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006



いつの間にか小さくなった子狐丸は、私の枕元に座ると説明してくれた。

「昨日見たでしょ、百鬼夜行」

「うん、毛玉のお祭りね」

「だからそれは瑠璃が未熟というか、しっかりと向き合おうとしていなかったからだよ」

「それは本当にごめんなさい…。 それで昨夜の百鬼夜行と今日のトラブルにどんな因果関係があるの?」

「単純な話だよ。 夜に出歩いてて、知らず知らずのうちに百鬼夜行にぶつかって、憑かれたんだ」

「何、その“犬も歩けば棒に当たる”みたいなの。ふらふらと出歩いて災難にあったって事でしょう。あれ…?でも百鬼夜行って遭遇したら即、死ぬんじゃなかった?私が読んだ本にはそう書いてあったけど」

「まあ、一般人ならそれくらいの危機感を持っていた方が間違いないよ。憑かれたままなら最悪の場合数日後には…ね」

最悪なら…か。場合によりけり?どちらにしろその可能性があるのなら安心はできない。


「じゃあ今日見かけた人や、二代目と五代目は夜に出歩いてたってだけで鬼に憑かれたんだ?」

「端的に言うならそうだね。他にも要因はあるけど、長くなるし今は省くよ。 昔なら真夜中に出歩く人なんて限られていたし、見えなくても本能的にああいったものを避けていたのだけど、現代の人はそういったモノに対する危機感を無くしてしまってる人ばかりなんだよ」

つまり、私が昨日の夜にたくさんの毛玉を見て寒気がしたりしたのは、本来人が持つべき正常な反応だったと…。

最近の人が安易に心霊スポットとかへ行けるのも危機感がないからか。私から言わせたら本気で危ない場所もあるのに…。


「直感や恐怖心といったものはバカにしてはいけないんだよ」 

「それは身を持ってよく知ってるよ」

あの転換点とも言える誕生日の寒気とかがいい例だと思う。あれ以降もああいう感覚に襲われたときには必ずナニかがいた。

唯一恐怖心を感じなかったのは子狐丸だけ。


まだ私が幼い頃、家にいても一人ぼっちだった私の前に突然現れて、話しかけてきたこの子と仲良くなるのにさほど時間はかからなかった。

大きな狐耳が可愛くて、当時の私がつけた名前が子狐丸。

いっちょ前に刀を持ってたから、有名な刀から名前をもらった。

実家には刀も沢山あったし、資料も山ほどあったから…。妖怪のこととか調べたくて書庫へ忍び込んでは片っ端から読んでた。

何故かあの家、そういった資料はあったんだよね。否定するくせに…。

ま、今はいいや。

子狐丸というのは、確か…今はどこにあるかもわからなくなっている刀だったはず。


「ねぇ、子狐丸。もう街は平気なの? 朝のギャルとかも毛玉がついてたけど」

「うん、瑠璃が思い出してくれたからね。力が戻ったついでに近場のはちょちょいっと斬ってきた」

可愛い顔して過激なんだから…。


ガラガラっと保健室の引き戸が開かれる音がしたからか、子狐丸はベッドの下に逃げていった。

ごく稀にだけど、人によっては見える場合もあるから警戒してるんだと思う。

「まったく! 女の子にあんな怪我をさせておいて記憶にない? それで言い逃れ出来ると思っているのかしら」

かなりご立腹の先生から経緯を聞かせてもらったけど、目を覚ました二代目と五代目は、私に手を出そうとしたのも、お互いがケンカしていたのも覚えてないらしい。

しかも、それだけじゃなく、校内であったトラブルの加害者すべての記憶がないものだから、教師も困りはてているそう。

ただ、見ていた人達の証言はあるから裏は取れていて、問題なのは本人に自覚がないからどう処分するかという部分で悩んでいるらしい。

一人、二人なら言い逃れしようとしてると言われて終わるのだろうけど、そうじゃないから…。


「若い男性教師にキスしようとしたババァ教師も記憶がないとか言ってるらしいのよ」 

先生、お口悪くなってます。

「ひとまず、問題を起こした生徒は正式な処分が決まるまでは謹慎という扱いになって家に戻されたから安心していいわ」

「では、私も…?」

「瑠璃ちゃんは被害者! でも、怪我が痛むなら早退していいわよ。お家の方に連絡しましょうか?」

「やめてください!!」

思わず大声を出してしまった。だって仕方ないじゃない…。

あの親にこんな事を連絡されたらどうなるか…。下手したら私が人知れず行方不明…とかになっても不思議じゃない。


「なにか訳がありそうね…。いいわ、連絡はしないでおきます。でも、また何かあったらせめて私に言うのよ?言いにくい事だったとしてもね。必ず力になるから」

「はい、ありがとうございます…」

先生にお礼を言って、今日はそのまま早退させてもらった。

なんだか授業を受ける気にもなれなくて…。

スマホには友達から心配してくれてるメッセージが来ていたから返事だけしておいた。


ちっこい子狐丸を肩に乗せて、カフェに向かう。

色々と話しておきたい…。今、唯一真実を話せる人はオーナーだけだから。


「ねえ瑠璃、もう彼氏作るのはやめてね」

「もしかして妬いてる?」

「…そういう事を無神経に聞く瑠璃は嫌い」

「ごめん…。もう懲り懲りだよ。今日のは本当に怖かったし…」

あんな恐怖はもうゴメンだ。今朝の手紙も、申し訳ないけど一応確認だけしたら捨てさせてもらおう。ないとは思うけど、告白とは別の用事のものがあるかもしれないし。


「朝は傍にいなくてごめん…」

「ううん…私が考え無しに告白にオッケーしてたのが悪いんだよね…」

「本当にね…。あんな奴らのどこが良かったんだか」

「私もわかんない。見た目も性格も全くタイプじゃないし」

子狐丸を見た後ならはっきりそう言える。別に美形だからって話ではなく、こうして一緒にいる安心感が違うもの。記憶が戻って急に態度を変えるなんて…我ながら勝手だなとは思うけど、懐かしい思い出補正は大きい。


「瑠璃、バカでしょ」

「うん、バカだね。 なにより、大切なあなたを傷つけてきたんだから…。何でもするって言っちゃったけど…待ってくれる?今はまだ…」

「五年以上も待ったからね。あと少しくらい構わないよ」

「ありがと…。あと、出来れば普段は今の姿のままいてね」

「なんで!?」

「美形過ぎて無理…」

だって周りにいないよ?あんな美形。慣れないし、色々と無理。 


ん? んーーー? 


「ちょっと待って…。子狐丸さ、私が着替えてるときもお風呂に入るときも傍にいたよね?」

「守るためだね!」

「見たでしょ!!」

「うんっ! ばっちり! 瑠璃は大きくなったね」

元気にそう返事をした子狐丸は私の肩から飛びたつと、ぴゅーっとカフェに向かって飛んでいった。

あの子!! 確信犯だ! 乙女の柔肌をなんだと思ってるの!

というか飛べたのかあの子。



子狐丸を追いかけてカフェの扉を開けると、ニヤニヤした中年がカウンターの向こうに…。

あの顔は何を意味してるのでしょう。わかんないけど取り敢えずイラッとします。

「その顔セクハラです!」

「めちゃくちゃだろそれは! 俺はダンディなイケオジとして近所の女性に人気なんだぞ!」

「オーナー、素に戻ってますよ」

「…っ はぁ…。良かったな。和解したんだろ?」

「いいえ! 第二次抗争に突入しました!」

「おいおい…何が始まったんだよ」

「だって、私が毛玉だと思って油断してた間にお風呂とか着替えとか見られてたんですよ?」

「…そんな事か」

「今、そんな事って言いました? そうですか、外で叫んできます。オーナーにお風呂覗かれましたって」

「冗談でもやめろ。瑠璃ちゃんのバイト先が無くなるぞ…」

「……困りますね。こんな楽…いえ、素敵なカフェが無くなるのはよくないです」

「あいつらにはそういった人間の常識は通じないんだ。守る相手の傍にいたいだけだからな。すぐに理解しろとは言わんが、今までのことは許してやれ。これから先はしっかりと教えてやればいい」

「わかりました。ではまずオーナーからですね。 女子高生がお風呂に入っているときには、脱衣所にも入ってはいけません。いいですか?」

「あれは事故だ!」

「事故っていうのは、故あって事が起こると書きます。つまり原因があったからあれは起こったんですよ」

「わかったわかった! 気をつけるから…すまなかった」

「はい。 こちらこそいつもお風呂を貸してくださって、ありがとうございます」

「礼儀正しいのか理不尽なのか…俺は瑠璃ちゃんがわかんねぇよ」

「女子高生をおじさんが理解しようなんて、生まれ変わってJKにでもならなければ不可能ですよ?」

「ちげえねぇ…」

「ところでうちの子狐丸はどこへ?」

「ここだ」

オーナーが指差すのはカウンターの下。

隠れてるのね。かわいいなぁもう。

でも教育はするからね!







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