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「ふわぁ〜」

スマホに設定していた目覚ましのおかげでなんとか起きられたけど…ねむ…。夜ふかしはするものじゃないなぁ…。

「瑠璃、年頃の女の子がはしたない。そんなんじゃ学校の三大美少女の肩書きが泣くよ」

毛玉のくせに親気取りですか?

にしても…三大美少女ねぇ…。 


知ってはいるよ?三年で生徒会長もしている西園寺京子。二年の四ノ宮凛。最後に私、一年の九城瑠璃。

噂は学校で嫌ってほど聞くから知ってる。

西園寺先輩は男嫌いで有名、浮いた話の一つもない。四ノ宮先輩は長く付き合っているイケメンな彼氏がいるのは誰もが知ってる。


当然、私の噂も聞こえてくるから何を言われているかは大体知ってる。

フリーの時なら告白すれば断らずにオッケーしてくれるけど、手さえ繋いでくれないお堅い女。プラスで電波だとか、おかしなことを言う、なんてのも。

それでも告白してくる人が減らないのは、三人の中で唯一可能性があるからとか言われたっけ。

つまりお手軽だと思われている訳だ。

友達にも安易にオッケーしたらだめだよって言われてるけど、フリーの時は断る理由もみつけられなくて。

私自身、一人が寂しいってのも大きな要因。



「聞いてる?欠伸をするときは手でおさえないと」

うるさいなぁ…自室でくらい気を抜いててもいいじゃない。

「あくびが出るのは仕方ないでしょう。昨日、変なものを見てたせいで寝不足なの。誰のせいよ…」

そもそも勝手につけられた肩書きなんて私は関与していないもの。大体こんなボロアパートに住んでいるって知られたら幻滅されて剥がれ落ちるメッキみたいなものでしょ。


口うるさい毛玉から逃れようと、洗面所へ行き顔を洗う。

台所でお弁当の準備をしたら、制服に着替えて…。

毎朝のルーティンだからもう慣れたもの。


あくびを噛み殺し、学校へ行く仕度をして外へ。

一応確認のため手すりから階下を覗き込んだけど、昨夜あんなにいた毛玉は一つもいない。どこに行ったんだろう。

まぁいいや。私には関係ないし。



私にとっては毛玉より人間関係のが問題。別れたばかりだし…。

昨日の今日だから学校に行くのが少し気まずいけど、体調不良でもないのに休んだら実家に連絡が行きかねない。

そうなったらどうなるか…。考えたくもない。仕送りが減るくらいならマシな方だろう。


アパートから学校への道は、結構な大通りを通るから車も多いし、通勤や通学のために歩いてる人も多い。

ただ、今日は何時もと様子が違う。

やたら車のクラクションが聞こえるし、窓から顔を出した運転手の怒鳴り声も…。

トイレでも我慢してるのかな?


更にはすぐ目の前でも怒声が。

「ぶつかってきたのはお前だろう!」

「うるっせぇなクソオヤジ! こいつ痴漢です! 誰か警察呼んでくださーい!」

「ふざけるなよ誰がお前みたいなクソガキに!」

ギャルVSサラリーマンか…。関わりたくないなぁ。

遠回りするか…。回れ右して別の道へ…


「瑠璃、あの二人を見て何か気がつかない?」

「何かって?サラリーマンの髪に希望が薄いとか?」

「やめてあげてよ。そうじゃなくて! よーく見て」

毛玉に言われて渋々振り返ると、ギャルとサラリーマンの傍に毛玉が。


よくよく周りを見てみると、他にも性別年齢関係なく、ちょいちょい毛玉のついてる人が混ざってる。

「何アレ…」

「現代だと夜中でも出歩く人が多くて困るね」

「そりゃあギャルなら夜遊びくらいするだろうし、サラリーマンは残業で帰りが遅かったりするでしょう」

「うん、それが問題なんだよ」

「ふーん」

「無関心!?」

「だって私にどうしろと?そんな社会レベルの問題に、いち高校生が何をできるっていうのよ」

「瑠璃がちゃんと僕を見てくれれば助けてあげられるのに…」

何それ。意味わかんない。最近はちゃんと目をそらさず見てるじゃない。


「私は関わりたくないの! ほっとけばいいよ、他人の事まで知りません。何かあればオーナーに依頼が来るでしょ」

「そう…。わかった」

毛玉は悲しそうにそう言うと、私の肩からぽんっと飛び降りてコロコロと行ってしまった。


……愛想つかされたかな。 それならそれで別にいっか。

厄介払いできたと思えば………。

踵を返して、回り道をして学校へ向かう。


なんなの?あの毛玉は。私に無理ばっかり言って。

もう知らない! 勝手にすればいいんだ。

………。



学校に着いても、毛玉をつけている生徒をチラホラと見かけた。

もれなく夜遊びしてた連中かな? 

ううん、塾だったり私みたいにバイトかもしれない。決めつけるのもよくないね…。


靴から上履きに履き替えようと下駄箱を開けたらザラザラっと落ちる手紙の山。

もう情報が行き渡ってるの?昨日の今日だよ? 毎回毎回、怖いよ男子の執念が。

仕方なく手紙を拾い集めてかばんに押し込み、教室へ向かうため廊下を進む。

また手紙を読んで、対応考えなきゃ…。いい加減億劫になってきたよ…。


一年の教室は三階だから、階段を登らなきゃなのがまた億劫…。

「瑠璃!」

名前を呼ばれて振り返ると、今一番会いたくない人が。

「…なんでしょう?」

雰囲気から復縁を迫るとかそんな様子じゃない。どちらかといったら殴られそうな…。

こういう敵意みたいなのを向けてくる人の雰囲気にばかり敏感になってるの本当に嫌だ。

そもそもこの人、別れたからって想いが憎しみに変わるほど私に執着していたとも思えないのだけど…。身体目当てとしか思えない感じだったよね?それとも殴られるくらいなら我慢して好きにさせてあげればよかったの?


「すました態度しやがって! こうなったら無理やり俺のものにしてやる!」

そう叫んで飛びかかってきた元カレの背後に毛玉が……?

突然の事で抵抗もできず、他の生徒もいるような場所で押し倒され…背中や腕をぶつけた痛みも相まって、あまりの恐怖に声も出なかった。


何されるの私…。こんなところで無理やりとか嫌っ! 

伸ばされた手が私の胸に触れるか否かのタイミングでまた怒声。

「瑠璃は俺の女だ!」

そう声がしたかと思ったら、私を押し倒していた元カレが蹴り飛ばされて廊下を転がる。

「な、なに…!?」

蹴った相手を見て血の気が引いた…。元カレ二代目…。そしてやっぱり毛玉がついてる。


二代目と五代目が取っ組み合いの喧嘩を初めて、恐怖と意味のわからなさに頭が真っ白になる。

ちゃんと二代目とは別れたよね?おかしな女だって言われて、冷たい目をされたもん。

別れたくないなら…と関係を迫られて、絶対に嫌だと拒否したからそれで終わったはず。

こちらから告白したわけでもないのに、そうまでして私が付き合いを続けたいと思われてるのが不思議で仕方なかった。

別れて以降、連絡はおろか声をかけられたりもしてないのに。それがなんで今更…。


「瑠璃! 大丈夫!?」 

毛玉…戻ってきたんだね。

「…っ」 

…なんで私は今ホッとしたの?

「…平気そうに見える?あちこち痛いよ。もう少しで身体に触られるところだったし…」

戻ってきてくれたのを嬉しいと思ってしまったのが悔しくて、語気が冷たくなってしまう。

「やっぱり目を離すんじゃなかった…ごめん! 絶対に瑠璃は守るから」

毛玉はそう言うと、ふわふわな小さな体で取っ組み合いをしている二代目と五代目に向かっていく。


なんで…なんでよ!!

私はあなたが居なくなって厄介払いできたって……一瞬でもそう思っちゃったのに!

なのに声を聞いたら安心して…そんな身勝手な私のためにどうして…。


……何してんだろう私。これじゃあ大嫌いなうちの親と同じじゃない。

見たくないものに蓋をして、見えないふりをして…。拒絶して遠ざけて。

ずっとそばにいてくれたのに! 私のバカ!!


「子狐丸…」

自然と口に出た言葉が妙にしっくりと来て、懐かしさと温かさで、さっきまでの怖さや不安も吹き飛んだ。

「瑠璃!!」

毛玉だったはずの子狐丸は、可愛らしい二頭身くらいの男の子になり、大きな狐耳をピョコピョコさせ、一度私へ振り返り、嬉しそうに笑った。


大好きだった私の友達…。

なのに、一方的に私が裏切った友達…。

それでもずっとずっと傍にいてくれた友達! 


子狐丸は腰に差した刀を抜くと、二代目と五代目に憑いている鬼を斬った。

それはもうキレイにバッサリと。斬られた鬼は跡形もなく消えていった…。というか、あの毛玉って鬼だったのか。サイズで言うなら人と変わらないくらいで、皮膚は赤黒く、いかにも鬼! って姿だった。

鬼を斬るついでみたいに二代目と五代目の前髪もバッサリいかれたような気がしたけど気のせいってことにしよう。


ケンカしていた二人は倒れて気を失ってるみたいだけど、騒ぎを目撃した生徒が教師を呼んでいたのか、到着した教師達に連れて行かれた。


「えーっと四城だったか…。 大丈夫か? いきなり男子に襲われたって聞いたぞ、怪我は?」

「九城です。 押し倒されてびっくりしただけなので…」

「すまん。 ここで何があったか聞かせてくれるか?」

言いにくい…。とくに知らない男の先生には。


「彼女の話は私が聞きます。 斎藤先生は男子の方から事情を」

言い淀んでいた私に気がついたのか、話を遮ったのは白衣を着た女の人。この人って養護教諭の…。

「それもそうだな…」

斎藤先生と呼ばれた教師は養護教諭に私を託すと去っていった。


「まずは場所を変えましょうか。怪我がないか見てあげるから」

そう言われて一緒に保健室へ。



保健室のベッドに座るよう言われて腰を下ろす。柔らかいベッドとか、いつぶりだろう…。

先生は私の腕や背中などを診てくれて…

「あちこちにアザがあるわね。全く…女の子の扱いがなってないわ!」

そう言いながらひどいアザには湿布を貼ってくれて、それから話をした。


「何があったの? 今朝からあちこちで生徒達がトラブルを起こしてるけど…一番酷かったのは貴女の周りよ?」

「昨日、先程の先輩と別れたんです。 その…そういう事を何もさせてくれないと言われて…」

「はぁ…。そんなの相手にしなくていいの。身体は大切にしなさい。いい?勢いでするようなことじゃないの」

「わかりました…。でも、私も悪かったんです」

試すような事をしたから…。


「あのね?関係を強要してくるような相手はろくなもんじゃないの。だって貴女の気持ちを一切考えていない行動なのよ?」

「はい…」

「瑠璃ちゃんが襲われた理由はわかったけど、もう一人は?なんであの二人はあんな喧嘩をしてたの?」 

「えーっと…どちらも元カレなんです…」

「……ちゃんと別れてなかったの?」

「まさか! そういう事を望まれても答えられなくて…それが原因で別れましたから。それっきり話しさえしてなかったのに今朝になって突然…」

「私、未練がましい男って大っきらいなのよね。しかも朝から廊下で襲う?ありえないわ…」

先生はかなりご立腹で、私にベッドで休んでいるように言うと保健室を出ていった。


入れ替わるようにベッドの下から顔を出したのは子狐丸。

「瑠璃、大丈夫?」

「うん、今までごめんね…子狐丸」

「いいよ、僕は全部見てきたからね。寂しかったけど、理由も知ってるから責めたりしないよ」

「それでもだよ。私が一番嫌いな人達と同じ事をあなたにしてしまってたから…」

「ちゃんと名前を思い出してくれたから、許してあげる」

「ありがとう…。私にできることなら何でもするから。それで罪滅ぼしになるとは思わないけど…」

「今、何でもするって言った!?」

「う、うん…」

相手はちっちゃな子供だし平気よね?


そう思っていた私は甘かった…。

急に八頭身はあろうかという長身、顔は幼さなんてない超美形スタイルになった子狐丸は、ベッドで横たわる私にのしかかってきた。

「本当になんでもしてくれるんだね?」

「えーっと…そういうのは流石に…。ここは学校だし……ほら順序っていうものがあるじゃない?」

顔を近づけてくる子狐丸。

腰まであるか?っていう長さの金色の髪はサラサラだし、髪と同じ色のまつげも長くて銀色の瞳はキラキラしてて、意味わかんないくらい美形なんだけど、それでもやっぱり怖いっ…!


「瑠璃、約束は覚えてないの?」

私を押し倒したような体勢のまま、そう問いかけてくる子狐丸。

「約束…?いつの?」

「瑠璃が十歳の時」

「ごめん…覚えてない。 幼い頃の記憶を鮮明に覚えてられる人はなかなかいないよ…」

トラウマレベルのものでもなければね…。


「酷いなぁ…大切な約束なのに。仕方ない、今はこれだけもらっておくね」

子狐丸はそう言うと私の顎に手を添えて…これダメやつ! 伝説の顎クイッ!

とっさに目を閉じたけど、思っていた場所に想像していた感触はなく…代わりに頬への柔らかい感触と、髪がサラサラと顔をなぜる感触だけを残していった。


「瑠璃の許可なくしないよ。それじゃああいつらと同じになるからね」

「…ありがと」

私、今絶対に顔が赤い! それだけは自信ある!







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