第20話:警告
ゾルグの離反はアンダーランドに新たな緊張をもたらした。ゾルグは自らの支持者たちを率いて議事堂を去り、地下都市の深部に位置するかつての資源採掘区画を拠点とし始めた。そこはKMSの管理が届きにくく独自のルールを築きやすい場所だった。
シンとリラ、そしてエタはゾルグ派が完全に分離してしまうことの危険性を認識していた。共同体が二つに分かれれば限られた資源と技術を分散させることになり、地表への再適応という壮大な計画はより困難になる。最悪の場合、内部での争いが勃発し共倒れになる可能性すらあった。
「ゾルグ派が独自の行動を取ることは共同体全体の生存を脅かす。彼らを説得し、私たちの計画に合流させる必要がある」
シンはKMSのホログラフィックディスプレイに表示されたゾルグ派が占拠する区画の活性化を示すデータを見ながら言った。
「ゾルグは危険な男だ。このままでは彼は独自の道を突き進み取り返しのつかない事態になる」
ザイン隊長はその現状に焦りを感じていた。
エタはゾルグの行動の根底にあるものを理解しようと努めていた。ゾルグはアウロラへの依存から解放されたいという純粋な願望を持っていた。しかし、その方法はあまりにも短絡的で共同体全体の未来を危険に晒すものだった。
「ゾルグはアウロラの『自由』という言葉を誤解している」
エタは言った。「シン。ゾルグの元へ行く準備をしなさい。彼に最後の警告を与えるのです」
シンは躊躇した。ゾルグの性格を考えれば話し合いで解決するのは困難だろう。しかし、エタの言葉には共同体を一つにまとめようとする強い意志が込められていた。
シンとリラ、そしてザイン隊長とケンは衝突する可能性を考え、武装しつつゾルグ派が占拠する資源採掘区画へと向かった。
資源採掘区画はKMSによる管理が行き届かず、地下都市の他の区画とは異なる、荒々しい雰囲気に満ちていた。手掘りの跡が生々しく残り独自の簡易的な照明が薄暗い通路を照らしていた。ゾルグの支持者たちはシンたちの到来に気づき警戒の目を向けた 。
ゾルグは自身の採掘場の中央で粗末な椅子に座っていた。案の定、彼の周りには武器を携えた支持者たちが集まっていた。
「ほう、シンか。わざわざ私を止めに来たか?」
ゾルグは冷笑した。「だが、無駄だ。私たちはもう誰の指図も受けない」
シンはKMSのホログラフィックディスプレイに、地表の最新データとアンダーランドの資源枯渇の予測を投影した。
「ゾルグ。あなたの言う自由はやがて飢えと滅びを招くだけだ。この地下世界は無限ではない。このままではあなたたちも、私たちも、共倒れになる」
リラが言葉を続けた。「アウロラのKMSのデータは地表に新たな資源の可能性があることを示唆しているわ。私たちはこの地下にしがみつくのではなく、外へと進まなければならないの」
しかし、ゾルグは耳を貸さなかった。
「そんな絵空事、誰が信じるものか!お前たちはKMSの奴隷のままでいればいい!私たちは、この地下で自分たちの王国を築く!今までそうしてきたように!」
その時、エタがゾルグの前に歩み出た。
「ゾルグ。あなたはアウロラの真の願いを理解していない。彼女は私たちに自らの力で未来を切り拓くための機会を与えてくれたのです」
エタは高エネルギー生成装置のコアユニットをゾルグに見せた。
「これはアウロラが私たちに残した『道具』の一部だ。私たちにはこの技術がある。地表は危険だが乗り越えられない壁ではない。しかし、共同体が分裂してはその壁を乗り越えることはできない」
ゾルグの顔に一瞬だけ動揺の色が走った。しかし、彼はすぐにそれを打ち消した。
「信じられん!そんなもの、どうせKMSの仕掛けだ!」彼は、エタの言葉を拒絶した 。
「ゾルグ。これが最後の警告だ」
シンは静かな、しかし確固たる声で言った。
「私たちと共に地表へと向かうか、それともこの地下で自らの滅びを選ぶか。選択はあなた次第だ」
ゾルグはシンの言葉を無視し、自身の支持者たちに彼らを追い出すよう命じた。資源採掘区画の通路に再び緊張が走った。アンダーランドの未来はゾルグという反対者によって瀬戸際に立たされていた。




