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3-14 明日ゆめの怪異調査録

学校で見つかった“美少女の死体”は、騒ぎの最中に忽然と消えた。明日ゆめは友達からのお願いで、唯一の接触者である幼馴染の新太に会いに行く。

家に到着すると、目の前にいたのは――あの死体そっくりの、美しすぎる少女。

しかも「俺が新太だ」と告げられ、ゆめは困惑の中、新太と手掛かりを探しに民族学を学ぶ姉の元に訪れる。


奇妙な事件に潜む“何か”を突き止めるため、ゆめは再び怪異を調査する調査録を開く。


怪異×青春×ミステリが始まる!

 死体がある!


 誰かがそう叫んだのを聞いて、私たちは一目散に廊下へと飛び出した。あっちにあるらしいよ。えー嘘ー。スマホスマホ! という喋り声の中で、一際はっきり聞こえる声が、また私たちを導いた。


 体育館にあるんだって!


 夏の風が窓から吹き込んでくる。先生が私たちを食い止めようと叫んだり、手を広げたりする。ゆめ、見に行こう! と、友達が私の手を引っ張った。


 私たちが体育館につくと、死体は確かにそこにあった。バスケットボールのコートの真ん中にあるあの半球。あの中に、しなだれたあと支えられるものを無くして倒れたような姿勢で、死体が横たわっている。静まった空気の中で、誰かがうわ、美人……と言った。誰もそれに反応しなかったのは、皆が同じことを思ったからだろう。床にくずれおちた髪の毛は幾本もの川を作って、煽情的な美しさをかもし出していた。


 うちの制服ではなかった。学ランなのかブレザーなのか分からないうちのと違って、彼女はセーラー服を纏っている。


 誰かが押し出されるようにして、みんなの前に出た。新太だ。英語の授業中に先生が誰か答えられる人いませんか? って言ったときに、「新太いけるらしいでーす」とか言われてやめろよ、とか言いながら結局答えていたのを覚えている。


 おい、やめろよとかいって戻ろうとするけど、仲間たちがそれを許さない。結局、彼は諦めてその死体へと近付いていった。言うこと聞いちゃうから増長するのに、と思うけど、本人も興味深げに近付いていったから、内心満更でもないのだろう。


 それで、みんなの注目を集めながら死体に触ろうかどうか、迷っているらしかった。手は所在なさげにふわふわと宙を漂っていて、頭は死体と見守る私たちの間に置いて目だけが忙しなく動いている。新太と死体を取り巻くみんなが、次の展開をじっと見守っている。


 おい、脈とってみろよーという言葉が体育館に響いて、新太は膝をついて恐る恐る死体の腕を取った。それはとても華奢な腕だった。白に純白を塗りたくったような綺麗な腕。夏服が肩にずり落ちて、新太が息を飲むのがわかった。二本指を手首にあてた。動脈の位置はそこじゃないのに、自信深く頷いて、「脈は、ありません……!」と言った。


 その時だった。体育教師の佐原が怒鳴りこんできた。私たちはクモの子を散らすように逃げ帰った。死体と取り残された新太は、この騒動を代表して先生方に怒られるだろう。


 教室に戻った私たちは、あれが本当に死体だったのか、議論をしながら救急車と警察が来るのを眺めている。


 ※※※


「新太、今日も来てないじゃん」


 ゆっこが箸を私に向けながら言う。


「うわ、しつけなってな〜。親の顔が見てみたいものだわ」


 と、私が茶化して言う。ゆっことはお昼を一緒にする仲だ。


「うるさい! 私がしたいのはその話じゃないの! ほら、どう思うのよ、ゆめ」


 私は卵焼きを頬張りながら、


「なんで私が何か思わないといけないのよ」

「だって、幼なじみじゃん」

「いや、幼なじみと言っても家近いだけだし。それに仲良いなんて言えた時期は、小学校くらいだよ」

「小中高同じなくせに〜。もう三日も休みだよ? 絶対死体の祟りだって」


 クラスに戻ったあと、みんなが興奮に顔を上気させて男女関係なく喋りたくっていた。あの死体はなんなんだ、新太だけ怒られてやんの、先生が帰ってこないので騒ぎたい放題だった。


 ゆっこが、クラスで一番イケメンと真顔で言っていた高橋くんと、そんな話でキャーキャー盛り上がっていたのを、私は横で聞いていた。


 こうして私に調査を頼んできたのも、この話の続きになるものを探しているからだろう。担任も事件について詳しくは教えてくれなかった。


「結局あれ、目を離した隙に消えてたって噂だし。私達のとこに先生が話を聞きに来ないのも、ただの妄想とかストライキとかってことになってるみたいよ。だからさ、逆に気にならない? ゆめ、高田くんから話聞いてきてよ!」


 うええ、と私は思い切り嫌な顔をする。


「そんなの、絶対、やだ!」


 といったはずの私は新太の家の前にいて、手にはお見舞いのゼリーが入ったレジ袋が握られてある。


 SNSでもなんでも使って聞き出せばいいじゃない、と私は言ったけど、誰からの連絡でも、新太は適当な返事でごまかしてくるらしい。LINEで電話をかけてみたけど、見事に不在着信の表示が出るばかりだった。


 覚悟を決めて、インターホンを押した。


「はい……?」

「あの、すいません、明日ゆめです。新太いますか?」

「……入ってください。」


 女の子の声だった。高田家の家族構成はパパ、ママ、兄、新太だったはずだ。でもこの声は、新太ママの声ではない気がした。


「お邪魔しまーす?」


 家の中は人気がなかった。私は小さい頃の記憶から、そのままリビングへと入っていった。


「新太、いる? お見舞い、持ってきたよ」


 私は無断で扉を開けた。ソファの上に布団を被った人形の山が出来ている。


「ゆめ……」


 声の主は、どう考えても新太ではありえない。くぐもった声は高く透き通っていて、それは女性であることを示していた。しかし高田ママの声でもない。私はインターホンに出た女の子と同じ声だということに気がついた。

 部屋の中は暗かった。カーテンが閉めっぱなしになっているせいだ。私は電気をつけた。


「そうだよ、あなたは? 新太はどこ」

「俺が、新太なんだよ」


 布団から現れたのは、女の子だった。それもとびきり美人な。


「いや、性別が、顔も全然……」


 顔が違う。高田家の遺伝子ではこの顔を作り出すことはできない……といったら失礼だけど、高田ママは可愛い系であるのに対して、この子はモデルのような美人なのだ。


「でも、ほんとうなんだ。それに、見覚えがあるだろ、ゆめ」


 新太と名乗る美女は、私の目をじっと見つめる。その瞳には困惑とすがるような必死さがあった。でも私には全く見覚えがない。

 すると、彼女はソファから降りた。さらりと長く、水のように滑らかな髪の毛がするりと重力に従って垂れる。私は、あ、と思い、


「ゆめも、あの体育館にいただろう」


 その握ってしまえば壊れてしまいそうな、華奢な腕を凝視する。


「俺、あの死体と同じ体になってるんだ––」


 私は困惑する。ただ、と意味の分からない状況の中で頭を落ち着かせようと一息付いてみる。私の長所は、とりあえず人の話は一旦聞いてみる、だからだ。

 ただのお茶目な転校生という可能性も、無いわけではないのだから。

 私はこめかみに手を当ててうーん、と唸りながら尋ねる。


「確かに、えーと、あなたがあの死体だとして……なんでそんなことになっちゃったの」

「全くわからないんだ。だからこそ、のぞみさんに頼ってみるのが一番だと思う」


 のぞみ。私の姉。姉は今大学生で、一人暮らしをしている。民俗学の研究をしていると言っていた。


 私は少々憂鬱な気持ちになる。姉と私は仲が悪いわけでは決してない。むしろ良い方だとさえ思う。

 確かにこういった怪異は姉にとってお得意のものだろう。


 姉と私と新太。幼稚園の頃からの幼馴染である私たちは、ひと言で言って腐れ縁だ。

 基本は姉がトラブルを呼び込んで、私たちが巻き込まれる。


 また、姉は色々なことを知っていた。


「螺鈿細工の骸骨の作り方はね、気の遠くなるようなやすりがけの作業を必要としてないんだよ。アダム加工を施した旋盤で、八〜十ヘルケルの微弱電波を掛け続ければ出来上がるの」


 姉は少しおかしいのだ、と私が気付いたのは、私達が遊ぶ時、決まって不可解なことが多く起きるようになったからだ。

 お祖母ちゃんの田舎での神隠し、フトコロ様、ミルクティー逃走事件。

 姉はその全てを解決した。

 新太はそんな姉を怖がっているようだった。夜中遅くまで起きていると幽霊が迎えにくるよ、というような恐れを姉に抱いているようだった。

 それも当然で、そういった怪異が起きる時は、姉が必ず側にいる時だけだったのだ。

 それを察したのか姉もこちらに無理に関わってくることはなくなり、遊びに誘う筆頭がいなくなったことで、私と新太の関係は過去仲良かった幼なじみ程度になっている。


 そんな私たちだったから、新太が女の子になっていても、理解は出来なくても無理やり納得することはできる。

 面を食らったものの、私は新太と名乗る女の子の横に腰掛けた。


「ゆめ、俺が元に戻るための手伝いをして欲しい……」


 喋り方が新太まんまなのに、見た目は可憐な女の子だ。接し方がわからなくて、とりあえず頷く。

 この不可解な状況の中で、私の頭はもう既に停止していた。


「それで、頼みたいことがあるんだけど」

「なに?」

「ゆめの服、貸してくんない?」


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