第19話:故郷からの凶報
最初のサテライト・コアが起動してから数日が経過した。
森はその姿を劇的に変えていた。黒くねじ曲がっていた木々は鮮やかな緑の葉を茂らせ、地面を覆っていた不気味な苔は陽光を浴びたかのように輝く生命力に満ちたものへと変わっていた。汚染されていた小川には澄んだ水がせせらぎの音を立てて流れ、小動物や鳥たちの気配さえ感じられる。死んでいた森が今、目の前で息を吹き返していく。その光景は探査隊の疲弊しきった心に何物にも代えがたい希望と確かな達成感を与えてくれた。
彼らはこの再生された森でつかの間の休息を取っていた。
ザインとガンナーは万全の警戒態勢を維持しつつも澄んだ水を水筒に満たし、その冷たさに安堵の表情を浮かべている。ケンはリラの指示のもとティアが「食べられる」と指し示した植物や果実を採取していた。彼の肩の傷もこの清浄な環境のおかげか驚くべき速さで回復に向かっていた。
「ティア、ありがとう。君のおかげで俺たちは未来への一歩を踏み出せた」
シンは古代樹の根元に座り、森を眺めるティアの隣で静かに言った。
「いいえ」ティアは首を横に振った。
「これは私の力だけではありません。あなたとあなたの仲間たちの、そしてこの星を想うあなたのお父さんの『遺志』が成し遂げたことです」
彼女の蒼い瞳はシンを見つめていた。
「あなたの生命エネルギーは私を目覚めさせただけではない。私に人間が持つ『心』というものを教えてくれました。悲しみ、怒り、そして希望……。それらがこの星を再生させる本当の力になるのかもしれません」
その言葉はシンの心に温かく、そして深く染み渡っていった。
リラはKMSのポータブル端末で次の目的地である砂漠地帯のデータを解析していた。
「次のサテライト・コアまではここからさらに数百キロ。これまでの荒野とは比べ物にならないほど過酷な環境よ。昼夜の寒暖差は激しく、水はほぼ存在しない。それに……」
彼女はKMSに表示された巨大な熱源反応を指し示した。
「KMSのデータベースによると砂漠地帯には『砂漠の管理者』と呼ばれる巨大な機械生命体が生息している可能性があるわ。森の守護者たちのように対話が通じる相手とは思えない」
探査隊の誰もが顔を引き締める。次の試練はこれまで以上に厳しいものになるだろう。
彼らが旅立ちの準備を終え、再生の森に別れを告げようとしたその時だった。
リラのKMSがけたたましい警告音と共に緊急通信の受信を告げた。
それはアンダーランドからの極めて微弱でノイズだらけの途切れ途切れのテキストメッセージだった。
『……シン……応答……求む……』
『……シン……エタだ……』
『……第3地熱プラント……占拠……食料……水の配給……停止……』
それは内戦が始まったという知らせよりもさらに絶望的な戦況の悪化を告げる続報だった。
「帰らなければ!」リラが叫んだ。
だがザインがそれを制す。
「無駄だ。我々が戻ったところでこの状況は覆せない」
その言葉に誰もが唇を噛む。もはや自分たちが帰還して止められる段階は過ぎてしまったのだ。
シンはエタの最後の言葉を思い出していた。
『……あなたたちの……旅こそが……人類の……最後の希望……』
「……進む」シンの絞り出すような声にリラもケンも息を呑んだ。
「エタ長老は俺たちに未来を託したんだ。俺たちがこの星を再生させる。それが俺たちにできる唯一の戦いだ」
彼らは故郷の惨状への祈りを胸に次なる目的地へと進むことを決意した。
探査隊は再生の森に静かに背を向けた。
彼らの心には故郷への祈りと、そしてそれを自らの手で破壊している同胞へのやり場のない怒りが渦巻いていた。
その全ての感情を未来へ進む力に変えて。
彼らは次の目的地である広大な、そして不毛の砂漠地帯へとその一歩を踏み出した。
彼らはもはや単なる希望の探求者ではない。
帰るべき故郷をその背後に焼かれながら、それでも未来を信じて進むしかない最後の開拓者だった。
その肩に二つの世界の運命を背負いながら。




