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アルファの記憶 Memories of Alpha  作者: 空想シリーズ
第3章:遺産の探求
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第10話:眠れるレギュレーター

シンの指が認証パネルに触れた。


数百年もの間沈黙を守ってきたロック機構が重々しい電子音を立てて解除される。

『セクター・ティタノマキア:罪の揺りかご』と名付けられた厚い金属の扉がゆっくりとその口を開き始めた。


扉の向こうから漏れ出してきたのは、柔らかな青白い光と淀みのない清浄な空気だった。


「……なんだ、ここは」


ガンナーが警戒しながらも驚きの声を漏らした。


内部は広大な白亜のドーム型研究室だった。施設の他の場所とは別世界のように塵一つなく、まるで時間が停止したかのようにあらゆるものが完璧な状態で保存されている。壁面には今もなお複雑な遺伝子情報のホログラムが淡く明滅していた。


そしてその中央に、一行は吸い寄せられるように歩みを進めた。


そこには柔らかな青白い光を放つ巨大なガラスの円柱が鎮座していた。


「間違いない……KMSの反応はこの中からよ」


リラがゴクリと唾を飲む。彼女のKMSポータブル端末はこれまでにないほど強く、そして純粋な生命反応を指し示していた。


ガラスの円柱の中は生命維持のための特殊な半透明ジェルで満たされており、その中央に一体の「人形」が静かに、そして安らかに眠っていた。


腰まで届く流れるような銀色の髪。滑らかな白い装甲に包まれた華奢で、しかし完璧な均衡を持つ身体。閉ざされた瞼の下にはどれほどの秘密が隠されているのか。それはあまりにも精巧であまりにも美しく、命の宿らない「人形」と呼ぶにはあまりに生命感に満ち溢れていた。


「『レギュレーター』……ティア……」


アキトはその姿に技術者としての畏敬と、そして過去の文明が到達した科学の頂点に対する一種の恐怖を感じていた。彼はKMSのポータブル端末をガラスの円柱にかざし、内部の解析を開始した。


「……なんてことだ。このレギュレーターの生命維持装置が限界に近い。エネルギー供給がほぼ完全に停止している。このままでは覚醒する前に機能が完全に停止してしまう」


彼の声が静寂な研究室に緊張をもたらした。


「父さん、エネルギーなら『アルゴス』から回収した予備がある!」シンが叫ぶ。


「だめだ、シン」アキトは厳しい顔で首を横に振った。


「この装置が求めているのは機械的な電力エネルギーじゃない。KMSのデータが示すのは……『生体エネルギー』。生き物の生命そのものの力だ。それも並大抵の量じゃない。このレギュレーターを安定的に覚醒させるにはKMSの理論値でも、アンダーランドの全住民の生命エネルギーを集めてもまだ足りないほどの…」


その言葉に全員が息を呑んだ。


絶望。その二文字が探査隊の心に重くのしかかった。


ゼロの犠牲、父との約束、そして仲間たちの期待。その全てを背負ってたどり着いたこの場所で、彼らは乗り越えようのない絶対的な壁に直面したのだ。


「そんな……じゃあ俺たちはこの希望をただ見ていることしかできないのか……?」


ケンが震える声で呟いた。彼の言葉はその場にいる全員の心の声を代弁していた。


ザイン隊長もガンナーもただ固く唇を結び、光の円柱を見つめることしかできない。


リラは必死にKMSのデータを再検索し、何か別の方法はないかと探していた。だがどのシミュレーション結果も同じ結論を指し示していた。『覚醒エネルギー、不足』。その無慈悲な文字列が彼女の希望を打ち砕いていく。


「……時間がない」


アキトがポータブル端末の数値を指し示した。ティアの生命維持を示すグラフがゆっくりと、しかし確実にゼロへと近づいていく。


「あと、どれくらいもつかどうか……」


シンはガラスの向こうで眠るティアを見つめた。彼女の顔は苦痛もなくただ安らかに見える。だがその生命の灯火は今この瞬間にも消えようとしている。


父祖が遺した最後の希望。それをこんな形で失うわけにはいかない。


彼はガラスの円柱にそっと手を触れた。冷たいガラスの感触。しかしその奥からは微かな温かい生命の鼓動が伝わってくるような気がした。


(諦めるな。考えろ。アウロラはなぜ俺たちをここに導いた? ゼロはなぜ命を賭してこの場所を教えてくれた? きっと何か方法があるはずだ。俺たちに実行可能な唯一の方法が……)


シンは目を閉じた。彼の脳裏でこれまでの旅の記憶が走馬灯のように駆け巡る。アウロラの遺言、ゾルグとの対立、父の覚悟、仲間たちの顔。


そして彼は一つの可能性に行き着いた。それはあまりにも無謀で狂気の沙汰としか思えない賭けだった。


「……リラ」


シンは静かに目を開け、リラに問いかけた。


「俺の防護服の生命維持装置とこの円柱の制御パネルを直結させることはできるか?」


その言葉の意味を理解した瞬間、リラの顔からサッと血の気が引いた。


「……シン、あなた、まさか……」


彼女の声は震えていた。


希望の灯台を前に探査隊は最も過酷な選択を迫られようとしていた。

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