表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アルファの記憶 Memories of Alpha  作者: 空想シリーズ
第3章:遺産の探求
66/87

第27話:心の試練

憎しみの化身が消え去った砂漠には不思議なほどの静寂が広がっていた。

探査隊は古代のピラミッドのように鎮座する第二のサテライト・コアの前に立っていた。その表面は穏やかで清らかな青い光を規則正しく明滅させている。


「終わったんだな」


ケンがその穏やかな光を見つめ、誰に言うでもなく呟いた。彼の声には深い安堵とレクイエムを捧げた魂たちへの祈りが込められていた。


「ああ。だが俺たちの仕事はまだ終わっていない」


シンは仲間たちを促しコアの起動シーケンスを開始するためその麓へと歩みを進めた。


「リラ、KMSでコアのシステムにアクセスを」


「了解」


リラがポータブル端末を操作しコアとのデータリンクを試みる。森のコアと同じようにその構造を解析しエネルギーの流れを同期させる。手順はもう分かっていた。


だが。


『……警告。アクセス拒否。原因不明の高次エネルギーフィールドを確認』


KMSが無慈悲な拒絶のメッセージを表示した。


「そんな!? なぜ……」


リラは何度かアクセスを試みるが結果は同じだった。コアは彼らの介入を頑なに拒絶していた。


「どういうことだ。ガーディアンはもういないはずだぞ」


ガンナーがいぶかしげに周囲を見回す。だがそこには砂と風以外何もなかった。


その時、コアの中心から直接彼らの脳内に荘厳でしかしどこか懐かしい声が響き渡った。

それはアウロラの声によく似ていた。


『……我が名は、アル・マディーナ。この砂漠のコアを守り、そして訪れる者を試す者』


「試す、だと?」


シンが問い返す。


『いかにも。汝らは力でこの地の大きな悲しみを鎮めた。だがそれは真の解決にはあらず』


声は続けた。


『この星を真に再生させる力、それはすなわち世界を意のままに作り変える力。その力を手にする者がもしその心にわずかでも砂漠を抱えていたとしたら……』


『……汝らはいずれ父祖と同じ過ちを繰り返すことになるだろう』


その言葉はシンの心を鋭く抉った。

父の死への罪悪感。故郷を見捨てた後悔。そしてこのあまりにも重い使命への恐怖。

彼の心はまさしく乾ききった砂漠そのものだった。


『リーダーよ。汝が代表として試練を受けよ。汝がその心の砂漠を乗り越えられた時、我は汝らに道を開こう』


「シン!」


リラが彼の名を呼んだ。

だがシンは静かに首を横に振った。


「……分かった。受けよう、その試練」


シンは一人コアへと歩み寄り、その冷たい金属質の表面にそっと手を触れた。

次の瞬間、彼の意識は現実の世界から完全に切り離された。


――気がつくと彼は植物研究施設のあの忌まわしい隔壁の前に立っていた。

目の前で父アキトが緊急制御パネルのレバーを握りしめている。


『シン! ティアを連れて行け!』


KMSの記録で見た父の最後の言葉。

だが今度のビジョンは違っていた。彼の目の前にもう一つの選択肢が示される。

(父を救うか? それとも未来を選ぶか?)


「……父さん……」


シンは父へと手を伸ばしかけたが、その手を強く握りしめた。

(違う。父さんは俺に未来を託してくれたんだ。俺がここで感傷に浸ることは父さんの覚悟を侮辱することになる)

彼は涙をこらえ、光の中に消えていく父の背中に深く深く頭を下げた。


「……ありがとう、父さん。俺は行くよ」


――次の瞬間、彼はアンダーランドの中央広場にいた。

そこではゾルグが笑顔で彼の肩を叩いていた。内戦は起きていない。誰もが彼を英雄として称え、そして平和な日常を謳歌していた。

(この安寧を選ぶか? それとも過酷な現実へと戻るか?)

シンはそのあまりにも甘美な光景に一瞬心を奪われそうになる。

だが彼は知っていた。これは偽りの平和だ。この地下世界に未来はない。

彼はその幻影を強く振り払った。


――そして最後に彼は荒野に一人立っていた。

仲間たちの墓標が彼の周りに無数に並んでいる。ティア、ケン、ザイン、ガンナー……そしてリラ。

全員死んだ。自分の力不足のせいで。

(これが、お前の行き着く未来だ。希望などどこにもない)

絶望が彼の心を完全に支配しようとした。

だが彼は顔を上げた。

その瞳にもはや恐怖の色はなかった。


「……そうかもしれないな」


彼は静かに呟いた。


「俺は無力かもしれない。この旅の果てに待っているのは絶望だけかもしれない。仲間を全て失うかもしれない」


「……だがそれでも俺は進む。父さんが、仲間たちが、そして俺自身が信じたこの道をたとえ一歩でも未来へと進むんだ」


その覚悟の言葉と共にシンの意識は現実の世界へと引き戻された。


彼の目の前でサテライト・コアがこれまでで最も力強く清らかな青い光を放っていた。


『……合格だ、人の子よ。汝は汝自身の心の砂漠を乗り越えた』


『力を与えよう。この乾いた大地に再び生命の脈動をもたらす力を』


アル・マディーナの声と共にコアから青い光の波が砂漠全体へと広がっていく。

すると乾ききっていた大地が震え、地割れの中から清らかな水が勢いよく湧き出てきた。

それは数百年もの間この砂漠の地下深くで眠っていた太古の地下水脈だった。

水はやがて大きな湖となり、その湖面に数百年ぶりに青い空が映し出された。

シンはその光景を仲間たちと共に見ていた。

彼はこの試練を乗り越えた。

父の死も故郷の悲劇も、そして自らの弱さも全て受け入れた上で彼は未来へと進むことを選んだのだ。

KMSのマップに次のサテライト・コアの位置が表示される。

それは全てが氷に閉ざされた極北の地を指し示していた。

さらなる人類の試練が彼らを待っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ