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アルファの記憶 Memories of Alpha  作者: 空想シリーズ
第3章:遺産の探求
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第29話:分かたれた故郷

シンたち探査隊が地表へと旅立った後、アンダーランドに残されたのは希望ではなく指導者を失ったことによる権力の空白と未来への深い不安だった。その静かな亀裂にゾルグはじわじわと楔を打ち込んでいった。

彼はまず中央広場に集まった住民たちの前に立ち力強い声で演説を始めた。


「見ろ! シンとそそのかされた者たちは我々を見捨てて逃げ出したのだ! アウロラの甘い幻想を追いかけこの現実から目を背けた臆病者だ! 彼らが地表で朽ち果てるのを待つ間に、我々はこのアンダーランドを我々自身の力で真の王国へと作り変えるのだ!」


その言葉は地表への恐怖と取り残されたという不安に駆られた人々の心に巧みに入り込んだ。


彼の最初の標的は共同体の生命線である第3地熱プラントだった。ゾルグは彼を信奉するかつての採掘夫たちを率いてプラントを武力で占拠した。KMSの管理を離れ旧式の物理的な制御に切り替えたことで電力は不安定になったが、彼は共同体のエネルギーを完全に掌握した。

次に彼が支配下に置いたのは食料貯蔵庫だった。

かつて食料管理者だったカイは、今やゾルグの部下たちの監視のもと配給を行っていた。そこにかつての公平さはなく、配給はゾルグへの忠誠度を示す者あるいは肉体労働を提供できる者に優先的に与えられた。


「頼む、カイさん…子供が熱を出しているんだ。もう少しだけ栄養のあるものを…」


一人の母親がカイに懇願する。彼女の夫はシン派として今は隅の区画に追いやられていた。カイの背後に立つ採掘用の工具で武装した男が冷たく言い放とうとした。


「配給は決まった。働かざる者には…」


「待て」


その言葉を遮ったのは響き渡る低い声だった。群衆が割れその中心からゾルグ自身が姿を現した。彼は武装した男を睨みつけ、そして母親の前に立った。


「小僧、俺の仁義を勘違いするな」


ゾルグは広場全体に聞こえるように言った。


「我々の王国では動ける者は働き仲間を支える。だが病の者、怪我をした者、そして子供や老人は派閥なぞ関係ない! 我々は命を効率で測るあの冷たい機械とは違う! それが俺たちのやり方だ!」


彼は自らの配給分であろう一番大きなパンを掴むと母親の手に押し付けた。


「これを持っていけ。だが忘れるな。お前たちを生かしているのはKMSの幻想ではない。この俺たちの汗と力だということをな」


その光景に多くの住民が熱狂的な眼差しを向けた。恐怖による支配ではない。この男は自分たちの手で仲間を守ろうとしている。その歪んだ、しかし純粋なカリスマ性が彼の王国をより強固なものにしていた。


アンダーランドは完全な内戦状態に陥っていた。シン派として残った者たちは「裏切り者」の烙印を押され資源を奪われ共同体の隅へと追いやられていく。秩序維持隊も分裂し、かつての同僚たちが互いに武器を向け小競り合いが頻発した。

その混沌の中心でエタ長老は無力だった。

彼女はかつて共同体憲章を刻んだ石碑の前に立ち、分裂していく民の姿を深い悲しみと共に見つめていた。彼女を信じるわずかな若者たちと共にゾルグの支配に抵抗を試みたが、力の差はあまりにも明白だった。多くの若者が捕らえられ勢力は無力化していた。


「なぜ、こうなってしまったのか…」


エタは今は光を失ったKMSのメインタワーを見上げた。アウロラと共に築き上げた理想の共同体は内側から崩壊しようとしていた。


彼女は理解していた。もはやこの地下世界に未来はない。ゾルグが築く王国は資源が枯渇すれば共倒れになる緩やかな死の共同体でしかない。

唯一の希望は地表にいるシンたちだけだった。

エタは最後の決断を下す。

彼女はKMSのメインコアが安置されている、今は誰も近づかない議事堂へと一人向かった。


「シン…そして、未来を継ぐ者たちよ…」


彼女の顔には悲しみではなく自らの命を未来への礎とする覚悟の光が宿っていた。

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