お引越し
翌朝起きてからは体の調子もよく、いいタイミングで奈子さんのお引越しの予定も入った。
アップルパイを作りながら出かける準備をして、お祝いも忘れないように用意しておく。
お引越しが終わったら取りに来たらいいね。
「子狐丸、行けそう?」
「う、うん…」
「どうしたの?なんでこっち見てくれないの…」
「えっと…」
「私のこと嫌いになった…?」
「違う!! 顔を見ると昨日してくれてた時の瑠璃を思い出しちゃって…抑えるの大変…」
「いつものことなのに?」
「昨日は違ったでしょ!!」
確かに私から何かしてあげたのは初めてだったけど。普段それ以上の事を私にしてるのに…。
男の子心も難しいものね…。
「今日は忙しいんだからしっかりしてね?」
「頑張る…」
先ずは街にある奈子さんの家へ向かう。
「あら、結構人が集まってるね」
奈子さんの家の前に人が集まって談笑してる。
「引っ越しとかになると近所の人も手伝うのが普通だから」
「へぇー。なんか温かくていいね」
私なんて実家からたった一人で荷物だけ持たされて追い出されたから…。
「あ、瑠璃ちゃん、子狐丸も! ようきてくれたね!」
「私にもできることありそうですか?」
「朝は力ある言うても、基本は非力やもんな…」
そう言いつつ視線を落とす奈子さん。何を意味してるかわかるからやめてください!!
「せや、瑠璃ちゃん料理得意やん?」
「ある程度はできますけど…」
「せやったら休憩のときに合わせておやつとか昼ごはんの仕度手伝ってくれへん?結構な人数手伝いに来てくれたはるし」
「わかりました。それなら私にもできそうです!」
「子狐丸は力仕事な?」
「わかってる」
「美味しいもの用意しておくから頑張ってきてね、子狐丸」
「うん!」
「瑠璃ちゃんにだけは素直なんやな?」
「うるさい。源さんは?」
「ダンナなら男衆と新居の方や」
「ならまずはそっちに行ってくる。瑠璃、また後でね」
「はーい。頑張ってね」
子狐丸を見送り、食事の下準備でも…と思ったけど、当然奈子さんの家は片付けが進んでて使える状況じゃない。
「私は家に戻って準備してきます! 奈子さんはここを離れられないですよね?」
「せやな…しばらくは無理や。ごめんな任せてええ?」
「はいっ! 先ずは10時のおやつの用意してきます!」
急いで家に戻り、お茶とかをいっぱい用意して冷蔵庫で冷やしておく。
おやつはどうしよう…と考えた結果、食べやすいクッキーを大量に用意した。
完成する頃にはいい時間で、抱えて家を出ようとしたら丁度奈子さんが来てくれて。
「ごめんな、遅なったー」
「ちょうどよかったです。一人では持てなさそうだったので…」
「ええ香りやな! そっちの重たいお茶はうちが持つな」
「おねがいします」
今は新居の方で休憩しているらしく、そちらへ。うちからなら近い。
「おーい。差し入れや! 瑠璃ちゃんの手作りお菓子やでー」
皆さん見知った方ばかりだし、話したりした事もあるから気が楽でいい。
「瑠璃、頑張ったよ」
「子狐丸もお疲れ様。クッキー持ってきたからみんなと食べてね」
「ありがと!」
普段、子狐丸が街の人と関わっている姿ってあまり見る機会がないから、ちょっと新鮮。
男の人たちと談笑してる姿はレアかも。
「瑠璃ちゃんもこっち来て座りー」
「ありがとうございます」
奈子さんからコップを受け取って隣に座り、目の前のテーブルに置かれたお皿に盛られたクッキーをつまむ。
うん、サクッとしてて美味しくできてる。
「美味しい…。瑠璃ちゃん、これすごいな! うちこんなん初めて食べたわ」
「良かったです。クッキーっていうんですよ」
奈子さんの周りには女性が集まってるから、必然的にお菓子や食事の話になり…。
色々と情報交換もできた。
クッキーもみなさん美味しいって食べてくれたからよかった。
「よし、そろそろ始めよか! 細かいものを荷解きせなあかんから頼むなー」
「「「はーい!」」」
「じゃあ私はお昼の仕度してきますね。また取りに来ていただけると助かります」
「わかったで。 任せっきりでゴメンな」
「いえいえ!」
家に帰って先ずしたのは炊飯器のセット。何種類か炊きたいし、時間がかかるものから始めなきゃ。
その間にオーブンレンジでは唐揚げ温めという設定で大量の唐揚げを。
フライパンでは卵焼きをいくつも焼いていく。卵はいつも常備しててよかった。
炊きあがった炊飯器の蓋を開け、ボウルにうつしてすぐにまたスイッチオン。
炊きたてのご飯はおにぎりにしていく。
こっちは海苔がないからそこは諦めて…。
塩握りが出来上がる頃にまた炊きあがったから、ボウルにうつしてまたスイッチオン。
次はかやくご飯のおにぎり。
更に次はお赤飯のおにぎり…と準備して、おかず類は前にもらった重箱に詰めて…おにぎりはお皿に並べたままだけど仕方ないね。ラップとかは流石にないし。
「おそなってゴメンなー」
「奈子さん! これ、このまま運ぶしかないんですけどいいですか?」
「おおっ、すごい量やん。 ほんま助かるわ…みんなよう食べるからな」
子狐丸もそうだからわかります。いつも美味しそうに食べてくれるし。
何回かに分けてお昼ごはんを運び、新居の庭でおにぎりパーティみたいになった。
相変わらず子狐丸はお赤飯好きね…。私には思い出深いものだけど…あの子は気にしてないのかしら。
「瑠璃ちゃん、瑠璃ちゃん、これ何なん!?」
「かやくご飯ですか?根菜やきのこ、鶏肉などを味付けたものと一緒にお米を炊くんです。おかずがなくても食べやすいですし、こういう時に便利ですよね」
「便利とかの前にめちゃくちゃ美味しいんよ!」
よかった…。現世だとイチから作ってたけど、こちらはスイッチオンするだけだし…。
味はどうだろうと思い、一口かじる。……うん、やっぱり普段私が作るのと同じ味。不思議だわ…。
食費を浮かせるには、かやくご飯って便利なのよね。追加でお味噌汁とかさえあれば充分お腹も膨れるもの。おかず要らずなのよね。
こちらでは食費とか気にする必要もないから大量に用意した唐揚げとか卵焼きは男性陣に人気なようで、あんなに作ったのにあっという間になくなった。
おにぎりも食べやすいと好評で…。こちらはお米を握るという習慣がなかったそう。
お弁当にするときとか便利なのにね。
「瑠璃ちゃんちょっとええ?」
「はい?」
「ほんま悪いんやけど夜の手伝いもしてもらえへん?本来は引っ越しをした家主が、手伝いに来てくれたみんなにお礼を兼ねてもてなすんやけど、人が多いしうち一人では流石にキツイんよ。よそから買うてくるんも考えたんやけど、瑠璃ちゃんに頼んだほうが絶対美味しいんやもん」
「もちろん任せてください。だって、私は奈子さんの妹分ですし! 姉のお手伝いはするものですよね?」
「ほんまありがとう! ほな瑠璃ちゃんちいこか。ここはもうダンナに任せといてもええし」
「はいっ!」
お昼に使った食器を回収して帰宅。
三時のおやつはカップケーキを作っておいて、夜ご飯は何を作ろうか奈子さんと相談。
「こういうものを出す、みたいな決まりはあるんですか?」
「特にあらへんよー。 まんまひんそーなもんだしよったら呆れられたりはするけどな」
「それは…」
金銭的なこともあるだろうし、コメントしにくいけど…お礼だもんね。
だったらもうオーブンレンジさんに活躍してもらって、豪華なオードブルといきましょうか!
奈子さんに説明しながら一品づつ用意していき、奈子さんが持ち込んでて材料があるものは普通にフライパンや鍋でも調理して…。
トースターも使ってホットサンドとかも用意。
うちの板の間が料理の盛られたお皿で足のふみ場もないくらいになった。
「いやーこれはすごいな! 見栄えもええし、間違いあらへんよ。ありがとうな」
「はいっ、あ…そろそろおやつ時ですから、こちら持っていってください」
「ほんまや! たすかるわ!」
カップケーキとお茶を抱えて出かける奈子さんを見送り。
私はもう一品くらい作り足しておこうかな。




