表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/26

3-17 聖騎士傭兵パラド

 魔王軍が滅びてから十年後、各地は人間同士の争いが続いていた。

 かつて対魔王軍連合の盟主となり勇者を支えたバーゼル大公の領地も、大公の戦死により領土争いが日々激化していた。

 そんなバーゼル地方にm奇妙な傭兵団と、その傭兵団に志願する奇妙なフリーの傭兵が現れた。青竜兵団という傭兵団は、傭兵団とは思えない程規律正しく住民から慕われていた。また、新しく入団した自称傭兵のパラドという男は、騎士の様な戦いぶりで騎士の様に振舞っていた。

 この奇妙な者達が戦場に現れた時、戦乱の世に新たな展開が始まるのであった。

 薄暗いテントの中、武装した男達が向かい合っていた。全員武装はしているが、剣呑な雰囲気は無い。しかし、皆真剣な表情である。

「書類は読ませていただきました。では、当傭兵団――青竜兵団に志願した理由をお聞かせ下さい」

 簡素な椅子に座った男がメモを取りながら問いかけた。男は装飾に欠けるものの高価そうなブレストプレートを身に着けており、その物腰や口調は丁寧だ。荒くれ者揃いの傭兵にそぐわない印象を与えている。しかし、

「はい。私は、これまで商人の用心棒などをして世界中を旅しながら生計を立てていましたが、青竜兵団が日の出の勢いの活躍であるとの噂を聞いていました。なので、私もそこで活躍したいと思い志願しました」

 問いに答える男も、負けず劣らず傭兵という言葉からかけ離れた雰囲気だ。

 入団面接を受けている男は二人の連れを後ろに付き従え堂々と立っていた。その姿勢は実に堂に入っており、正式な訓練を受けた戦士であることが見て取れる。連れの男達も中々の腕前を持っているように見える。

 身に着けている鎧は一見革製だが、よく見るとその下に金属鎧が見える。プレートアーマーに革を膠か何かで張り付けているようだ。また、腰に帯びた剣の鞘は粗末な布がまかれているが、よく見れば布の隙間から宝石の光が覗いている。

 要するに、この入団志願者の佇まいや装備は、用心棒や傭兵等というよりもまるで、

「どちらの騎士団でご活躍を?」

 そう、騎士にしか見えないのだ。

「はい。せいきし……ごほん。生来騎士団には所属していません。商人の護衛や冒険者として戦ってきました」

(嘘をつけ!)

 と、面接官は心の中で叫んだ。入団志願者の後ろに控えている仲間の男達も同様の感想を抱いているらしく、手を顔に当てて天を仰いでいる。もっと演技指導を主人にするべきであろう。

 困惑しつつも面接官は手元の数枚の紙に目を落とす。紙は入団志願の男が提出したもので、各地の馬上槍試合の賞状や護衛していたという隊商からの推薦状である。

「いいでしょう。採用します。あなたの様な歴戦の勇士なら大歓迎です。この契約書をよく読んでよければサインして下さい。質問があったらどうぞ」

 結局、面接官は傭兵団に迎い入れることを決意した。妙な人物ではあるが、給金以上の働きをしそうであるし、この人物の騎士の様な振る舞いは、この傭兵団には実に向いていると思える。

 入団志願者は契約書にさっと目を通すと考える様子も見せず署名した。

「はい。では、「パラド」さんですね?これで入団の手続きは終わりました。私は主計官のネギといいま……」

 面接官――ネギの言葉は、天幕の外で鳴り響く太鼓の音で途切れた。軍にとって太鼓は通信手段であり、そのリズムで伝えたい内容が決まっている。今響いているこのリズムは、

「敵襲か!」

 天幕の外で、人や馬の声や動く音が慌ただしく響き始めた。

「案内は後に願おうか」

 入団したばかりの男、パラドは落ち着いた態度でそう言うと、天幕の外に出て、外で待機していた連れの槍持ちから馬上槍を受け取り立てかけていた団旗を槍に括り付けた。

「先ずはこちらから自己紹介を先輩の皆様にさせて頂こう。戦場でな」

 芝居がかったセリフであるが、この男には実に似合っていた。

 そして、外で待っていた白馬に跨り、戦場に駆けていった。


 パラドが白馬を駆って駆け出した時、最前線では傭兵団は既に戦端を開いていた。

 現場指揮官のマルコは騎乗しながら戦場を見渡していた。団長ではない。現在、団長は雇い主の貴族の居城で開かれた会議に主要メンバーを連れて参加している。

 マルコの戦術眼からすると、現状はあまり思わしくなかった。

 相手は、雇い主の敵であるベルガンディ伯爵の手勢と雇われた傭兵隊だ。

 当初は味方有利に戦況が推移していた。応戦する傭兵達は皆幼いが訓練は十分であり、相手の騎士達を圧倒していた。

 だが、丘の向こうから小山の様な巨体が近づいて来たために、状況が変わった。巨体の主は三つの頭と六本の腕を持つ巨人、ヘカトンケイルであった。

 ヘカトンケイルの巨体に矢を一斉に射かけるがとても効いているようには見えない。動揺が広がる。

 マルコは最早撤退しか無いと覚悟を決めていた。

 撤退の合図である角笛を手にした時、陣内から猛スピードで駆けて来る何かに気が付いた。

 それは、見事な馬体の白馬に跨り、身長の三倍はあろうかという馬上槍を構えた騎兵であった。

 敵かと思い迎え撃とうとした時、騎兵の馬上槍には青竜兵団の団旗が結び付けられているのを見て攻撃指示をとどまった。

「貴殿は何者か? 官姓名を述べられよ!」

「この度こちらにご厄介になることになりましたパラドと申します。以後お見知りおき下さい。先ずはあの巨人を挨拶替わりに倒して見せましょう!」

 パラドは叫ぶと、陣地の門に向かって一目散に駆けて行く。

 マルコは困惑した。あのパラドと名乗る騎兵はヘカトンケイルを一対一で倒す自信があるというのだろうか?

 結局、パラドの自信ありげな態度に妙な信頼感を覚えて開門の指示を出した。

「私が外に出たらすぐに閉門し、守りを固めるといい!」

 言うが早いかパラドはニ百名の敵がひしめく戦場に駆け出した。

 突然開いた陣の門にベルガンディ軍は一瞬戸惑ったものの、好機とみて殺到しようとした。うまくいけば数に任せて一気に畳みかけることが出来る。しかし、それは果たせなかった。パラドが陣地から躍り出てきたからである。立ちふさがる敵兵はパラドの馬上槍の穂先にかかるまでもなく、馬に踏み荒らされて散り散りになった。

(策があるとかではなく、力押しか⁉)

 予想とは違う展開に驚愕するマルコであったが、パラドは圧倒的な勢いで敵陣を貫いて行き、不安など感じていない様子でヘカトンケイルに突き進んでいった。

 相手のヘカトンケイルであるが、こんなに正面から挑みかかられて気が付かないわけがない。警戒を強めて威嚇の雄叫びを上げた。一見知性が低そうに見えるが、長く生きると腕が更に増え神にも匹敵すると言われるほどの存在まで成長する。

 ブン!

 と、音をたてて子供位の大きさの岩が飛来した。これに対しパラドは盾を掲げて対処し、岩はパラドの左後方へ逸れていった。常人では逸らすどころか一撃で即死だ。

 岩を弾いたパラドは、ヘカトンケイルの間近に迫る。もう今にも馬上槍がヘカトンケイルに届きそうだ。次の瞬間、ヘカトンケイルが手にした大木のような棍棒を横薙ぎに振り払う。棍棒が通過した後、馬上からパラドの姿は消えていた。

 ヘカトンケイルは歓喜の雄叫びを上げた。多少は出来るようであったが、所詮はただの人間、巨人族に敵うはずがない。

 しかし、実際に出たのは苦痛の呻き声であった。その左脛には馬上槍が深々と刺さっており、その根元を見ると馬の腹の下にすがみつくパラドの姿があった。鐙を外し、馬の腹の下に逃れて即座に反撃したのだ。生まれた時から馬上で過ごし、馬術に習熟している遊牧民だとてこんなことは難しいだろう。

 ヘカトンケイルに痛烈な一撃を与えると、馬はそのまま駆け抜けていき、パラドは地上に降り立って剣を抜いた。そして素早く回り込むとヘカトンケイルの右ふくらはぎを切り払った。切断とまではいかなかったが、深々と食い込み、両足を大きく負傷したヘカトンケイルは両膝を折り、地に伏した。

 ヘカトンケイルの背に素早く飛び乗ったパラドは剣を背中に突きつける。

「確か、この辺から突き通せは心臓に届くだろう。首の一つや二つを切り落としても無駄だがこれには耐えられまい」

「何故、それを?」

「魔族にも似たような性質の奴がいたからな。なんとなくだ。さて、降伏をお勧めするぞ」

「俺を倒して勝ったと思っているな? 俺の二倍は強い兄者がこちらに向かっているのだ。俺を殺したのなら必ずやお前を殺すだろう。どうだろう? ここで俺を助ければお前を助けるように口添えしてやっても良いぞ?」

「新入り! 耳を貸す必要はないぞ!」

 割り込んできた大音声にパラドは声の方向を見ると、長い青髪の戦士がこちらに向かって来るのが見えた。纏う鎧は太陽の光を反射して輝いており、恐らくミスリル製であろう。これほど貴重な鎧がこんな場末の戦場で使用されていることにパラドは驚いた。

 そして、よくよく青髪の戦士を観察したパラドはさらに驚いた。この戦士は今しがたパラドが倒したヘカトンケイルよりも一回りも二回りも大きいヘカトンケイルを片手で引きずりながらこちらに歩いて来ていたのだ。それほど屈強な体格ではないように見えるのに驚きの膂力である。もっとも体格とかそういうレベルの話ではないのだが。

「あいつ、化け物か」

「お前が言うな。まあ気持ちは分かる」

 ヘカトンケイル(弟)も驚きすぎて、兄の身を心配するとかの反応は忘れてしまっている。

「貴殿が団長殿ですかな?」

「その通り。私が青竜兵団団長、シグニッツァである。よろしくな」

 そう言いながらヘカトンケイル(兄)を引きずりながら悠然と歩を進める青髪の戦士は女であった。兜から除くその容姿は端正であり、神話の戦乙女の様だった。

「皆の者! 敵軍の要は私とこの新入りの同士が打ち破った! ここれより残敵を掃討する!」

 味方を鼓舞するシグニッツァの叫びに、士気が高揚した傭兵達は敵を殲滅せんと雄叫びを上げて陣を飛び出た。それに対し、

「「「降伏します!」」」

 助っ人の巨人をあっさりとやられてしまったため士気がどん底のベルガンディ軍は、一斉に降伏を申し出た。ある意味当然の帰結といえる。

 これが、後にバーゼル地方を全土を巻き込む青竜兵団の本格的な戦いの幕開けであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
  ▼▼▼ 第26回書き出し祭り 第3会場の投票はこちらから ▼▼▼ 
投票は2026/01/10(土)18:00まで!
表紙絵
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ