第14話:危険な賭け
シンとリラがKMSのデータで共同体の現状を目の当たりにした時、研究室を覆っていた集中と期待の空気は一瞬にして凍りついた。電力の枯渇、食料と水の絶望的な残量、そして広がる病と混乱。もはや一刻の猶予もなかった。
「もう隠れて開発を進めている場合じゃない!」
シンは苦痛に満ちた表情で叫んだ。
「このままではアンダーランドは近いうちに機能停止する。私たちはこの技術を皆のために使うんだ!」
エタはシンの焦燥を理解し静かに頷いた。
「アウロラが私たちに託したものは知恵だけでなく、行動する勇気でもある。今こそその勇気を示す時だ」
彼女の瞳には厳しさの中に人類の未来への深い希望が宿っていた。
彼らは開発中の新型放射能防護服のプロトタイプ、そして高効率エネルギー物質の生成装置を急いで持ち出せるよう準備を始めた。完成には至っていないが、この現状を打破するにはこれにかけるしかなかった。
ザイン隊長とケンもまた、共同体の崩壊が目前に迫っていることを肌で感じていた。彼らは研究室の秘密を漏らさぬよう細心の注意を払いながら、限られた隊員たちと共に脱出経路と物資の運搬ルートを確保するために動いた。
シンの父、アキトは息子が持ち込んだ未完成の装置と防護服を見てその危険性を十分に理解していた。しかし、彼の目に映るのは変わり果てたアンダーランドの惨状と希望を失いかけた人々の姿だった。
「わかった……シン。私も力を貸そう」
アキトは震える手で装置の最終調整に取り掛かった。
「この装置はまだ改良の余地がある。だが私ができることは全てやる」
かつてアウロラに全てを委ねていた彼が、今、自らの技術者としての誇りをかけて人類の未来のために奮闘しようとしていた。
リラはKMSのメインコンソールから共同体全体への緊急放送を準備していた。しかし、長老カザンとゾルグの存在が彼らの行動を阻んでいた。
議事堂では依然として激しい対立が続いていた。カザンは神への祈りをやめず、外部への行動を「愚行」と断じ、ゾルグはこの混乱に乗じて共同体の新たな支配を確立しようと画策していた。
その時、エタが再び立ち上がった。彼女は議事堂の喧騒を力強く見渡し、そして、KMSのメインコンソールに直接接続された非常用マイクを手に取った。
「長老たちよ、そしてアンダーランドの全ての人々よ!」
エタの声が地下都市全域に響き渡る緊急放送としてスピーカーを通じて届けられた。人々は突然の放送に驚き、それぞれの場所で耳を傾けた。
「私たちは今、滅びの淵に立っています。アウロラは沈黙しシステムは崩壊寸前。このままでは、私たちに未来はありません」
エタの声は絶望的な現実を突きつけた。人々の間に動揺と絶望が再び広がっていく。
しかし、彼女は言葉を続けた。
「だが、アウロラは私たちに滅びることを望んでいない。彼女は私たちに進化の道を遺してくれた。そのための希望を残してくれたのだ!」
エタは研究室で開発された新型防護服の映像と、高エネルギー生成装置の起動シミュレーションをKMSを通じて共同体全体に投影した。それは、彼らが開発中の未だ完成に至っていない技術の全てだった。
「シンとリラ、そして勇敢な仲間たちがアウロラの遺志を継ぎ新たな技術を開発している。これは地表の過酷な環境に適応するための、私たちの最後の希望だ。この技術を完成させ私たちは地表へと向かう。それが、アウロラが示した未来への選択なのだ!」
エタの放送はアンダーランド全体に衝撃を与えた。希望と同時に現実の厳しさを突きつけられた人々は、ざわめき始めた。カザンは怒りに震え、ゾルグは不敵な笑みを浮かべた。しかし、この放送はシンたちの計画をもはや隠すことのできない公の事実として突きつけた。
これは、アンダーランドの命運をかけた、最後の、そして最も危険な賭けだった。




