第10話 採掘夫の鎮魂歌
静寂が戦場を支配していた。
シンの金色のオーラだけがこの薄暗い地下空洞を静かに照らし続けている。
全ての兵士が固唾を飲んで二人のリーダーの対峙を見守っていた。
シンはパワードスーツの機能を解除した。そして無力化された戦闘ユニットから静かに大地へと降り立った。彼は武器を構えていない。ただまっすぐにゾルグへと歩み寄っていく。
ゾルグは膝をつき激しく咳き込んでいた。
そして自らの手のひらに浮かび上がった黒い痣を見つめている。
それは彼が仲間を守るために戦い続けた証。そして彼自身の命が尽きかけていることを示す死の刻印だった。
「そうか」
ゾルグは吐き捨てるように言った。その声にはもう怒りはなかった。ただ深い深い疲労と諦めが滲んでいた。
「これが俺の結末か。仲間を守るために掘り続けたあの忌まわしい石に、俺自身が喰われるとはな」
「ファントム・ロック……」
シンの声が響いた。
「その毒はもうあなたの体中に回っている」
「知っていたのか、シン」
「ああ。俺たちは何と戦っていたのかを知っている」
ゾルグは力なく笑った。
「そうか。ならばもう隠す必要もないか」
彼は語り始めた。事故で失った妻と娘の話を。
KMSの冷たい確率論に見殺しにされたあの日の絶望を。
「俺はKMSを信じないと決めた。アウロラを神と崇める貴様らを軽蔑した。人の命は効率や確率なんかじゃない。意地と誇りと、そして仲間への仁義で守るもんだと、そう信じてやってきた」
「君は間違っていない」
シンは静かに言った。
「あなたの思いは本物だ。だがその誇りがあなたを真実から遠ざけた。あなたは俺たちの助けを憐れみだと思った。違うか?」
ゾルグは答えられなかった。シンの言葉が彼の心の最後の砦を打ち砕いた。
その時ティアが二人の傍らに静かに歩み寄った。ゾルグはその人形のように美しい少女を初めて間近に見た。
「なんだその子は……。あれもKMSの技術か……?」
「彼女はティア。俺たちの未来だ」
シンは答えた。
「憎しみではなく癒やしで星を再生させる力。俺たちが共に築けたはずの未来の象徴だ」
ティアのあまりにも清らかな蒼い瞳。その瞳を見た瞬間ゾルグは全てを悟った。
自分は道を間違えたのだと。憎しみに囚われるあまり全く別の答えがすぐそこまで来ていたことに気づかなかったのだと。
「そうか……。そんな未来もあったのか……」
彼の体から力が抜けていく。
「シン……」
ゾルグは最後の力を振り絞りシンに手を伸ばした。
「俺の仲間たちを……あの馬鹿でどうしようもなく、そして誰よりも優しい俺の家族を……頼む……」
それはゾルグの最後の「仁義」だった。
シンはその手を力強く握り返した。
「ああ。約束する」
ゾルグは満足げに微笑んだ。
そしてまるで眠りにつくかのように静かにその目を閉じた。
彼の長い長い戦いは終わった。
採掘夫ゾルグ。
彼は最後まで自分を信じる者たちを守ろうとした、一人の悲劇の英雄だった。
シンの心に熱い何かが込み上げてくる。
彼は立ち上がるとゾルグ派の兵士たちを見渡した。
彼らは指導者を失い、ただ呆然と立ち尽くしている。
「戦いは終わった」
シンは力強く宣言した。
「もう憎み合う必要はない。俺たちは今日から再び一つの家族だ」
その言葉がアンダーランドに響き渡った。




