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アルファの記憶 Memories of Alpha  作者: 空想シリーズ
第4部 夜明け
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第4話 二つの正義

『レガシー』の主砲が放った一条の光は移動要塞の心臓部を貫いた。

轟音と共に要塞の旧式エネルギー炉が爆発する。巨大な鉄の体は激しく震え、その動きを完全に停止さ黒い煙が立ち上る。ゾルグ派の兵士たちが狼狽する声が聞こえた。


「やったか!?」


ケンが歓喜の声を上げた。

だがシンの表情は険しいままだった。


「いや、まだだ」


彼の言葉を裏付けるように移動要塞は再び軋むような音を立てて動き始めた。補助動力に切り替えたのだろう。その動きは鈍く、明らかに深刻なダメージを負っている。要塞は戦闘の続行は不可能と判断したのか。ゆっくりと廃棄区画の闇の奥へと後退を開始した。


『レガシー』もまた満身創痍だった。左翼エンジンは破壊され、船体の至る所から火花が散っている。追撃は不可能だった。

最初の大規模な戦闘はどちらの勝利でもない。互いの戦力を削り合うだけの消耗戦という形で幕を閉じた。


船内に重い沈黙が流れる。

シンが呟いた。


「……これではダメだ」


「このまま戦いを続けても待っているのは共倒れだけだ。俺たちの父祖と同じ結末が……」


彼は立ち上がるとリラに向き直った。


「リラ。KMSの全ての通信回線を開いてくれ。アンダーランドの全ての住民に俺の声を届けるんだ」


リラは何も言わずに頷いた。

数分後、シンの顔がアンダーランドの全ての公共モニターに映し出された。

ゾルグ派が支配する区画にもその映像は強制的に割り込んでいった。


『アンダーランドの全ての同胞たちへ』


シンの声は静かだった。しかしその響きにはこれまでの旅で得た確信と重みが宿っていた。


『俺はシン。地表から帰ってきた者だ』


彼は勝利を宣言しない、ゾルグを非難することもしなかった。

ただ静かに語り始めた。


『俺たちはこの戦いを止めなければならない』


そして彼はKMSの映像を切り替えた。そこに映し出されたのは探査隊がその目で見てきた再生を始めた地球の姿だった。

――緑の若葉を芽吹かせ生命の歌を取り戻した森の光景。

――青い水を豊かに湛える砂漠の湖。

――そして雲の切れ間から見えるどこまでもどこまでも青い空。


『これが俺たちの本当の故郷の姿だ。俺たちはこの星を再生させる方法を見つけた。この新しい世界が俺たちを待っている。だからもう争うのはやめよう。憎しみを捨てて共にこの地表へと上がろう。新しい人類の歴史を創るために』


シンの心からの呼びかけだった。

その映像と言葉に多くの住民たちが息を呑み、そして涙を流した。

彼らが失ってしまった神話の世界。それが今確かにそこにあったのだから。


だがその希望に満ちた映像は突如としてノイズと共に掻き消された。

そして代わりにモニターに映し出されたのは玉座に座るゾルグの姿だった。彼は通信を乗っ取ったのだ。


『……美しいおとぎ話だ。シン』


ゾルグはシンを嘲笑うように言った。


『だが俺たちは夢を食って生きることはできん』


彼が合図をすると映像が切り替わる。


そこに映し出されたのは彼の「王国」の日常だった。

――危険な放射性鉱石『ファントム・ロック』を命がけで採掘し運び出す男たちの汗。

――その鉱石の影響で病に倒れた仲間を懸命に看病する女たちの姿。

――そしてわずかな、しかし確かな食料を老人や子供に優先的に分け与える配給所の光景。


『シン。貴様が空に夢を見ている間に俺たちはこの足元の現実と戦ってきた』


ゾルグの声が力強く響き渡る。


『KMSに見捨てられた病人は誰が看取った? アウロラに不要とされた我々採掘夫に仕事と誇りを与えたのは誰だ?この硬いパンを分かち合って今日を生きているのは誰だ!』


彼は立ち上がるとカメラをまっすぐに見つめて叫んだ。


『俺たちは我々自身の手で仲間を守る! 貴様ら我々を見捨てた者たちの甘い言葉にもう騙されはしない!』


その演説は多くのゾルグ派の住民たちの心を熱く揺さぶった。

そうだ、この男こそが我々のリーダーだ、と。

シンが示したのは遥か彼方の「希望」。

ゾルグが示したのは今ここにある「現実」。


二つの決して交わることのない「正義」がアンダーランドの全ての人々の前に突きつけられた。

『レガシー』のコックピットで、シンはゾルグの演説をただ黙って見ていた。

彼は初めて自らの敵の本当の姿を理解した。あれはただの独裁者ではない。

彼もまた自らの正義と仁義を貫き、必死に仲間を守ろうとしている一人のリーダーなのだ。


シンは理解した。この戦いは武力では終わらない。

ゾルグのその歪んだ、しかし純粋な心を救わない限り、真の「夜明け」は訪れないのだと。

そのあまりにも困難な道筋を前に、シンは静かに唇を噛み締めた。

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