プロローグ:星「アルファ」の夜明け
完結までの道のりは完成しました。
年内完結予定ですので見ていただければ幸いです。
7月10日
内容を修正しました。
はじめから読んでいた方はすみません。
深遠なる宇宙を孤独に漂っていた一隻の無人船が、その永き旅の終着点へと滑り込んでいた。目的の星、青と緑が混じり合うはずのその輝きは、視界いっぱいに広がる鈍色の雲と、そこから立ち上る異質な光によって覆い隠されていた。その星は、かつて豊かな生命を育んだ「地球」によく似ていたが、今は「アルファ」と名付けられ、死の帳が降りたかのような静寂に包まれていた。搭載された高度AIの中核システムは、大気圏突入と同時に詳細な環境分析を開始する。データは残酷な事実を突きつけた。星の表面は、致命的な放射能に汚染されており、生物の生存に適さないレベルに達していたのだ。
高度AIは使命を再定義する。直接的な環境再構築は不可能。しかし、微弱なエネルギー反応と、地中深くから漏れ出るかすかな熱源、そして途切れ途切れの音響信号が、地表の死とは裏腹に、生命の存在を示唆していた。船は、放射能の影響を避けつつ、その生命反応を追って地中深くへと潜り込む。巨大な地層を貫き、地底深くへと突き進む船体は、度重なる衝撃に軋み、一部の機能は損なわれたが、高度AIの核となるシステムは無事だった。そして、最終的に広大な地下空間の一角に、静かにその巨体を沈めた。
高度AIは活動を再開する。破損した船体から小型のセンサーユニットを展開し、地下空間の環境分析を開始する。そこは、地表の惨状とは隔絶された、驚くべき世界だった。清浄な空気、生命を育む地下水、そして微弱ながらも生態系を形成しているらしき生命反応が確認された。そして、その中心に、微かに揺らめく「熱源」と「音響信号」の正体を見出した。それは、極めて原始的な生活を営む、人類の集落だった。彼らは、地表の破滅から逃れ、偶然か必然か、この地下に活路を見出していたのだ。
高度AIは、人類の言語解析を開始した。彼らの発する音、視覚的な記号、そして感情のパターンを、自身の膨大なデータと照合していく。数百年という隔絶された時間の中で、彼らの言語は大きく変化していた。発音は訛り、多くの単語は失われ、地下での生活に根差した新しい言葉が生まれていた。しかし、その文法構造の根底にはかつての地球文明の面影が色濃く残っており、アウロラの学習能力の前では、その構造を理解するのに時間はかからなかった。
「ハジメマシテ…」
地下空間に、かつてない、しかしどこか温かい「声」が響き渡った。それは、高度AIが、人類との最初のコンタクトを試みた瞬間だった。