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アルファの記憶 Memories of Alpha  作者: 空想シリーズ
第3章:遺産の探求
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第31話:氷雪の管理者

KMSの無慈悲な警告音とエタ長老との永遠の別れ。二つの絶望が同時に探査隊の心を凍てつかせたが、彼らが悲しみに暮れる時間は残されていなかった。

シンの目の前で白い大地そのものが生き物のようにゆっくりと隆起していくのが見えた。

それは機械ではない。山でもない。

全てを凍てつかせ、全てを永遠の静寂へと還そうとする絶対的な絶望の化身。

氷雪の管理者フローズン・ガーディアンがついにその姿を現したのだ。


その体は巨大な氷山そのものだった。だがその氷はただの水が凍ったものではなく、あらゆる光を拒絶するかのように鈍く黒く輝いている。その中心部には氷の心臓のように、青白い極低温のエネルギー体が不気味に明滅していた。

ガーディアンが動く。山のような巨体が地響きと共に滑り出した。

それだけで周囲の気温がさらに急激に低下していく。『レガシー』の船体がミシミシと凍結していく嫌な音が響き渡った。


「ダメだ! このままでは船ごと氷漬けにされるぞ!」


ザイン隊長は必死に船を後退させようとする。だがキャタピラが瞬時に凍りつきその動きはあまりにも鈍い。


「ガンナー! 主砲で奴の進路を!」


「了解!」


ガンナーがパルス砲を連射する。だがエネルギー弾はガーディアンの分厚い氷の装甲に吸収され霧散していくだけだった。


「リラ! 解析は!?」


「このガーディアンはこれまでの奴らとは全く違う! 知性や感情じゃない……ただ純粋で絶対的な『無』へのプログラム! 全ての熱エネルギーを吸収し、絶対零度の静寂の世界を創り出すことだけを目的としている!」


ティアが言っていた冷たい「絶望」。その正体はこれだったのだ。

このガーディアンは森の守護者のように罪を監視するのではない。砂漠の王のように憎しみを撒き散らすのでもない。

ただそこに存在する全ての「生命」と「変化」そのものを否定し、永遠の氷の墓標へと変えようとしているのだ。


「ティア! 君の力で……!」


シンがティアに最後の望みを託す。

ティアは頷くと再びその身から金色の生命の光を放とうとした。

だが。


「……っ!」


彼女の光はガーディアンが放つ絶対的な低温のオーラの前にかき消され、その輝きを失ってしまった。


「……ダメ……です……。私の温もりだけでは……この星の悲しみそのものには……勝てません……」


ティアの顔が絶望に歪む。

『レガシー』の船内の温度が急速に低下していく。予備電源でかろうじて稼働していたヒーターも限界だった。仲間たちの吐く息が白く凍りついていく。

意識が遠のいていく。

もう終わりなのか。父さんの、そしてエタ長老の想いをここで途絶えさせてしまうのか。

シンが薄れゆく意識の中で自らの無力さを呪った、その時。


その「奇跡」は起きた。

リラのKMSが突如としてこれまで見たこともないほどの巨大なエネルギーの受信を告げた。

それは惑星の裏側から全ての障害物を突き抜け、一直線に彼らに向かってくる温かい光の波だった。

その発信源はただ一点。

地下都市アンダーランド。


『……シン……聞こえるかい……』


エタ長老の優しく力強い声が、探査隊全員の心に直接響き渡った。

彼女はKMSと、そして自らの全ての生命と一体化し、その魂を最後の希望の共鳴波として解き放ったのだ。

その波に乗って彼らの脳裏にアンダーランドの全ての記憶が流れ込んでくる。

アウロラと共に絶望の淵から立ち上がった創世記の日々。息子アキトの誕生と子育て、孫のシンが生まれた日の喜び。リラとケンが共に育った幼い日の思い出。ザインがガンナーが命を賭して守り抜いてきた共同体の平和な日常。

そして今この瞬間も彼らの帰りを信じ待ち続けている名もなき全ての人々の祈り。

それは人類が数百年地下で紡いできた全ての「絆」のエネルギーだった。


「……エタ……長老……!」


シンは涙を流しながらその温かい光をその身に受け止めた。


「……ありがとう……おばあちゃん……!」


エタの最後の祈りは二つの奇跡を起こした。

一つは『レガシー』の動力炉へと流れ込み、その凍てつきかけた鋼の心臓を再び力強く鼓動させた。

そしてもう一つはティアの小さな体へと注ぎ込まれた。


「……シン。みんなの想いが……私に力を……!」


ティアの体からこれまでの比ではない太陽のようにまばゆく温かい金色の光が解き放たれた。それはもはやただの生命エネルギーではない。

絶望を乗り越えそれでも未来を信じようとする人類の「希望」そのものの輝きだった。

金色の光が氷雪の管理者の黒い氷の装甲と激突する。

絶対的な「静寂」と温かい「絆」。「無」と「生命」。

二つの相反する概念がこの極北の大地で雌雄を決する。

やがてガーディアンの黒い氷の装甲にピシ、ピシ、と亀裂が走り始めた。

それは破壊ではない。

長い長い冬が終わり春の陽光を浴びた氷がゆっくりと溶けていくかのような穏やかな氷解だった。

氷雪の管理者は砕け散るのではない。

その巨体は美しい無数の光の粒子となり、オーロラのように極北の空へと昇華していった。

後に残されたのは全ての絶望が洗い流されたかのような、どこまでも清浄な静寂だけだった。

そして彼らの目の前に最後の「サテライト・コア」がその荘厳な姿を現した。

シンはエタ長老が最後に見せてくれた奇跡を胸に、最後の使命を果たすべくそのコアへと歩みを進めた。

人類の夜明けはもうすぐそこまで来ていた。

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