第9話 浄化の光
大規模な戦争は終わった。
しかし最後の戦いはまだ終わっていない。轟音と共に本体から切り離されたゾルグの戦闘ユニット。それは移動要塞の頭脳であり彼の玉座でもあった。その獣のような機体が全ての砲門を『レガシー』へと向けていた。
「シン……!」
リラが息を呑む。船対船の戦いになれば満身創痍の『レガシー』がもたない。
シンは静かに立ち上がった。
「……俺が行く」
「シン隊長!?」
ケンが驚きの声を上げる。
「この戦いは俺と彼の問題だ。ここで決着をつける」
シンは格納庫へと向かった。そこには探査隊が地表の過酷な作業用に開発していた一体のパワードスーツがあった。それは戦闘用ではない。だが人間の身体能力を何倍にも引き上げる力を持つ。シンがスーツを装着する。
その時、彼の後ろにティアが静かに立っていた。
「シン。あなたのその力だけでは勝てない」
彼女は言った。
「彼の憎しみはあまりにも大きいから」
「……分かっている」
「だから私の力も一緒に連れて行ってください」
ティアはそう言うとシンのパワードスーツの胸にあるエネルギーコアにそっと手を触れた。
彼女の体から金色の温かい光がスーツへと流れ込んでいく。
スーツの無機質な金属の表面に生命の輝きを宿した光の回路が浮かび上がった。
「……これは……」
「今のあなたなら彼の憎しみを乗り越えられるはず」
『レガシー』のハッチが開く。
金色の光をまとったシンのパワードスーツが大地に降り立った。
その神々しいまでの姿に、戦いの行方を見守っていた両軍の兵士たちが息を呑む。
『……その姿はなんだシン! 最後までKMSの奇術で俺を愚弄するつもりか!』
ゾルグの怒りの声と共に彼の戦闘ユニットが突進してきた。
搭載されたガトリング砲が火を噴き、無数の弾丸がシンへと降り注ぐ。だがシンはその場から動かない。ティアの光で強化されたエネルギーシールドが全ての弾丸をいともたやすく弾き返した。
シンは地面を蹴った。その動きはもはや人間のものではなかった。金色の光の尾を引きながら彼は弾幕の中を駆け抜けていく。そして一瞬でゾルグの戦闘ユニットの懐へと潜り込んだ。
彼は破壊を選ばなかった。
パワードスーツの腕に搭載された小型のパルスガンで戦闘ユニットの武装を一つまた一つと正確に破壊していく。
砲台を破壊する。
ミサイルポッドを破壊する。
そしてその動きを支えるキャタピラを破壊する。
その金色の光が触れるたびにゾルグの機械はその凶暴な力を失っていく。
まるで憎しみそのものが浄化されていくかのようだった。
やがてゾルグの戦闘ユニットは全ての牙を抜かれた。それはもはやただの動かない鉄の塊と化していた。シンはその機体の上に静かに降り立った。
彼の金色のオーラがこの薄暗い地下空洞を照らした。それはまるで夜明けのようだった。
勝敗は決した。
だがそれはどちらかが勝ったということではなかった。
憎しみの連鎖を断ち切るという新たな答えが示された瞬間だった。全ての兵士がその光景を呆然と見つめていた。
やがて戦闘ユニットのハッチがゆっくりと開き、中から現れたゾルグ。
彼は激しく咳き込み、その場に膝をつきそうになる。その体は明らかに限界を迎えていた。
彼はライフルを構えることさえせず、力なく持ち上げた自らの両の手を呆然と見つめている。
その手のひらには黒い痣が浮かんでいた。
それはシンの攻撃によるものではない。彼が仲間を守るため、危険な鉱石『ファントム・ロック』をその身で掘り続けた代償として、彼の体に深く刻まれた、死の刻印だった。
ゾルグ自身も、シンの放つ神々しい光に照らされて初めて、その痣の意味に気づいたのかもしれない。
彼はゆっくりと顔を上げた。
そして光の中に立つシンを初めて敵としてではなく、一人の人間としてその目に映した。
二人のリーダーの最後の対話が始まろうとしていた。




