第12話:レギュレーターの祈り
ゾルグの仁義を知り、シンが自らの戦いの意味を改めて刻みつけてから、さらに数日が過ぎた。アンダーランドの和解と復興は、確かな軌道に乗り始めていた。
その日の夕刻、ティアはシンをかつての長老議事堂へと呼んだ。そこは共同体の新たな意思決定の場となった円卓の間だ。そこにはリラ、ケン、ザイン、ガンナー、そして旧ゾルグ派を代表する者たちも集まっていた。
「皆さん」
ティアは全員を見回し、静かに語り始めた。
「地球の再生は始まりました。惑星のエネルギーグリッドは繋がり、大気は浄化され、大地は生命力を取り戻しつつあります」
彼女の言葉に誰もが希望の光を感じた。だがティアは続けた。
「ですが、これを完全に終わらせるためには、最後のプロセスが必要です」
「最後のプロセス?」
シンが問い返す。
「はい」ティアは頷いた。
「この再生の律動を永遠に安定させなければなりません。この星の生命が二度と道を踏み外さぬよう、導くための『意思』が必要です」
「それはつまり……」
「私がこの星のコアネットワークと一つになります」
ティアのそのあまりにも静かな告白。その場にいた誰もが息を呑んだ。
「私の個としての存在を犠牲にして、この星の生命そのものとなるのです。それが私『レギュレーター』に与えられた最後の、そして最大の役目」
「そんな……!」
シンは立ち上がった。
「そんなことできるわけがない! 君は俺たちと共に生きていくんじゃなかったのか!? この新しい世界で!」
父アキトを失い、祖母エタも失った。そして、ゾルグという好敵手も。これ以上、かけがえのない存在が目の前から消えていくことに、彼の魂が悲鳴を上げていた。
「シン」
ティアは優しく彼を見つめた。
「これは死ではありません。私は消えるのではないのです。この星の全てになるのです」
彼女はそっと窓の外を指差した。その先にはKMSのホログラムが映し出す、青く輝く地球の姿があった。
「私はこの星の風になります。水になります。光になります。そして、これから生まれてくる全ての生命となります」
「あなたたちが寂しい時は、風があなたの髪を撫でるでしょう。嬉しい時は、光があなたを祝福するでしょう。私は、いつだってあなたたちの傍にいます」
そのあまりにも大きく、そしてあまりにも優しい愛。その前では、どんな言葉も無力だった。シンはただ唇を噛みしめることしかできない。彼女の決意は、彼女自身の存在意義そのものだったのだ 。彼は、受け入れるしかなかった。このあまりにも尊い自己犠牲は、彼女が選んだ、未来への祈りなのだから。
2話目は本日12時を予定しています。




