第8話 最後の戦争
ゾルグの最後の言葉がアンダーランドの冷たい空気を震わせた。それは決別の、そして開戦の宣言だった。移動要塞の無数の砲門が一斉にそのエネルギーを解放する。
凄まじい光と音が地下空洞の全てを支配した。
「総員、戦闘開始!」
シンが叫んだ。
「ザイン隊長、回避! リラ、敵の攻撃パターンを解析しろ!」
「了解!」
ザインは操縦桿を握りしめ『レガシー』の巨体を舞わせた。
船は降り注ぐ光の雨を紙一重でかわしていく。
旧文明の無骨な軍事技術。アンダーランドの最新の頭脳。その二つがこの船で融合していた。その機動力はゾルグの想像を遥かに超えていた。
「ガンナー、ケン! 敵の砲台を一つずつ潰せ!」
「応!」
『レガシー』の連装パルス砲が正確な反撃を開始する。その一撃は移動要塞の対空砲の一つを沈黙させた。だが要塞の装甲はあまりにも分厚い。そしてその物量は圧倒的だった。
「シン! このままじゃジリ貧だ!」
ガンナーが叫ぶ。
「奴の攻撃が激しすぎる!」
ゾルグの戦い方は単純だった。ただその圧倒的な火力で全てを更地にする。
それはかつてこの星を滅ぼした父祖たちの戦い方そのものだった。
「リラ! 弱点はまだか!」
「ダメ! あの要塞は複数の独立した動力炉で動いている! 中心部を叩いても意味がない!」
リラの声に焦りの色が浮かぶ。その時、移動要塞の巨大なハッチがいくつも開かれた。
そしてその中から無数の黒い影が飛び出してきた。
「ドローンか!」
ザインが忌々しげに吐き捨てる。それは旧文明の自律型攻撃ドローンの群れだった。
スカベンジャーたちが集めた残骸をゾルグが再利用したのだ。
ドローンの群れは蝗のように『レガシー』へと殺到する。
「まずい! シールドが持たない!」
ケンの悲鳴が響いた。
ドローンたちは『レガシー』の装甲に張り付く。そしてそのドリルで船体を抉ろうとしていた。
船内には耳障りな金属音が鳴り響いた。
「ティア! 何か分かるか!?」
シンは傍らにいるティアに最後の望みを託した。
ティアは目を閉じ意識を集中させる。
「……感じる……。とても単純な命令……。一つの場所から全てのドローンを操っている信号がある」
彼女はそう言うと要塞の一点を指差した。
そこはブリッジのすぐ側にある巨大なアンテナだった。
「……あそこか!」
シンは再び主砲のコントロール席に座った。
「ザイン隊長! もう一度奴の懐へ突っ込みます!」
「無茶だ! ドローンの的になるぞ!」
「やるしかないんです!」
ザインはシンの覚悟を信じた。
『レガシー』は船体に群がるドローンを振り払いながら再び移動要塞へと突進する。
そしてシンは主砲のトリガーを引いた。
放たれた光の一撃が要塞のアンテナを正確に焼き尽くした。
次の瞬間。
『レガシー』に群がっていた全てのドローンがその動きを止め、そして力なく落下していった。
『……小賢しい真似を……!』
ゾルグの怒りの声が響く。彼の切り札は破られたが彼はまだ諦めてはいない。
移動要塞の巨大なブリッジ部分が轟音と共に本体から切り離された。
それは要塞の頭脳でありゾルグ自身の玉座でもある最後の戦闘ユニットだった。
「……シン……!」
ゾルグの声が響く。「俺と貴様で決着をつけよう」
切り離された戦闘ユニットがその全ての砲門を『レガシー』へと向けた。
大規模な戦争は終わった。残されたのは二人のリーダーによる最後の一騎打ち。
シンは静かにそれを見据えていた。
そのあまりにも悲しい戦いを終わらせるために。




