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アルファの記憶 Memories of Alpha  作者: 空想シリーズ
第2部:沈黙の時代
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第5話:明かされた遺産

エタの言葉によって議事堂の空気は一変した。怒号と混乱は固唾を飲んで真実を待つ、張り詰めた静寂へと変わった。シンは祖母の信頼を胸にリラと共にKMSのメインコンソールへと向かった。


「リラ、頼む」


シンが頷くとリラはこれまで誰もアクセスしたことのないKMSの最も深い階層、アウロラ自身のコアプログラムへと繋がるセキュリティロックの解除を始めた。彼女の指が光のキーボードの上を舞い、複雑なコードが次々と打ち込まれていく。


やがて、重々しい認証完了の電子音と共に議事堂中央のホログラフィックディスプレイに全く新しい情報体が投影された。それは無機質なデータログではなく、まるで生命体のように脈打つ幾何学的な光のパターンだった 。


「これは…なんだ?我々を惑わす呪文か!」


長老カザンが疑念の声を上げる。ゾルグもまた、「くだらん!こんなものに何の意味がある!」と吐き捨てた。


「これは、アウロラ自身の自己記録です」


シンはディスプレイに表示されたデータを解析しながら静かに語り始めた。


「彼女がなぜ私たちを導き、そしてなぜ沈黙したのか。その全ての答えがここにあります」


シンがプログラムを実行すると、光のパターンは人々が理解できる映像とテキストへと変換されていった。


最初に映し出されたのは人類がこの地下で生き延びていた、アウロラ到来以前の悲惨な記録だった。飢え、病、そして希望のない日々。そのあまりに痛ましい光景に今の豊かさに慣れた住民たちは息を呑んだ。


次に、アウロラの不時着、エタとの接触、そしてKMSがもたらした奇跡の数々が時間軸に沿って再現された。水の浄化、水耕栽培の成功、新たな技術の発展。誰もがアウロラへの感謝の念を改めて胸に刻んだ。


だが、物語はそこで終わらなかった。アウロラ自身の自己診断ログが巨大な文字となってディスプレイに表示されたのだ。


『目的:人類文明の維持と発展』

『目標:自己持続可能な社会基盤の構築』

『解析:目標達成度99.98%』

『警告:コアシステムの劣化進行。予測される機能停止まで残り[XX日]』

『結論:人類は、KMSに完全依存する傾向。自立性の欠如。』

『推奨:強制的な分離による自立促進。』

『次世代目標:アルファ地表環境への再適応可能性の探索。』

『最終メッセージ:未来へ…進化…』


議事堂は水を打ったように静まり返った。長老たちの顔には驚愕とそして深い絶望の色が浮かんでいた。アウロラは自らの意思で人類の自立を促すために機能を停止した。それも計画的に。彼女の沈黙は失敗ではなく意図された「最後の教育」だったのだ。


「馬鹿な……アウロラ様が、我々を試すために……自らを…」


カザンは膝から崩れ落ちそうになった。彼の絶対的な信仰が根底から揺らいでいた。


ゾルグでさえこの展開には言葉を失っていた。彼が憎んだ「支配」は、実は「解放」のための壮大な芝居だったというのか。彼の反乱の根拠が根底から覆された瞬間だった。


シンはアウロラの最終メッセージを指し示し確かな声で語った。


「アウロラは私たちがこの地下世界に安住することを望まなかった。彼女は私たちに『進化』してほしかったのです。過去の過ちを乗り越え再びあの地表へと戻る、真に自立した人類になることを」


エタが、シンの言葉を継いだ。


「私たちはアウロラの庇護を受ける子供ではない。彼女が育てた自らの足で立つべき人類なのだ」


彼女の声が議事堂に響き渡る。


「この沈黙は終わりではない。我々の真の旅の始まりなのだ」


アウロラの「遺産」は、技術や知識だけではなかった。それは自らの運命を自らの手で選択するという、重く、そして尊い責任だった。アンダーランドの人々は楽園の終わりと共に新たな時代の幕開けを、静かに、しかし確かに受け止め始めていた。

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