第16話:最初のコアへ
植物研究施設の廃墟から数キロ離れた風化した岩陰。そこで探査隊はつかの間の休息を取っていた。父を失ったシンの心はまだ悲しみの深い淵に沈んでいた。だが彼が背負うべきものの重さが、彼が立ち止まることを許さなかった。
「……これが、私たちが進むべき道」
リラがKMSのポータブル端末に世界地図をホログラムとして投影した。それはティアが示した地球再生の鍵となる「サテライト・コア」の位置を示すものだった。北極の氷雪地帯、広大な砂漠、そして深い海の底。かつてこの星が豊かだった頃の生命の中心だった場所にその光の点は点在していた。
「ティア。これらのコアについて、もっと詳しく教えてくれ」
シンが傍らに座るティアに問いかけた。彼の声はまだかすかに震えていたが、その瞳にはリーダーとしての光が戻りつつあった。
ティアはその蒼い瞳をシンに向け、静かに、しかし明確な言葉を紡ぎ始めた。
「各サテライト・コアは地球の特定の生命圏を制御・維持するためのアウロラの補助システムです。一つを起動させることでその地域の再生が始まり、連鎖的に地球全体の環境に影響を与えます。しかし各コアは過去の戦争の遺産である『ガーディアン』によって固く守られています」
「ガーディアン…」
ザインがその言葉に警戒を強める。
「はい。それはティタノマキアのような単なる防衛システムではありません。それぞれの環境と融合し独自の進化を遂げた高度な知性を持つ管理者です。彼らを乗り越えるには力だけでは不可能です」
「最初の目標は、どこにするべきだ?」
ガンナーが地図を睨みつけながら言った。
リラが最も近くにある光の点を指し示した。
「ここよ。シェルターから北東へ約200キロ。かつて広大な森林地帯だった場所。KMSのデータによると他の候補地よりも放射能レベルは比較的低く、水源が存在する可能性も高いわ」
「森か……」シンは頷いた。
「今の俺たちにとって最も生存の可能性が高い場所かもしれない」
彼らの新たな目的地は定まった。
それは再び死と隣り合わせの長い長い旅の始まりだった。
彼らはアキトの、そしてゼロの犠牲を胸に再び赤褐色の荒野へと足を踏み出した。
ケンは肩の痛みに耐えながらも必死に前を歩くザインの背中を追った。父を失ったシンの悲しみを彼は誰よりも理解していた。だからこそ自分は今一人の兵士としてチームの足手まといになるわけにはいかないと強く心に誓っていた。
旅の途中、ティアはシンに寄り添うようにして歩いた。彼女は多くを語らない。だが時折、道端の放射能に汚染され奇妙に変異した植物を、慈しむようにそっと撫でた。するとその植物がわずかに生命力を取り戻すかのように輝きを放つのだった。彼女はこの死んだ星に残されたあらゆる生命と共鳴する力を持っているのかもしれない。その不思議な光景は探査隊の疲弊した心に言葉にならない癒やしを与えた。
数日間の過酷な行軍の末、彼らの目の前の風景が徐々に変化していくのが分かった。赤褐色の砂と岩だらけだった大地に、黒くねじ曲がった巨大な木々の残骸が現れ始めたのだ。
「……森だ」
リラが呟いた。
だがそれは彼らがアンダーランドの壁画で見たような、生命力に満ちた緑の森ではなかった。空を覆うようにして伸びる黒い木々の枝は、まるで天を掴もうとする巨人の骸骨のようだ。地面は厚い腐葉土と奇妙な色をした苔に覆われ、不気味な静寂があたりを支配していた。
「KMSのセンサーに奇妙なエネルギー反応があるわ。機械生命体のものとは違う……もっと有機的で広範囲にわたる反応よ」
リラの声に緊張が走る。
「全員、警戒レベルを最大に引き上げろ」
ザインの指示が静かな森に響き渡った。
彼らは息を殺しながらその不気味な森の奥深くへと足を踏み入れた。
木々の間を風ではない何かが通り過ぎていく気配がする。枝の上から無数の何かが彼らを見下ろしているような視線を感じる。
それは殺意ではない。だが明らかに侵入者を試すような冷たい観察者の視線だった。
そして彼らが森の中心部にある、ひときえ巨大な古代樹のような木の根元にたどり着いた時。
彼らの行く手を阻むように周囲の木々の影からすっと複数の人影が姿を現した。
それは人間ではなかった。
樹皮のような肌、蔦のように編み込まれた髪、そしてその瞳は森の奥の闇のように深く静かな光を宿していた。彼らは武器を構えてはいない。ただ静かに、そして絶対的な存在感をもってそこに立ち、シンたちの道を塞いでいた。
『……何者だ、汝ら。ここは、我らが眠る聖域。穢れた鉄の子らが、足を踏み入れる場所ではない』
KMSを介さない直接的な思念の声が、探査隊全員の脳内に響き渡った。
森のガーディアン。
彼らは人類の前に最初の、そして最も根源的な問いを突きつけるために悠久の眠りから目を覚ましたのだ。




