第11話:シンの決意と新たな道
地表探査隊の帰還がもたらしたものは、希望ではなくより深い亀裂と絶望だった。長老議会は機能不全に陥り、カザンは信仰に、ゾルグは地下での孤立主義にそれぞれ固執した。共同体が緩やかな崩壊へと向かう中、シンはもはや言葉による説得が無意味であることを痛感していた。
「待っている時間はない。僕たちが行動を起こすんだ」
シンはKMS中央管理局の片隅で、リラ、ザイン、そしてケンに、静かに、しかし力強く告げた。彼の瞳には、これまでにないほどの決意が宿っていた。
「地表が危険だというならその危険を乗り越える技術を僕たちの手で開発する。アウロラの『遺言』は、地表への再適応の『可能性』を示している。その可能性を、僕たちが現実に変えるんだ」
ザイン隊長はシンの覚悟に満ちた目を見て、深く頷いた。
「了解した。秩序維持隊はこの『地表再適応計画』に全面的に協力する。だが、技術も資源も全てが足りない」
その時、シンの父、アキトが彼らの元へ歩み寄った。彼の顔からはかつての戸惑いは消え熟練した技術者としての光が戻っていた。
「KMSにはアウロラが利用していた高度な素材加工技術のデータが断片的に残されている。それを解析すればより耐久性の高い防護服を開発できるかもしれん」
息子の決意が彼を再び奮い立たせた。
こうして長老議会の承認を得ぬまま、シンを中心とした少数精鋭のチームによる、極秘の技術開発計画が始動した。
しかし、彼らがゼロから技術を開発するにはあまりにも時間が足りなかった。その事実を誰よりも理解していたのはエタだった。
ある夜、エタはシンとリラを誰も知らない旧動力炉の地下通路へと呼び出した。
「この先にアウロラが残した、おそらく最も重要な場所があるわ」
エタの声は確信に満ちていた。
「彼女は私たちが自らの手で未来を掴もうと決意した時にこの扉が開かれることを知っていたのかもしれない」
彼らがたどり着いたのはKMSの古い地図には載っていない、堅固な金属製の扉だった。リラがKMSの認証コードを打ち込むと重々しい電子音と共に悠久の時を経て、その扉が開かれた。
その先に広がっていたのは信じられない光景だった。
そこはまるで時間が止まったかのような、高度な技術が凝縮された「隠された研究室」だった。広々とした室内には半世紀もの間稼働することなく眠っていた研究機器や、見たこともない素材が整然と並べられている。そして中央のホログラフィックディスプレイには彼らがまさに探し求めていた希望の設計図が浮かび上がっていた。
「これは……」シンは息をのんだ。
『放射能防護服 設計データ』
『長距離地表探査車両 プロトタイプ仕様書』
『高効率エネルギー物質 生成理論』
「アウロラは私たちに『答え』を直接与えるのではなく、『答えを見つけるための道具』を用意してくれていたのね…」
リラが興奮した面持ちで呟いた。
アウロラは人類が真に自立する未来を見据え、そのための最後の「遺産」を残していたのだ。
「この研究室の存在はまだ誰にも知られてはいけない」
シンは仲間たちに強く言った。
「カザン長老はこれを冒涜と見なし、ゾルグはこれを新たな支配の道具にしようとするだろう。私たちはここを拠点に地表再適応計画を本格化させる」
アンダーランドの深部で見つかった、秘密の研究室。そこは絶望の淵にあった人類にとって、未来への希望の光を灯す、最後の砦となった。シンの「地表再適応計画」はここから新たな、そして重要なフェーズへと突入した。




