3-19 バッドエンド後の幻想世界で、主人公の先生役をやる事になっちまった。
アラサーの時、紛争で死んだ俺は気付けば昔やってたゲーム世界に転生していた。
しかも主人公の先生役に転生しちまったんだ。
世界の様子もおかしい。
本来なら化け物がガンガン攻めてくる世界観なのに、化け物もいねぇし、それに対抗できる超能力『ソウルズ』すらない。
平和な2000年代の日本そのものだ。
なんなら主人公も普通の高校生になってやがる。
そこで俺は気付いた。
ここはBADEND後の世界だと。
ラスボスが主人公に見せてる都合のいい、偽りの平和が続く空想世界。
現実じゃ化け物に襲われながらも主人公達の帰還を待つ奴らがいるってのに。当の本人達は封印喰らってスヤスヤと夢見ていやがる。
このままだと人類が終わっちまう。
……馬鹿な死に方しちまった俺に対して、神様は何を期待してんのかよくは分からねぇが、この世界がどういうもんか知っちまった以上、ハッピーエンドの為に俺も動くとするか。
まず最初に言っておくが俺は転生した。
アラサーの時に紛争で呆気なく死んじまって、目が覚めたら白い天井だった。病院じゃねぇ、自分の家の天井さ。
肉体も少し若返ってる。
20後半……ちょうど俺の肉体と技術が全盛期だった頃だな。
まぁ超能力がある世界観じゃ、ただの筋肉なんてちっぽけなもんだが……無いよりはいいだろう。
で、どうやら俺はゲームの世界に転生したらしい。
しかもこれまた運命的な事に、小さい頃に良くやってたゲームの世界に転生したんだ。
ゲームの名前は『ソウルファクトリー』
内容は現代ファンタジーだったか。
2000年代の日本で平和に過ごしていた主人公が、妹が化け物に殺された事がキッカケで、超能力『ソウル』に目覚めるんだ。
それでビルを飛び越えるジャンプしたり、銃撃戦がオコチャマ遊びに見える超能力ドンパチをやり始めたり、なんやかんやあって信頼できる仲間達と出会って世界の平和を守る為に戦う。そんな話だ。
最後はラスボスぶん殴って平和になるんだが、途中で仲間が死んじまったり、外見は2000年代の日本でも、ファンタジーな化け物がよく建物をぶっ壊したりとまぁまぁ物騒。
つまりここは、王道ダークファンタジーの世界さ。
化け物に殺された人間が出たってニュースが毎日流れるくらいの、現代日本を舞台にしながら日常と死が隣接している世界のお話。
でも俺がいるここは何故か違う。
すっごく平和なんだよココ。
超能力バトルとは無縁の超平和な世界で、化け物も『ソウルズ』も存在しない。転生前の日本と本当にソックリ。
え、平和ならいいんじゃないかだって?
違うんだ。これ作られた平和なの。
俺が今いる学校も、俺が今歩いている懐かしきコンクリの廊下も、ラスボスに作られた虚像。
ビシッと着ているこの黒のスーツも、その下に着てる白のポロシャツも赤いネクタイも、使い古された革靴も全部……偽物って訳。
ここはバッドエンド後の世界なのさ。
主人公に勝ったラスボスが生み出した、幻覚と都合のいい幸福に満ちた理想の世界だ。
いや〜そんな事ある?
転生するとしてもさ、もう少しマシな所に転生させてよ。殺人的な超能力が蔓延している世界観で、しかもラスボスが支配しきった後の世界。そこを一般人として過ごせってのは凄い酷ってもんだろ。
主人公は記憶改竄を受けた状態で幻想世界に閉じ込められているし、普通の高校生として過ごしている。
彼のお仲間も一緒。超能力もしっかりと封じられちゃって、何処にでもいるザ・一般人みたいになっちまっている。
しかも問題はそれだけじゃない。
さっき俺は学校にいると言ったが──
「お前ら、何やってんだ! 先生が来るぞ!」
丁度、俺のクラスから男の声が聞こえて来たな。
元気あってハリってのもあって芯も通ってる……まさしく主人公に相応しい声がだ。
そう俺、主人公の担任やってんの。
考えてみてよ。目が覚めた時に、この世界の自分を調べてたら前世で一切やった事のない先生でさ。
しかも『記憶改竄を受けた主人公の先生』っていう地雷臭バリバリなとこへ、ピンポイントに転生しやがったと知った俺の気持ち。
……まぁいいや。
とりあえず教室の扉開けるか。ズカッーって。
「よぉオメェら──」
「先生! 危ない!」
と、思いっきり開けたら上から黒板消しが落ちてきやがった。なるほど。さっき主人公が怒鳴ってたのはこれが理由って訳ね。
じゃあ仕返しするか。
「これ返すぜ」
一歩下がってチョーク粉たっぷりの黒板消しを避ける。そんで落下物の持ち手辺りをいい感じに蹴ってしまえば、ニヤニヤしてる奴へひとっ飛び。
「ボブッ!?」
仕掛け人は変な効果音出しながら顔が真っ白に。
まさかやり返されるとは思ってなかったようで、黒板消しがポロンッと落ちた後に見えたのは、驚きで固まった仕掛け人の間抜け面だった。
「藤沢、トラップにしちゃあ随分とやり方が甘いな? 廊下歩いてる時に仕掛けたからお前の足音は聞こえるわ、扉を飛び越してた手で誰だか1発で分かっちゃったよ」
とりあえず教壇のぼらねぇとな?
あと藤沢は後で職員室だ。黒板消しはまだいいが、増長して椅子引き抜きとかヤバい事する前に叱っておかねぇと。
「後で藤沢はオシオキな? 大人を舐めたツケを払わしといておく……っで、全員クラスにいるかぁ〜?」
登場人物の確認はしないとな。
まず主人公にヒロインだろ。他にも主人公の仲間達に妹、それと恐らく監視役としている敵幹部の女性。
最後に意味深な白髪の女の子と……。
よし全員居るな。
なら俺も先生として、しっかり頑張らなくちゃな。
「よぉお前ら、入学してすぐだが元気だったか? お前らは新しい世界に入ったんだ、変に体調崩したりするなよ?」
|クラス全員のしっかり見て《見てるぞアピール》、最後にこう締めようか。
「それじゃあ授業を始めるぞー」
◆
時間は経ち夕焼けの中で多くの学生が帰っていく。
ある人は雑談しながら帰っていき、
ある人はバイトへ出向き、
ある人はこの後のお遊びに話を咲かせていた。
そしてある人は自分のスマホにメールが届いていた。ポケットの中で揺れている事に気づいた女性はすぐさま取り出す。
「あれ……真琴くん、一体何の用だろう?」
そう呟くのは主人公の妹であるミネ。
メールの中身を見て少し不思議に思っていたのだ。
『悪いんだけど、公園に来てくれない?』
メールの差出人である真琴にしては珍しい呼び出し。けれど兄を含めて、昔からの仲良しであるミネはとりあえず行くことにした。
きっと些細な事か下らない事でもあるのだろうと、ミネは一緒にいた学生に別れを告げ公園へ出向いた。
「そうして妹君は化け物にさらわれた挙句、死亡して主人公が覚醒するキッカケとなるとさ」
学校の屋上でタバコを一服していた鶴見は、つまらなさそうにゲームストーリーを語る。
淡白な彼の目線の先には、友達と別れて公園へ向かうミネの姿が。
僅かな動作すら見逃さないよう目を細めて監視していたが、やがて彼の目論見通りに、ミネは公園へ向かったのだった。
気が変わって元の道に戻る事はないらしい。
何気無い青春のワンシーンと思える光景を見届けて、真琴のスマホを持つ彼は安堵の息を吐いた。
「いや〜……残酷なシナリオだよねぇ。妹が死んだ悲しみで『ソウル』に覚醒するって、もう少し主人公に手加減しても良いんじゃない? 神さんよ」
殺風景な屋上で彼は呟く。
側から見れば独り言であるが、彼の言葉を返す人ならぬ神様は存在した。
『それはゲームシナリオの話。私はそんな運命を仕組んでない。文句があるならゲームの脚本家に言って』
「ハッ。全く間違いねぇ。正論だな」
先生とは別にモザイクの掛かった声が屋上に響く。
音の発信源は真琴のスマホではなく、彼がもう一つ持つ真っ白なスマホから。
男か女か少女かお爺さんか、全てであり一つでもある声が漏れている。
『真琴君は大丈夫?』
「あぁ、静かに眠ってる。神さんのお陰で寝起きの時間も調整できたし、街が暗くなった頃……2時間半経てば起きるだろう」
『……そう。ならこれで妹を攫う準備はできた』
「そうなるねぇ」
──ゲームでは
ソウルに覚醒する為には感情が必要である。
喜びか悲しみか怒りか……とにかく強い感情がトリガーとなり、化け物を倒せる武器を発現できるようになるのだ。
例え一般人でも『ソウルズ』の才能さえあれば、感情の爆発だけで力に目覚める。
『もう一度確認しよう。私達がやるべき事は……この世界を取り戻す為にするべき事は何?』
「そりゃ決まってるだろ。主人公をソウルズに目覚めさせる」
ではゲームにおいて主人公はどうやってソウルズに覚醒したのか?
妹が化け物に殺される瞬間を見たからだ。
『目覚めさせる為に必要な事は?』
妹の死が、主人公にとってのトリガーとなる。
なら記憶改竄で力を封印されている今の主人公でもそのシーンを再現できれば……?
「拳銃で人を撃つ」
点検していた拳銃を、先生はもう一度見やる。前世で愛用した物と同じ拳銃を。
夕陽に照らされ、少し寂しい風が流れる屋上で先生は懐かしむようにそれを見ていた。
そして1発。唐突に撃った。
棒立ちから獲物を射抜くまで1秒足らず。
気付けば10メートル先に置かれていて、空き缶が宙を舞っている。
「それじゃあ世界を取り戻す為に──」
床に落ちた空き缶の真ん中には、大きな穴ができていた。
そうして先生は何事もなく屋上から去っていく。
「──まずは妹にもう一度、死んでもらうとするか」





