家出
夜明けのまだ暗い時間から奈子さんと二人で台所に立ち、初めてかまどというものを使った。
火をおこすだけでも、ものすごく大変で…毎日これをしていた当時の人と、奈子さんを尊敬するよ…。
こちらの食事というのは、朝にご飯を炊いたら、お櫃に入れて昼も夜も食べるというもので、当然お昼には冷めてしまっているご飯を食べる事になる。
ただ、昼も夜もお茶漬けみたいにする場合が多いようで、お漬物とか囲炉裏で作る汁物や、焼き魚など、バリエーションも豊富にあると教えてもらった。
「引っ越したら瑠璃ちゃんとこみたいにラクになるやろから、楽しみなんよー」
「これを毎日していた奈子さんにとっては、家事が片手間になりそうですね」
「手が空けば他の事に時間使えるなぁ。 そろそろうちも子供もほしいし…いいタイミングかもしれへんな…」
「お子さんですか?」
「せや。 子育ては大変やからなー。余裕ができたら欲しいな、て前から旦那と話しててん」
「奈子さんなら絶対にいいお母さんになりますね」
「せやろか? だったらええなぁー」
普段の見た目こそ私より幼い奈子さんだけど、頼れる大人だもの。私みたいに意思も弱く、流されやすい愚かな小娘とは違う…。
「せや、今日も暇なんやったら新居の工事、見にこーへん? 新しい家電やらも置くから瑠璃ちゃんの意見も聞きたいし」
「ぜひ!」
今はなにかしていたいし、奈子さんの役に立てるのなら願ったり叶ったりだ。
〜〜〜
その頃子狐丸は…
「いいか?お前は自分が大切だと言っている相手に何をやらかしたかよう考えるこった。そんでこれからどうするべきかな」
「瑠璃にあわせて」
「許さん。ワシも奈子もな。奈子の力は知っとろう?」
「うん…昨夜も一晩中瑠璃を探したけど見つけられなくて」
「真に反省し、正解に辿り着くまで会わせはせんからな」
「………瑠璃…」
「お前にはガッカリだ子狐丸。惚れた相手は守れるやつやと思うとったのに。傷つけて泣かせるなんぞ言語道断だ!」
源はそれだけいうと子狐丸を残し、今日の現場へ向かった。
〜〜〜
奈子さんに案内されて、建築中の新居へ到着。
「ここや! ええとこやろ!」
「山も近いですし、広々としていていいですね!」
「せやろ? 今回は戸建ての二階建てやし、子供部屋も用意してん」
「素敵ですね」
外観はできていて、前の何倍?って大きさの家は緑に囲まれた素敵な立地で、街へのアクセスもしやすい上に、例の倉庫も近い。必然的にうちも近くなるわけだけど…。
「子狐丸が心配か?」
自宅のある方を見ていた私に気がついたのか奈子さんにそう言われてしまった。お見通しだよね…。
「少しだけ…。以前同じように突き放してしまった時に、お互い力も失って…私は子狐丸の記憶さえ失くしてしまった時期があったので…」
「ああ…。弱っとった時期があったな…」
「やっぱり弱ってたんですか?子狐丸は」
「ちっこいネズミみたいなっとったで。 危うく踏みそうになってな」
そう言って笑う奈子さん。和ませようとしてくれてるのがわかるから何も言えず。あの時も私が原因なんだもんね…。
また見えなくなったら…子狐丸と話せなくなったらどうしよう。
「心配せんでも今回はそうはならんて」
不安が顔に出ていたのかな。
「そうでしょうか…」
「そないな顔しとるくらいやし、嫌いになったわけちゃうやろ?」
「ええ…。ちょっと信頼が揺らいだのは確かですけど…」
本人には少し嫌いになったって言っちゃったけど、本心を言えば別に嫌ってはない。
「それくらいはしゃーないて。無理矢理なんてされたら好きな相手でも冷めるで。その程度で済んどる瑠璃ちゃんが寛大なくらいや」
よかった…私だけの感覚じゃなかったんだ。
「瑠璃ちゃんが暗い顔して悩んどってもしゃーないよ。反省するんは子狐丸やからな」
「そう…ですよね」
なにかしていたほうが気も紛れるから…と、二人でまた倉庫にも行き、奈子さんたちの新居で使えそうなものをチョイス。炊飯器等の便利家電も見つけられたから、使い方を教えてあげたら奈子さんが大喜び。
「ボタン押すだけなん!? 米は!?」
「それが、ボタン押したらでてくるんです…」
「うそや…… ほんまやん!! なんやのんこれ…すごっ」
一度スイッチを押した炊飯器の蓋を開けて驚く奈子さん。わかります、その気持ち。私も同じ目に合いましたから。
リビングには例の巨大なテレビが置かれてて、毎日見るのが楽しみらしい。
休憩がてら電気ケトルで沸かしたお湯でお茶を淹れて、一緒に見てみた。私もテレビ見るのなんていつ以来だろう?
川中島の戦いのライブ映像とかいうのは本物みたいで、すごい迫力だった…。
これ、前にもチラッと見たけど…まさか本当に当時の生中継映像じゃないよね?だれか違うと言って。
お茶を出してくれた奈子さんにお礼を言い、湯呑みを受け取る。
「茶を淹れるんもメチャクチャ楽やな。これはすぐ引っ越したなるわ…」
「こちらの家はもう完成してるんですか?」
「あとは二階やな。部屋はできてんけど、家具とかがまだ無いんよ」
「寝室とかですよね」
「せや。 その家具を今作ってもらっててな。完成したらようやっと引っ越しやな」
「お手伝いしますから声かけてくださいね」
「そやったら早う仲直りしぃや?」
「子狐丸次第です!」
「確かにその通りやな!」
もう少しでいいから私のことも考えてほしい。本当にそれだけなのに。
これじゃあまるで今までの元カレと同じなんだもの。
日も暮れて、街の長屋の方に帰宅。奈子さんと夕ご飯の仕度をしていたら、お仕事から帰った源さんに奈子さんは呼ばれ、離れたところで何か内緒話をしてて…。
多分私達のことだとは思う…。というか源さんって家に入る時はある程度小さくなれるんだ…。確かにここの長屋には入れないよね?とは思ってたけど、本当に妖怪って変幻自在だなぁ。
新居はかなり大きかったから、あちらでは本来の姿で過ごすんだろう。
「瑠璃ちゃん、ちょっとええか?」
「は、はい…」
「これ、子狐丸からやって」
渡されたのは手紙。
子狐丸から貰うのは初めてだ…。
「それを読んで許したってええと思えるんやったら帰ったり。 まだ反省が足らんな〜思うんやったら泊まってってええから」
「はい。ありがとうございます」
恐る恐る手紙を開く。
内容は謝罪から始まり、今寂しくて仕方がないんだろうなって思える内容。
最後に、私の事を考えずに自分の気持ちばかりぶつけたって謝罪。
これからは私の気持ちも汲み取れるような余裕をみせるって…。
そっか…。
「奈子さん、源さん。ありがとうございました。ご迷惑おかけして本当にすみません。私、帰ります」
「ん、家まではうちが送るな。 ほな、いこか」
「はいっ」
源さんに深々と頭を下げ、家を出た。
「ちゃんと反省しとった?」
「はい。これからは私の事も考えてくれるそうです」
「ま、本来はそれが普通やけどな? 一方的なんは愛でもなんでもあらへんよ。ただ想いや欲望ぶつけとるだけや」
前に学校で元カレに襲われた事件の時に養護教諭にも似たような事を言われたっけ…。
家が見えてきた時点で子狐丸が走ってきた。ものすごい速さで…。
「瑠璃…!!」
「ただいま…」
「おかえり!!」
「子狐丸、次に瑠璃ちゃん泣かせたらほんま許さへんからな?元座敷童の力舐めとったら泣き見るで?」
「わかった…。もうこんな思いは二度としたくないから気をつける」
「よし、ほならもう一度二人でよう話し合いな? 仲良うせなあかんよ」
「はい。ありがとうございました」
奈子さんは手を振りながら帰っていった。
「瑠璃、ごめん…」
「もういいよ。いつまでも怒ってるのにも疲れちゃったから」
「呆れられたの!?」
「そう言えなくもないかな? だって子狐丸、元カレみたいな事をした自覚ある?」
「……うん」
「じゃあ気をつけて。 私も子狐丸を本気で嫌いになりたくないから…」
「わかった…」
落ち込んではいるみたいだけど、前みたいに廃人状態ではないから大丈夫そうね。
「ご飯作ろうか。どうせ食べてないんでしょ?」
「瑠璃の作るご飯しか食べたくない」
こういうところを可愛いと思っちゃうのはもう…。ちょろいと言われても仕方がない気がしてきた。
夕食は仲直りも兼ねて少し豪華なものに。
少しまだ気まずい部分もあって、お互い言葉数は少ないけれど、嫌な空気ではなく…。
「美味しい?」
私の様子を伺いながらも美味しそうに食べてくれてるのが嬉しい。
「うん。瑠璃の作るご飯はいつも美味しいよ」
「ふふっ、そっか」
こちらに来てからかなり料理の手間が減ってしまってるから、現世に帰ってイチから作れるのか少し心配…。
こちらでもオーブンレンジに頼りすぎてはいけないね。
子狐丸にこれからも美味しいものを食べてもらうためにも…




