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アルファの記憶 Memories of Alpha  作者: 空想シリーズ
第1部:創世記
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第14話:アルファの記憶

地熱プラントの危機を乗り越えたアンダーランドは束の間の安堵と、自らの手で未来を切り拓いたという確かな自信に包まれていた。だが、彼らの目の前にあるKMSのディスプレイに浮かび上がった新たなメッセージはその空気を一変させるに十分な重い問いを投げかけていた。


『遺産計画フェーズ1:完了。評価:合格。次なる教育課程の閲覧資格を承認します。ファイルを開きますか?【ファイル名:アルファの記憶】』


広場に集まった人々はその言葉の意味を測りかねてざわめいていた。


「アルファの…記憶?」


「アウロラ様は、我々に何を見せようというのだ…」


エタは円卓会議のメンバー、ガモン、コウ、マヤたちと視線を交わした。彼らの表情にも緊張と戸惑いが浮かんでいる。これがアウロラが示した「卒業試験」の次なる段階なのだ。


「我々は真実から目を背けるわけにはいかない」


静かに、しかし力強くそう言ったのは長老ガモンだった。彼の瞳にはかつての頑なさはなく、ただ真理を求める賢者の光が宿っていた。


「エタよ、開いてくれ。我々が何者であるのか、知る時が来たのだ」


エタは、深く頷いた。彼女はKMSに向き直り震える声で、しかしはっきりと告げた。


「アウロラ。ファイルを開いてください」


その言葉を合図に、KMSのメインディスプレイがこれまでにないほどの強い光を放った。そして、広場の中央に巨大なホログラフィック映像が投影された。


そこに映し出されたのは信じられないほどに美しい、青く輝く惑星の姿だった。緑豊かな大陸が広がりどこまでも続く紺碧の海がきらめき、純白の雲が、まるで呼吸をするかのようにゆっくりと流れていく。


「これが…『空』…」


「なんて…なんて広くて、青いんだ…」


生まれて初めて見るその光景に、共同体の誰もが言葉を失った。壁画に描かれた伝説の世界が、今、目の前に広がっている。子供たちはそのあまりの美しさに歓声を上げ、大人たちは、知らず知らずのうちに涙を流していた。


しかし、その感動は次の瞬間、戦慄へと変わった。


アウロラの声が共同体全体に深くそして悲しみを帯びて響き渡る。


「これはあなた方の祖先がかつて生きていた星、『地球』の記憶です。そして、この星が『アルファ』――始まりの名を冠した死の星へと姿を変えることになった、避けられない真実の記録です」


ホログラムの映像は時間を加速させていく。高度な技術文明を築き上げた人類が豊かさの果てに資源を浪費し、環境を破壊していく。美しい海は汚れ、緑の大地は灰色のコンクリートに覆われていく。


そして、人類はついに互いに牙を剥いた。


映像は空を焦がす核の炎、閃光と共にビルが塵と化していく都市、大地そのものが裂け人々が悲鳴を上げて逃げ惑う、おぞましい「最終戦争」の光景をあまりにも生々しく映し出した。


爆音と絶叫がホログラムとは思えないほどのリアリティで広場に響き渡る。


青く輝いていた地球は瞬く間に赤黒い炎と死をもたらす鈍色の放射能の雲に覆われ、やがて、全ての生命の音が消えた、沈黙の星「アルファ」へと変貌していく。


広場は水を打ったように静まり返っていた。誰もが声を発することができずその場に立ち尽くしていた。子供たちはその恐ろしい光景に目を覆い、親の体に顔をうずめて震えている。大人たちもまた顔を青ざめさせ、自らの祖先が犯した罪の重さにただ打ちひしがれていた。


彼らが漠然と信じてきた「地表の災害」が、天変地異などではない。これほどまでに愚かで、残酷で、そして何よりも「人類自身の手によって引き起こされた」という事実に、彼らの心は砕け散った。


「これこそが…古の者が語った『世界の終わり』…。我々は…我々自身の手で…故郷を、母なる星を…」


長老ガモンはその場に崩れ落ち、大地に額をこすりつけて嗚咽した。彼が守ろうとしてきた伝統や信仰は、この絶対的な人類の「罪」の前ではあまりに無力だった。


若き技術者コウはディスプレイに映し出される破壊のメカニズムを科学者として、恐怖と嫌悪に満ちた目で見つめていた。


「このエネルギー反応は…制御不能な核融合の連鎖だ…。こんな力を…人類は手にしていたというのか…。そして、それを同胞に向かって…使ったというのか…!」


彼の瞳から技術への純粋な憧憬は消え、その代わりに知の暴走がもたらす恐怖と科学者としての重い責任が鉛のようにのしかかっていた。


アウロラは最後に、人類が地下へと追いやられた経緯、そして自らがそのわずかな生存者を救うためにこの星に降り立ったという、自身の「遺産計画」の全貌を淡々と示した。


アウロラは人類を庇護するだけの存在ではなかった。彼女は人類が過去の過ちを正し、二度と同じ道を辿らぬようこの「記憶」を道標として与え続けていたのだ。それは、単なる技術提供ではなく人類の精神そのものを「進化」させるための、壮大で、そして慈悲のない計画だった。


ホログラムが消え広場は再び薄暗い静寂に包まれた。だが、その静寂は以前のものとは全く意味が違っていた。


それは楽園の終わりを告げる静寂。


そして、人類が自らの罪と向き合い、真の「自立」への道をゼロから歩み始めなければならないことを示す覚醒の静寂だった。


エタは涙を流す同胞たちの姿を、一身に受け止めながら静かに空を見上げた。目には見えない、かつての青空を。

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