。そして、構えると、
「抜筆!文字刀剣!」
と叫んだ。
その瞬間、彼の手元から鋭い光が発せられ、それはすぐに一振りの刀となった。
「まぁ、形を持って目に見えるようにする必要はないと言えばないんだが、これも演出というやつさ。キュエリストは自分が育てた自分自身の分身とも言えるAIを使って即興で作品を書く。観客を待たせて退屈させないためだ」
鬼尾が刀を振ると巨大なメインスクリーンに文字が表示された。
『君にキャンバスをあげよう。』
『大きくて真っ白なキャンバスを。』
「ん? なんだ? これっぽっちか?」
俺は拍子抜けして言った。
「いや、これは今、鬼尾が刀を振ってアップロードした分に過ぎない」
「何回かに分けてアップロードする決まりなのか?」
「いや、そのターンの分を書き終えてから一撃でアップロードするのが一般的だ」
「じゃあ、なんで?」
「アップロードしてしまった分については訂正などの変更が一切できないことになっている。だから、普通はそのターンの分を書き終えてから全体を読み返してチェックするものだ」
「鬼尾はなぜそうしないんだ?」
「おそらく観客を待たせたくないんだろうな」
「ケッ」
場内に巨大な真っ白のキャンバスが現れた。このキャンバスの幻影はどこの客席から観たとしても、それぞれの観客にとって最良のアングルで観たように見えているそうだ。
そして、鬼尾は華麗に舞うように身を翻しながら切先で円弧を描いてみせた。巨大なメインスクリーンに文字が追加される。
『そして、青い絵の具がいくらでも出て来る筆もあげよう。』
『君は何を描くのかな?』
『僕はその筆でキャンバスに「理性」を描いた。』
『幾筋もの青い直線は大小の碁盤の目を形作った。』
少し遅れて白いキャンバスの幻影に青い直線が引かれていった。それらは大小の碁盤の目を描き出した。
「Q筆!」
鬼尾は宣言して一礼した。
「『休筆』?」
「いや、BBQのQでQ筆だ。意味は同じだが。まぁ、ターンエンドってことだ」
「下らん」
「書き終えた後に対戦者の次のターンに制約を加えるためにカードをドローすることもできるんだが、鬼尾はあまりやらん」
「『主義に反する』ってヤツか?」
鬼尾の対戦者が前に進んだ。キリッとした細身の美少女だった。
「見た目はいいんじゃねーか?」
「実際、固定ファンも居るんだがランクが上がって行かないんだ」
「名前は?」
「三社院愛」
愛の顔に緊張が走る。大きな構えから右腕を後ろに振った。
「抜筆!文字薙刀!」
凛とした声が響き渡ると同時に、彼女の振り回すものが光の円盤に見えた。静止した彼女が携えていたのは薙刀であった。
「せいやぁ!」
愛が空間を切り裂いた。
『次に、赤い絵の具が溢れ出る豪快な筆致の太い筆をあげよう。』
『君は何を描くのかな?』
『僕はその筆でキャンバスのど真ん中に赤く脈打つ心臓を描いた。』
『そして、青い碁盤の目を縫うように太い血管を張り巡らせた。』
『それは僕の「激情」だ。』
メインスクリーンに現れた文字を追うようにキャンバスの幻影にも血飛沫が飛んで来そうな絵が描き足される。
「これ、もしAI の描いた絵が気に入らなかったらどうするんだ?」
俺はふと疑問に思って佐川に聞いた。
「その場合には所定のランキングポイントを支払うことによって描き直しを要求できるよ。やるヤツはあまりいないがね」
紫色が畝る「迷い」。
橙色の太陽の「覚悟」。
桃色のステンシルの「煩悩」。
茶色の大地の「信念」。
鼠色の雨の「不安」。
黄色の剣の「勇気」。
その後もキュエリストたちは互いに執筆を進め、キャンバスの絵も完成に近づき迫力を増していた。
しかし、鬼尾の一撃が激震をもたらす。
『次は、何よりも黒い絵の具をベッタリと塗れるペイント用ローラーをあげよう。』
『君は何を描くのかな?』
『僕はそのローラーでキャンバスを全て黒く塗り潰した。』
『それは僕の「絶望」だった。』
【つづく】
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[次回予告]
まったく鬼尾のヤツ、どーゆーつもりだ? せっかくの絵を真っ黒に塗り潰しちまうなんて! これじゃあキュエルが成立しなくて没収試合になるのは確実だぜ! しかし、窮地に立たされた愛の薙刀がとんでもないものを描き出す!
次回 抜筆!文字刀剣!
「不死鳥は闇に舞う!」
さぁ! おまえも筆を抜け!





