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アルファの記憶 Memories of Alpha  作者: 空想シリーズ
第3章:遺産の探求
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第28話:死の大地

再生の湖に別れを告げ、探査隊の新たな船『レガシー』は北へと進路を取った。

数日後、彼らが進んだ先は砂漠とも荒野とも違う異様な風景だった。かつてここには広大な森が広がっていたという。だが最終戦争の核の炎によって全ての木々は一瞬にして炭化し、悠久の時を経て化石と化した「石の森」が広がっていた。天へと伸びる黒い巨大な木の化石群はまるでこの星の巨大な墓標のようだった。


「……ひどい……」


リラは窓の外に広がるモノクロームの死の世界に言葉を失った。二つのコアを起動させ地球の再生は始まったはずだった。だがこの大地はあまりにも深く致命的に傷つきすぎていた。生命の律動が完全に途絶えている。


その影響はティアに最も顕著に現れた。

森では生命の歌にその身を輝かせ砂漠では魂の叫びに涙を流した彼女が、この「死の大地」ではその光を失い船の片隅で人形のように小さく蹲っていた。


「……何も聞こえない……。何も感じない……。ただ、冷たいだけ……」


そのか細い声はこの土地が完全に死んでいることを物語っていた。シンはそんな彼女の肩をただ黙って抱きしめることしかできなかった。

この土地の脅威は静寂だけではなかった。


『警告。前方、高濃度、酸性霧、発生』


KMSがアラートを発した。


次の瞬間、『レガシー』は視界を完全に奪う乳白色の濃密な霧に包まれた。


「くそっ、外部センサーがやられるぞ!」


ガンナーが叫ぶ。霧に含まれる強力な酸性粒子が船の装甲をジリジリと溶かす不気味な音が響き渡る。


「リラ! ナビゲーションは!?」


「ダメ! 可視光センサーも赤外線センサーも全滅! レーダーも乱反射して使い物にならない!」


視界もセンサーも全て奪われた完全な暗中模索。一歩間違えれば巨大な木の化石に激突する。


「ザイン隊長、深層地殻ソナーに切り替えて地形を読んでください!」シンが叫んだ。


「ティア、君の力でこの霧の向こう側を感じることはできるか?」


「……やって、みます」


ティアは弱々しく頷くと再びその瞳を閉じた。

それは五感を完全に研ぎ澄まされた極限状態での航行だった。

ティアがわずかに残る生命の気配の方向を感じ取り、リラがKMSの古い地形データとソナーの反応を照合させる。ザインはその断片的な情報を自らの長年の経験と勘で補い、シンが全てを統合して進むべきルートを決断した。


数時間後、彼らは奇跡的にその酸性霧の海を突破した。

『レガシー』の装甲は所々溶け落ち、その姿はさらに満身創痍となっていた。だが彼らはまた一つチームの絆の力で困難を乗り越えたのだ。

その夜、彼らは巨大な木の化石の洞の中で休息を取っていた。

焚き火のように揺らめく携帯用ヒーターの光が疲弊した探査隊の顔を照らす。張り詰めた空気の中、不意に黙々とパルスライフルを整備していたガンナーがケンに向かって静かに口を開いた。


「…昔、俺にもお前くらいの頃、親友がいた」


寡黙な彼のあまりに個人的な告白にケンは言葉を失う。


「KMSの管理に不満を持つ連中との最初の小競り合いだった。まだゾルグが派閥を作るよりも前の話だ。資源の分配を巡るただの殴り合いのはずだった。俺は武器を持つことをためらった。相手も同胞だったからな。だが連中の一人が隠し持っていた古い採掘用の工具で…友は俺の目の前で…」


ガンナーは言葉を切り、ライフルの冷たい金属を強く握りしめた。


「俺がこの鉄の塊を手放さないのは、もう二度とためらったせいで何かを失いたくないからだ。守るためには時に言葉ではなく力が必要になる」


その言葉は常に冷静沈着なベテラン兵士の心の奥底に刻まれた癒えることのない後悔だった。その空気を察したかのようにザイン隊長が静かに続けた。


「誰にでも背負うものがある。俺は秩序を失った共同体で父を亡くした。だからこそどんな状況でも秩序を維持することに固執してきた。…だが、シン、お前は違う道を示してくれた。ただ守るだけじゃない、未来を創るための戦い方があるとな」


ザインの視線がコックピットで星空を見上げるシンへと向けられる。彼の言葉はシンのリーダーシップへの信頼であり、同時に自らの過去との和解でもあった。


シンとリラは二人きりでコックピットから空を見上げていた。この死の大地の上でも星々は変わらず美しく輝いている。


「……俺たち、本当にこの星を再生させられるのかな」


ふとシンの口から弱音がこぼれた。父の死、故郷の内戦、そしてこのあまりにも広大な死の世界。彼の肩にかかる重圧は彼自身が思っている以上にその心を蝕んでいた。


「……できるわよ」


リラは静かにしかしきっぱりと言った。


「だってあなたは一人じゃない。私たちがいる。アキトさんもエタ長老も、そしてアウロラもゼロもみんなあなたと共にいるんだから」


彼女はそっとシンの手に自分の手を重ねた。その温かさがシンの凍てつきかけた心をゆっくりと溶かしていく。


その時だった。

KMSのメインディスプレイが突如として激しいノイズを発した。


『磁気嵐、接近。全電子機器に致命的な障害の可能性』


「まずい!」リラが叫ぶ。


「この嵐に飲み込まれたらKMSも船の制御システムも全て沈黙する!」


だがもう遅い。

彼らのコンパスが狂ったように回転を始めた。

『レガシー』は見えない巨大な力にその進路を捻じ曲げられていく。

死の大地はまだその牙を隠し持っていた。

彼らは新たな、そしてより抗いようのない絶望の嵐へと今、飲み込まれようとしていた。

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