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アルファの記憶 Memories of Alpha  作者: 空想シリーズ
第3章:遺産の探求
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プロローグ:荒野への巡礼

ゴゴゴゴ……。


重々しく、そしてどこか物悲しい金属の軋む音が、地下都市アンダーランドの最上層ゲートに響き渡る。希望と同じくらい、湿気とカビの匂いが染みついたこの世界と、外界を隔ててきた最後の隔壁が、数百年という悠久の時を経て、今、ゆっくりとその口を開こうとしていた。


ゲートの向こうから流れ込んできたのは、アンダーランドの民が誰も知らない、乾いてざらついた「風」。それは、忘れ去られた故郷の匂いであり、未知なる脅威の気配でもあった。


ゲートの前には、この巡礼に旅立つ者たちの姿があった。

新たに改良された地表探査車両の周囲で、若きリーダー、シンが最終装備の確認を行っている。彼の隣には、最高のパートナーであるリラが、KMSのポータブル端末に表示される数値を鋭い目つきで追っていた。

屈強な秩序維持隊の隊長ザインと、その部下である若い隊員ケン、そしてアンダーランドから新たに志願したベテラン兵士ガンナーが、車両に搭載された武装の最終チェックを終える。

そして、その全てを、シンの父であり、この探査車両の心臓部を組み上げた技術者アキトが、祈るような、それでいて誇らしげな目で見守っていた。


「シン、リラ……そして、人類の希望を背負う者たちよ」


KMSを通じて、年老いたエタ長老の穏やかで、しかし覚悟の宿った声が、見送りに来た全ての住民の心に響き渡った。


「あなたたちの旅は、単なる探査にあらず。それは、我ら人類が、自らの祖先が犯した罪を知り、その過ちを乗り越え、真に自らの足で立つための、最初の巡礼です。このアンダーランドの全ての民の祈りが、あなたたちと共にあることを、ゆめ忘れるでないぞ」


エタの言葉に、シンは深く頷いた。その横顔は、もはやKMSに頼りきっていた頃の若者のものではなく、人類の未来を背負う者の厳しさを帯びていた。


車両に乗り込む直前、アキトがシンの肩に手を置いた。


「シン……慎重に行くぞ」


「はい、父さん」


短い言葉。しかし、その間には、父と子の、言葉にできない想いが詰まっていた。アキトは、息子の旅立ちを誇りに思うと同時に、その身を案じずにはいられなかった。シンもまた、父の技術と想いを背負って、この旅に挑む覚悟だった。


「全員、乗車!」


ザイン隊長の号令一下、探査隊は次々と車両に乗り込んでいく。最後に乗り込んだシンが振り返ると、ゲートの向こうでエタ長老が深く頭を下げ、住民たちが静かに手を振っていた。その光景を目に焼き付け、彼は静かにハッチを閉じた。


地表探査車両は、重い駆動音を響かせ、アンダーランドの民の希望を乗せて、ゲートの向こう側、未知なる世界へと、その第一歩を踏み出した。


ゲートが完全に閉ざされ、地下都市の最後の光が遮断された瞬間、彼らは完全な静寂と暗闇に包まれた。そして、車両のヘッドライトが前方を照らし出した時、そこに広がっていた光景に、誰もが言葉を失った。


「これが……地表……」


ヘルメットの中で、ケンが呆然と呟いた。

鉛色の空は、どこまでも低く垂れこめ、太陽の光は弱々しく、赤褐色に染まった荒野を鈍く照らしている。遮るもののない風が吹き荒れ、乾燥した砂塵が容赦なく舞い上がっていた。生命の気配は微塵も感じられない。アンダーランドで見ていたKMSの記録映像など、まるでおとぎ話に思えるほどの、絶望的な世界だった。


『放射線量、レベル4。警戒を継続してください』


KMSの冷静な音声が、車内に響く。計器の警告音が、この世界の現実を冷徹に突きつけていた。


「リラ、大気組成のデータを。アキト、車両のシールド状況を確認してくれ」


シンは、目の前の光景に圧倒されながらも、リーダーとして冷静に指示を出した。リラの指が光のキーボードの上を滑り、アキトは計器の数値を睨む。ザイン隊長は冷静に操縦桿を握り直し、ガンナーは警戒を怠らない。


しかし、地球の現実は、彼らの想像を遥かに超えていた。


突如、車内にけたたましい警報音が鳴り響いた。


「シン!放射能レベルが急上昇!予測不能な『波』よ!」リラが叫んだ。


「なんだと!?」


同時に、空から黒い雨粒が降り注ぎ始めた。それは、微細な有害粒子を含んだ「酸性雨」だった。車両の装甲に当たると、ジュッという音と共に、わずかに装甲を腐食させていく。


「シールド出力、低下!このままでは危険だ!」アキトが叫ぶ。


「ザイン隊長、近くの岩陰へ!嵐をやり過ごすぞ!」


ザインは、シンの指示に従い、巧みに車両を操って巨大な岩陰へと退避した。彼らは、地球という故郷に足を踏み出した最初の数時間で、この星がいかに人類を拒絶しているか、その洗礼を全身で受け止めることになった。


荒れ狂う風の音を聞きながら、シンは窓の外に広がる荒涼とした大地を見つめていた。


「この荒野は、俺たちの故郷だ。そして、俺たちが取り戻すべき未来なんだ」


その呟きは、絶望的な現実を前にした、人類の新たな、そして揺るぎない誓いだった。彼らの過酷な旅は、今、始まったばかりだった。

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