第3話 レガシー対移動要塞
『警告。敵性部隊、包囲網を完成。攻撃が開始されます』
KMSの無機質な音声が絶望的な現実を告げた。
『レガシー』の周囲を武装したゾルグ派の兵士たちが完全に包囲していた。
「くそっ、袋のネズミか!」
ガンナーが悪態をつく。
「シン、どうする!?」
ザイン隊長が船長席のシンに問いかけた。
「リラ、エンジンの状況は?」
「メインのエネルギーラインが断線しているわ。ここからじゃどうしようもない。船外に出て直接回路をバイパスさせるしかない!」
それは自殺行為に等しかった。
船の外には銃口を向ける数十人の敵兵がいる。
「……俺が行く」
ガンナーが工具を手に立ち上がった。
「ザイン隊長、援護を頼む」
「いや、俺が行きます」
ケンがその前に立ちはだかった。
「この船の構造は俺とリラさんが一番詳しい。それに俺の方が身が軽い」
彼の瞳にはもう怯えの色はなかった。
「ケン……」
「隊長。俺にやらせてください」
シンはケンの覚悟に満ちた瞳を見て頷いた。
「ザイン隊長、ガンナー。ケンの援護を。リラ、ティア。君たちはKMSで船内のパワーバランスを調整してくれ。エンジンが再起動した瞬間、全エネルギーをシールドと主砲に回すんだ」
作戦は始まった。
まずザインが『レガシー』に残された数少ない機銃の一つを手動で操作し、牽制射撃を開始した。
その隙にケンが大破したハッチから素早く船外へと飛び出す。
彼は銃弾の雨の中を猫のようにしなやかに駆け抜け、大破した左翼エンジンの下へと潜り込んだ。
「ケン! 急げ! 敵の数が増えている!」
ガンナーが別の銃座から応戦しながら叫んだ。
ケンは焦りを必死に抑えながら断線したエネルギーケーブルを掴んだ。熱い。防護服越しでもその高熱が伝わってくる。
彼は震える手でバイパス用の補助ケーブルを接続した。
「……シン! やったぞ!」
ケンの歓喜の声が通信機から聞こえた。
「リラ!」
「了解! 動力炉、強制再起動!」
次の瞬間。
『レガシー』の鋼の心臓が再びその鼓動を取り戻した。
船全体が青白い光に包まれる。その衝撃波が周囲にいたゾルグ派の兵士たちを吹き飛ばした。
「船体が動く! ザイン隊長!」
シンが叫ぶ。
「おう!」
ザインは操縦桿を力強く握りしめた。
『レガシー』は巨人の咆哮のようなエンジン音と共にその巨体を再び起こした。
だが彼らの目の前に新たな絶望が姿を現した。
廃棄区画の奥の暗闇から地響きと共に巨大な何かが現れたのだ。
それは旧文明の大型採掘機械や建設車両をいくつも連結し、その上に無数の砲台を取り付けた、まさに「移動要塞」だった。
その醜悪で巨大な鉄の塊こそがゾルグの王国の象徴であり、最大の戦力でもあった。
『……小賢しい真似を』
移動要塞からゾルグの不快な声が響き渡る。
『だがそれもここまでだ。鉄屑にしてやれ』
要塞の全ての砲門が火を噴いた。
凄まじい弾幕が『レガシー』へと襲いかかる。
「させるか!」
シンは自ら主砲のコントロール席に座った。
「リラ、ティア! 奴の弱点を探せ!」
「解析中!……あの旧式のエネルギー炉よ! 装甲が他に比べて薄い!」
「……シン。あそこ……。とても大きな力が集まってる……危ない」
ティアが要塞の一点を指差す。
シンは二人の言葉を信じ、主砲の照準をその一点に合わせた。
「ザイン隊長! 右へ全速!」
『レガシー』が敵の弾幕をかわしながら大きく回り込む。
そして一瞬だけ要塞のエネルギー炉が無防備にその姿を現した。
「……貰った!」
シンはトリガーを引いた。
『レガシー』の主砲から放たれた一条の光が、寸分の狂いもなく要塞の心臓部を貫いた。




