第15話:混乱の中の活路
エタによる緊急放送はアンダーランド全域に激震をもたらした。彼女が投影した新型防護服と高エネルギー生成装置の映像は一部の人々に希望の光をもたらしたが、同時に、共同体をこれまでになく深くそして決定的に分断した。長老議事堂は怒号と混乱の坩堝と化した。
「裏切り者め! アウロラ様への冒涜だ!」
長老カザンはエタの行為を許すまじと激高した。彼の信仰は完全に打ち砕かれ、その絶望は怒りへと変わっていた。彼は自身の支持者たちにシンたちの計画を実力で阻止し、あくまで地下に留まるよう訴え続けた。
一方で、ゾルグはこの状況を自身の権力拡大の最大の好機と捉えた。彼は嘲笑を浮かべ、エタの呼びかけを「現実離れした空想」だと一蹴する。
「地表などどうせ死の荒野だ!こんな未完成なガラクタで生き残れるとでも思うのか!? 我々は自分たちの力で地下を生き抜くべきだ!もう、KMSにも、祈るだけの長老にも、誰にも頼る必要はない!」
ゾルグは不安と不満を抱える住民たちをさらに煽り、自らの勢力を集結させ始めた。彼の支持者たちはKMSの残された機能を破壊し、資源を奪い、独自の共同体を築き上げようとついに動き始めた。
アキトの妻ミナは、旅立った夫と息子の無事を祈りながら、その計画がゾルグ派に漏れぬよう、自らもまた過酷な現実を生きる住民として必死に振る舞っていた。彼女は二人の安否を誰にも尋ねることができないという重い秘密を胸に、荒廃した配給所で、ただ黙って食料の列に並んでいた。共同体の分断は、彼女から家族との繋がりを物理的に引き裂いたが、その心の中の絆までを断ち切ることはできなかった。
隠された研究室ではザインとケンが、押し寄せるカザン派とゾルグ派の衝突を警戒していた。秩序維持隊はもはや共同体全体を統制できるだけの力を失っていた。
その緊迫した空気の中、アキトが叫んだ。
「シン、装置の最終調整が完了した! だが、起動にはKMSのメインコアからの直接エネルギー供給が必要だ!」
その言葉にシンは顔を上げた。KMSのメインコアは議事堂の中央に位置している。そして、その議事堂は今、カザン派とゾルグ派が対立しいつ内乱が勃発してもおかしくない状況にあった。
「行くぞ、リラ。メインコアを起動させる!」
シンは決意を固めた。
「ザイン隊長、ケン。我々がKMSのメインコアを起動させるまで、この研究室を命に代えても守り抜いてくれ!」
ザインは力強く頷いた。
「了解した。アンダーランドの最後の希望、必ず守り抜く!」
シンとリラは、新型防護服を身につけ高エネルギー生成装置のコアユニットを抱え、議事堂へと向かった。彼らの行く手には混沌と化した地下都市の通路が広がっている。人々は飢えと恐怖に駆られ互いに疑心暗鬼になっていた。
議事堂の扉をこじ開けると、そこはまさに戦場と化していた。カザン派の住民たちが祈りを捧げ、通路を塞いでいた。その奥ではゾルグ派が武器を手にKMSの制御盤を破壊しようとしていた。彼らはアウロラの支配から完全に自由になることを望んでいたのだ 。
「止めるんだ! KMSを破壊すれば、もう誰も生き残れない!」シンは叫んだ。
しかし、彼の声は怒号と衝突の音にかき消された。長老たちの間の対立はついに共同体全体を巻き込んだ内乱へと発展しようとしていた。
シンとリラに残された道は、ただ一つ。この混乱を乗り越え、KMSのメインコアを起動させアウロラが遺した最後の希望を、この絶望の淵にあるアンダーランドにもたらすこと。それに人類の未来をかけたのだった。




