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アルファの記憶 Memories of Alpha  作者: 空想シリーズ
第3章:遺産の探求
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第18話:最初の律動

森の守護者たちはもはや探査隊に敵意を向けることはなかった。彼らはティアというこの星の未来を再生させる存在の前に、静かに、そして敬虔に頭を垂れた。指導者はその思念でシンたちを森の最深部へと導いていく。

これまで黒くねじ曲がった木々が不気味な静寂と共に彼らを拒絶していた道は、嘘のように穏やかになっていた。ティアの共鳴レゾナンスに呼応し森がゆっくりと、しかし確実に本来の生命力を取り戻し始めているのだ。

やがて彼らはひらけた場所にたどり着いた。

その中央に最初の「サテライト・コア」は悠久の眠りについていた。


それは彼らが想像していたような無機質な機械の塊ではなかった。苔むした巨大な古代樹。その根元と幹にまるで共生するかのように幾何学的な模様を持つ滑らかな金属質の構造物が深く、そして複雑に絡み合っている。自然と旧文明の超技術が長い年月をかけて完全に融合した荘厳なモニュメント。それがサテライト・コアの真の姿だった。

コアはかすかに、しかし規則正しく緑色の光を明滅させている。それはまるで深い眠りの中でか細い寝息を立てているかのようだった。


「……これが、サテライト・コア……」


リラはその神秘的な光景に息を呑んだ。


「なんてことだ。アウロラのKMSの設計思想とも違う。これは人類が自然と共に生きることを本気で模索していた証拠だ……」


アキトの不在を誰もが痛感した。彼がこれを見ればどれほど喜び、そしてその技術に感動しただろうか。シンは胸に込み上げる想いをぐっとこらえた。


「どうやって、これを起動させるんだ?」


ガンナーが実際的な疑問を口にする。

リラはKMSのポータブル端末をコアにかざし、システムの解析を始めた。


「……ダメだわ。エネルギーラインがこの古代樹の根と完全に同化している。外部から無理やりエネルギーを供給すればこのコアも森全体も暴走してしまう可能性がある」


「では、どうすれば…」


ケンが不安そうな顔を向ける。


その時、ずっと黙ってコアを見つめていたティアが口を開いた。


「……聞こえますか?」


「え?」


「この森の歌が。そしてこのコアの鼓動が」


ティアの蒼い瞳にはシンたちには見えない生命のエネルギーの流れが映っているかのようだった。


「このコアはこの森の生命そのものと律動を共にしています。起動させるにはその律動を正しく、そして優しく呼び覚ましてあげる必要があるのです」


「律動を、呼び覚ます…?」


シンの問いにティアはこくりと頷いた。


「私の『共鳴』の力で森の生命エネルギーの流れを活性化させます。リラさん、あなたはKMSでその流れを読み取りコアのエネルギー周波数と完全に同期させてください。ほんの僅かなズレも許されません」


それはあまりにも繊細で高度な作業だった。外科手術のように一つのミスも許されない。

「シン」ティアはシンを見つめた。


「あなたの力が必要です。あなたの生命は私と、そしてこの星と深く繋がっている。あなたが私とこのコアの『架け橋』となってエネルギーの流れを導いてください」


シンはティアの瞳を見つめ返した。その中にある絶対的な信頼を感じ強く頷いた。


「わかった。やろう」


作戦は始まった。


ザイン、ケン、ガンナーは周囲の警戒に当たる。起動の際に放たれるエネルギーが森の奥に眠る、まだティアの共鳴が届いていない凶暴な生物や機械生命体の残骸を呼び覚ます可能性があったからだ。

リラはKMSのコンソールに全ての神経を集中させていた。

そしてシンとティアは古代樹と融合したコアの前にそっと手を触れた。


「……始めます」


ティアが囁くと彼女の体から再び温かい金色の光が放たれ始めた。光は古代樹の根を伝い、森全体へと脈打つように広がっていく。


『森の生命エネルギー、活性化を確認! 周波数を解析!』


リラの指が凄まじい速さでキーボードを叩く。


「シン! 今よ! ティアの波動をコアの中心へ!」


シンは目を閉じ意識を集中させた。ティアから伝わってくる温かい生命の波動。それを自らの体を通してコアの中心へと送り込んでいく。父を失った悲しみ、仲間たちの想い、そして人類の未来への願い。その全てをその波動に乗せて。


ゴゴゴゴゴ……。

サテライト・コアが地響きと共にその律動を強めていく。緑色の光の明滅が速く、そして力強くなっていく。


『エネルギー周波数、同期率98%…99%…!』


リラの声が上ずる。


その時だった。

コアから不協和音のような甲高いノイズが響き渡った。


『マズい! エネルギーが逆流してる! このままではコアが自壊するわ!』


「ティア!」


「大丈夫。……信じて」


ティアは苦しそうに顔を歪ませながらもシンに微笑みかけた。そしてさらに強い光をその小さな体から放出した。

シンはその光にティアの、そしてこの星の悲痛な叫びを聞いた気がした。

(お前たちのせいで、こんなにも傷ついた、と)

(……ごめん。……ごめんなさい)

シンはただ心の中で祈った。償いの祈りを。

そのシンの純粋な想いが最後の引き金となった。

不協和音はピタリと止んだ。

そしてサテライト・コアから全ての不純物が洗い流されたかのような、どこまでも清らかで力強い緑色の光の奔流が天へと向かって放たれた。


光の奔流はやがて優しい光の波となって森全体へと広がっていく。

その光を浴びた黒くねじ曲がっていた木々がミシミシと音を立てながら、その枝に一斉に鮮やかな緑の若葉を芽吹かせた。地面を覆っていた奇妙な苔は陽光を浴びたかのように輝き、汚染されていた小川には澄んだ水がせせらぎの音を立てて流れ始めた。

死んでいた森が今、目の前で息を吹き返していく。

その奇跡としか言いようのない光景を、探査隊はただ呆然と見つめていた。

彼らは初めて自らの手でこの星の生命を一つ救ったのだ。


やがて光が収まるとリラのKMSに新たなデータが転送された。


『第一サテライト・コア、起動完了。地球環境グリッド、0.8%安定化。次なる座標を開示します』


ホログラフィック・マップに新たな光の点が灯る。

それは赤褐色の広大な砂漠地帯を指し示していた。

シンは再生された森を見渡し、そして次の目的地を見つめた。

父の死を乗り越え、彼らは確かに未来への一歩を踏み出した。

その道のりがどれほど長く険しいものだとしても、彼らの心にはこの森に灯った小さくも確かな希望の光が輝き続けていた。

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