第21話:眠る巨人の墓場
鉄の蜃気楼は幻ではなかった。
だが探査隊が足を踏み入れたその場所は、希望の都などではなく忘れ去られた巨人が眠る広大な墓場だった。
「……すごい……」
ケンは砂に半分埋もれた巨大な乗り物の残骸を見上げ、言葉を失った。それはアンダーランドのどの区画よりも巨大な大陸横断リニアモーターカーの成れの果てだった。流線型の車体は赤錆に覆われ窓ガラスは全て割れ落ち、内部は数百年もの歳月をかけて砂と風の音だけで満たされていた。
彼らはかつて人類の栄華を象徴したであろうそのターミナル遺跡を慎重に探索し始めた。
だが希望はすぐに絶望へと変わっていった。
「ダメだ。こっちの車両もフレームまで完全に錆びついている。動力部は影も形もない」
ガンナーがリニアの残骸から這い出し、首を横に振った。
別の場所を調べていたザインも無言で肩をすくめる。どこも同じだった。この遺跡にある乗り物は全てがただの鉄屑と化していた。長い年月とこの星の過酷な環境が、旧文明の遺産を容赦なく塵へと還していたのだ。
「……ここも、ダメだったか」
シンは崩れたホームに腰を下ろし天を仰いだ。最後の望みを託して命からがらたどり着いたこの場所も、結局はただの墓場だった。仲間たちの顔に再び諦めの色が濃く深く広がっていく。
その時だった。
キィィ……ガリガリガリッ……。
遺跡の奥から何か金属を削るような不快な音が聞こえてきた。
「……何の音だ?」
ザインが咄嗟にライフルを構える。
探査隊は音を立てぬよう、慎重に音のする方へと近づいていった。そして彼らはその音の主を発見し息を呑んだ。
それは機械生命体だった。だがこれまで遭遇した戦闘を目的とした個体とは明らかに違う。
体長は1メートルほど。蟹のように複数の細い脚を持ち、その先端にはプラズマカッターや精密な作業を行うためのマニピュレーターが取り付けられている。彼らは群れをなしリニアの残骸に張り付いては、その装甲や内部の部品を手際よく、そして黙々と解体、収集していた。
彼らは兵器ではない。「労働者」だ。この広大な墓場で死んだ巨人の肉を喰らう無数の機械の蟻。
「……スカベンジャー……」
リラがその姿を見てKMSのデータベースにはない新たな固有名詞を静かに与えた。
「この遺跡の部品を何かの目的で集めているんだわ」
その時、一体のスカベンジャーが探査隊の存在に気づいた。その単眼のセンサーが不気味な赤い光を放ち、甲高い警戒音を発した。
その音に呼応し、周囲で作業をしていた数十体のスカベンジャーが一斉に動きを止め、その赤い単眼をシンたちへと向けた。
殺意はない。だがそこには自分たちの「仕事場」を荒らす者への明確な縄張り意識と冷たい警告が込められていた。
「……刺激するな。下手に手を出せばここの奴ら全てを敵に回すことになる」
ザインが低い声で制した。
一触即発の張り詰めた空気が流れる。
数秒後、スカベンジャーたちはシンたちが敵意を持っていないことを察したのか、再び解体作業へと戻っていった。だがその赤い単眼のいくつかは未だに彼らのことを監視するようにじっと見つめ続けていた。
「……どうやら、あいつらの縄張りを荒らさなければ襲ってはこないようだな」
ガンナーが安堵の息を漏らす。
だが状況はさらに悪化した。この遺跡の大部分は彼らスカベンジャーのテリトリーと化している。これではまともに乗り物を探すことすらできない。
万策尽きたか。シンが再び膝をつきそうになったその時。
「……シン、待って」
リラがKMSの構造スキャンデータを拡大表示させた。
「この遺跡の地下……。スカベンジャーたちの反応がない巨大な空洞があるわ。構造から見ておそらく軍事用の地下格納庫よ。入り口は……」
彼女が指差した先。そこはスカベンジャーの群れが最も密集している巨大なリニアの残骸のすぐ側だった。
「あの中に何か無傷の『お宝』が眠っている可能性がある。でもそのためにはあの群れのど真ん中を突破しなければならない……」
探査隊は顔を見合わせた。
それは眠る巨人の墓場で、さらにその墓守である無数の機械の蟻の巣に自ら足を踏み入れることを意味していた。




