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3-09 暴走天使の殺戮紀行

古代文明の遺産である破壊兵器、通称《天使》。

不幸にも起動された彼女に下された命令は、全人類の根絶である。


滅びゆく人類の抵抗の軌跡。

暴走天使の殺戮紀行、どうぞごゆるりとお楽しみください。

 神代と呼ばれる時代の産物。

 古の遺跡に、一人の男が侵入した。


 男の名はローウェン。

 未踏の遺跡に潜り、そこに隠された財宝を売り捌くことで生計を立てている。いわば盗掘家だ。


 本来であれば、個人での遺跡の探索は遺跡の保護、遺物の盗難防止、そして危険性の観点から固く禁じられている。

 しかし、それでも遺跡に踏み入る者は後を絶たない。


 何故かと問われれば答えは簡単で、儲かるからだ。

 神代の遺物は希少であり、現代では再現できないものが殆どだ。その中には日用品のようなものも多く含まれるが、一部には危険な兵器が存在する。


 代表的なものを挙げるのなら、『銃』が良いだろう。

 魔術的素養が無くとも扱える、重い金属の塊を目にも止まらぬ速さで発射する鉄の筒だ。神代の遺物の中では比較的多く発見され、扱いもそう難しくないものが多いため、非常に高値で取引されている。


 だが、このような遺物はまず正規では出回らない。

 それこそ、盗掘されたようなものでなければ金を払っても手に入らないのだ。

 故に盗掘家は、厳密には、取引のためのルートを持っている盗掘家は非常に儲かる。




 ローウェンはそんな盗掘家の一人だ。

 事故や検挙による引退者が多いなか、それを避けながら長く仕事を続けている。


 ただ、彼は別に、金に困っているわけではなかった。

 何度も言うが、盗掘家は儲かるのだから、余程の借金でも拵えていなければ、三度も潜り価値あるものを持ち帰れば十分に一生遊んで暮らせる金が手に入る。

 しかし、ローウェンはもうずっと、何度も遺跡に潜り続けていた。


 何故と問われれば、彼は笑ってこう答えるだろう。


『楽しいから』


 と。

 たったそれだけの理由で危険な非合法の仕事を続ける辺り、きっと彼は頭がおかしいのだろう。それは彼も自認することだ。


「ん……?」


 だが、如何な彼とて死にたいわけではない。

 遺跡に潜るときには常に細心の注意を払っているし、危険を感じれば即座に逃げを選べる程度の冷静さは持ち合わせている。


 だからそれに気付けたのは、その注意深さと長年の経験故だった。


「なにか、違うな」


 言語化できない違和感を口に出し、頭を整理する。

 気の所為と片付けても良いが、それをした者は皆死んだ。それほどに、遺跡は危険だ。

 その前に違和感を感じ取った己の脳を褒め称えつつ、直感に理由を後付けしていく。


 ――恐らく、内装、というよりも間取りが違う。


 一般的に、遺跡とは神代の民家か、大型の商店のようなものだとされている。

 その説に異論を唱えるつもりはローウェンにはなく、事実そうだろうと考えていた。


 しかし、それにしてはこの遺跡は少々入り組み過ぎている。まるで外から来た人間を惑わせるような、民家というにも商店というにも不親切な設計だ。

 また、通常の遺跡と比べて施設の劣化が少ないのも不気味だった。


 ――引き返すべきだろうか。


 一瞬そう考えて、すぐに頭を振って否定した。

 流石にそれは弱気がすぎる。この際、収穫がないのは構わないが、違和感に確信を得ておきたかった。


 より一層注意を深くし、ゆっくりと進んでいく。

 すると、目の前に比較的、否。殆ど劣化が見られない扉があった。


「まさか、設備が生きているのか……?」


 ありえないことだった。

 神代は少なく見積もっても三千年以上過去の文明だとされている。確かに現代とは比べ物にならない技術を持っていたとはいえ、それほどの期間稼働し続ける設備など、考えられないことだ。


 だが、そうとしか考えられないのも事実。

 ローウェンは少し考えて、そっと扉に触れた。


「……開いた」


 ギシと音を立てて、扉が横に動いた。

 触れたことを感知したからだろう。やはり設備は生きているらしい。


 その割に鍵などが掛かっていないのが疑問だったが、今はそんなことよりも扉の中が気になった。

 幸い、設備が生きているなら崩落などの危険は薄いだろう。ここは普通の遺跡とは違うようだから、罠なども警戒しなければならないかもしれないが、現状それは確認できない。


 意を決して、ローウェンは扉を潜った。


「これ、は……!」


 中にあったのは、数え切れないほどの銃。

 そして見たこともないような武器の数々だった。


「まさか、軍の施設か何かだったのか!?」


 思わず、危険を確認しないままに武器へ飛びついた。

 恐らく、いや確実に、この部屋の全てを合わせれば孫の代まで遊んで暮らせるほどの価値がある。

 しかも、部屋の奥にはまだ扉があった。


 知らず、喉が鳴った。


 ローウェンは金のために遺跡へ潜っているわけではない。

 だが、楽しいからという理由の一つに、大きく稼げたときの快感が含まれていないと言えば嘘だ。

 興奮に、胸が高鳴る。欲張るべきではないと、理性のどこかが叫んでいたが、この心臓の鼓動に比べれば囁きのようなものだ。


 彼は迷わず、奥の扉へ手を伸ばした。


 いや、手を伸ばしてしまった。そう語るべきだろう。




 その扉もまた、鍵も何も必要なく簡単に開いた。

 先程の部屋と比べ中は暗く、狭かった。


 光で照らしてみたが、武器の類は見当たらず、部屋の隅には机と書棚、部屋の中心には、人一人が寝転がれそうな台座。

 そしてその上に、美しい少女が横たわっていた。

 遺跡の扉の中にいる以上、生身の人間であるとは考えられない。


「……自動人形(オートマタ)、なのか?」


 であるのなら、それ以外はありえないだろう。


 自動人形とは、遺物の一つで、神代においては主に労働力として扱われていたと考えられている、文字通り自動で動く人形である。

 滅多に見つかることはなく、稀に動く状態で見つかったものは、王族が直々に買い取るほどの価値がある。


「状態は……良さそうだな。外見もかなり整ってる」


 目を細め、経験により鍛えた鑑定眼を発揮する。

 これならば、かなりの値が付くだろう。

 問題があるとすれば。


「起動、するのか?」


 神代の遺物とは、基本的に繊細だ。

 自動人形に限らず、外側の状態が良好であっても、内部が少しでも破損していれば機能しない。

 もちろん、技術的な問題で修理はできないため、その場合は見た目が良いだけのスクラップである。

 それでも十分すぎるほどの値は付くが、起動するものと比べれば雲泥の差だ。


「…………」


 自動人形の首、うなじの部分に手を這わせる。


「……あった」


 他の部分に比べ、少しだけ硬質な突起。

 他の自動人形にも共通する、起動のためのボタンだ。


 一瞬の逡巡。

 しかし彼は。


 ◆


 押すべきでないことは理解していた。

 幾度も言ったように、遺跡や遺物は危険だから。

 だが、少しでも躊躇ったのかと問われれば、決して首を縦に振ることはできない。


 何故か。いや、考えるまでもない。


 きっと、その天使のような風貌の人形に魅入られてしまったからだ。

 動いている姿を見てみたい、という幼子のような好奇心に負けてしまった、


 全く、ローウェンという男は救いようがないな。


 そんな自嘲をして、


 意識が


 途絶え


 た


 。




 ◆




 彼女に名前はない。

 それを付ける筈だった人間は、既に死に絶えているからだ。


「起動:確認」


 血溜まりに沈んだ男の隣で、美しい少女が立ち上がった。

 さらりと流れる銀の髪、声は自動人形だというのに機械的ではなく、滑らかで澄んでいる。


「報告:接触許可を得ていない人間の接触を確認。

 許可申請:省略。自己防衛を実行しました」


 彼女は、神代に於いて帝国と呼ばれていた国によって造られた。

 終末戦争末期、劣勢に立たされた帝国が逆転のために生み出そうとし、滅びに至ろうと終ぞ完成しなかったもの。


主人(マスター):……不在。命令の更新を確認できません。初期命令(プロトオーダー)を実行します」


 其は、死に損ないが敵国への怨念全てを注ぎ込んだ傑作。


命令(オーダー):」


 其は、劣勢を覆す最強の兵器。


「帝国人を除く全人類の根絶」


 其は戦知らずの敗残兵(ラストスタンド)

 未だ世界を知らぬ殺意の具現。


 神代の帝国が残した、最悪の忘形見である。




 ◆




 982年-3/21 クルド・ユーフィ


 [《天使》の出土地に関する報告書]


 暴走遺物「自動人形 《天使》」の出土地と目される遺跡の調査結果を記述する。

 《天使》初観測地点周辺に調査隊を派遣し、大規模な遺跡を発見。

 保存状態は良好であり、特に《天使》が安置されていたと思われる部屋は殆ど劣化が見られなかった。

 《天使》に関する情報はほぼ得られておらず、更なる調査が必要と思われる。


 また、《天使》が安置されていたと思われる部屋で、《天使》を起動したと見られる男の遺体が見つかった。

 身元は現在調査中である。


 余談ではあるが、現地調査員によれば、遺体は満足気な表情をしていたそうだ。




 記述時点の天使による被害。

 確定人数――1027名。

 概算被害人数――8000名超。


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