第6話 危険な鉱石
若い兵士が語った真実。それは探査隊の心に重い鉛のような何かを残した。
シンはゾルグという男を完全に見誤っていたことを思い知らされた。彼はただの権力欲に駆られた独裁者ではなかった。絶望的な愛と深い憎しみにその魂を焼かれた、一人の悲劇の男だったのだ。
捕虜であった若い兵士はもはや敵意を見せなかった。シンたちは彼に治療を施し、そして一つの通信機を渡した。
「君の仲間たちの元へ帰ってくれ」
シンは静かに言った。
「そして伝えてほしい。俺たちは戦うために帰ってきたのではない、と」
若い兵士は何も言わずに何度も深く頭を下げ、闇の中へと消えていった。
「シン。これからどうする」
ザイン隊長が問いかけた。
「ゾルグがただの悪党でないと分かった今、俺たちは彼とどう向き合うべきだ?」
その問いにシンはすぐには答えられなかった。
彼は思考を巡らせていた。ゾルグの行動にはまだ不可解な点が残っている。
彼のあの常軌を逸した採掘作業。それはただ新たな居住区画を作るためだけだったのだろうか。ベテランの採掘夫である彼が、無計画な掘削が招く危険を知らないはずがない。
「リラ」
シンはメインコンソールに向かった。
「KMSにもう一度ゾルグ派の採掘データを詳細に解析させてくれ。何か目的があるはずだ。資源じゃない、何か別の……」
リラはシンのその直感を信じた。彼女はKMSの全ての解析能力を一つのタスクに集中させた。『レガシー』の強化されたセンサーと惑星のエネルギーグリッドから得られる膨大な情報を組み合わせる。そしてアンダーランドの地下構造をこれまでにない解像度で再スキャンしていく。
数時間後。
リラは信じられないといった表情で顔を上げた。
「シン……。見つけたわ。ゾルグの本当の目的を」
彼女がスクリーンに表示させたのは三次元マップだった。アンダーランドの深層地質データと放射能汚染の分布図を重ね合わせたものだ。
そしてその一点が禍々しい赤い光で点滅していた。
そこはゾルグ派が今まさに掘り進めている区画の最深部。
「これは……『ファントム・ロック』……」
リラが震える声で言った。
「KMSのデータベースにもごくわずかな記述しか残っていない超高レベルの放射性鉱石。それは特殊な中性子線を放ち続け、KMSの浄化システムさえ通り抜けて人体を内側から静かに蝕んでいく……」
アンダーランドで原因不明とされていた病。それはこの『ファントム・ロック』から放出される放射線によるものだったのだ。そしてゾルグの採掘ルートはその危険な鉱脈を正確に追っていた。
「まさか、あいつ……」
ガンナーが息を呑む。ゾルグは資源を求めていたのではなかった。彼の目的はこのアンダーランドの全てを静かに蝕む毒の根源。この『ファントム・ロック』の鉱脈を共同体から完全に切り離し、そして地下のさらに深層にある奈落へと投棄することだったのだ。
それはあまりにも英雄的で、そしてあまりにも愚かな計画だった。KMSが危険すぎると警告し放棄したその禁断の作業。
それを彼は旧式の装備と彼を信じる仲間たちの命を犠牲にしながら、たった一人で実行しようとしていたのだ。
彼がKMSの介入を拒絶し独自の支配体制を築いた本当の理由。全てはこの誰にも理解されない孤独な戦いを成し遂げるためだった。
「なんて男だ……」
ザイン隊長はそのあまりにも不器用で、そしてあまりにも気高いゾルグの生き様に言葉を失っていた。
ゾルグの行動の裏にあった本当の「仁義」を。
そしてその英雄的な行為が皮肉にも彼と彼の仲間たちを、より直接的な被曝の危険に晒しているという悲劇の連鎖を。
シンの心は決まった。
「リラ。『レガシー』の修理を急いでくれ。俺たちはもう一度彼の元へ行く」
「シン……?」
「もう問答はしない。ただ事実を伝えるんだ」
シンはスクリーンに映る赤い鉱脈の光をまっすぐに見つめた。
「君が戦っている本当の『敵』はそこじゃない、と。そしてその戦いはもう一人で背負う必要はない、と」
それは最後の説得ではなかった。
それは道を違えてしまったもう一人の英雄に対する、シンなりの救出の始まりだった。




