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境界の娘 ~人ならざるものと生きていくのも楽じゃないけど、それなりに楽しくやっています~  作者: 狐のボタン


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食後は海辺をゆっくり散歩して、ゴツゴツとした岩場に出た。

小さなカニとか生き物が沢山いて、見ていて楽しい。

ただ、オマエだけはダメだ。

ザザザッっと団体で蠢くアレだけは。大嫌いなナニかを彷彿とさせるし…。


岩の窪みに溜まった海水。そんな狭い中にも小魚がいて逃げられなくなってる。

なんか、以前の自分と重ねてしまい…、しゃがみこんで掬って逃してあげようとしたら、背後から子狐丸に羽交い締めにされた。

「子狐丸!? 手! どこ触ってるの!」

「岩場は危ないから。転けたらひどいケガするよ」 

「わかったから! 離して…」

ダメ…力抜ける…。


子狐丸はそのまま私を抱えて岩陰に行くと行動がエスカレート。

「子狐丸、流石に外ではやめて…本気でお願い。 人に見られたら…」

「人なんていないよ。もし近付いてきたら僕がわかるから」

そういう問題じゃないのに…。鷲掴みされているせいで身体にも言葉にも力が入らない…。


「やめ…て…」

私のお願いも波の音に掻き消され、無理矢理立ったまま後ろから子狐丸が…。

あまりに突然な事に仰け反ってしまい、とっさに声を抑えるため口を押さえてたら…涙で滲む視界に人の脚がみえた。

うそ…こんなところを人に…見られた…

「子狐丸 人が…」

震える声でそれだけなんとか絞り出した。

「え!?」

ようやく子狐丸の暴走も止まり、開放されたおかげで目の前に立つ人をもう一度しっかり見て…全身の血の気が引いた…。

「なんで…!?」

「瑠璃、そんなに嫌だったの…?」

「本気でやめてって言ったよね!? というか、この私にそっくりなのは誰!?」

目の前には私そのものと言ってもいい姿形をした人が…。

「まさかドッペルゲンガー…」

「違う違う。もしそうなら瑠璃にそっくりだからね」

「そっくりじゃない!」

「瑠璃はもっと美人」

そういうお世辞を聞きたいわけじゃないの!


「瑠璃からそっくりに見えているのならドッペルゲンガーではないよ」

「意味わからない」

「瑠璃がいつも見ている瑠璃の姿って鏡で見たものだよね?」

「当たり前じゃない」

写真とか大っきらいだし…。私にしか見えない何かがいっぱい写り込むんだもの。トラウマでしかないの。

「鏡にうつる自分の姿っていうのは周りから見た瑠璃とは違うんだよ。人間は完全な左右対称ではないからね。ドッペルゲンガーはあくまでも他人から見た瑠璃の姿にしかなれない」

…鏡に写った姿は自分しか見てない姿だってのは聞いたことがあるかも…。


「じゃあこれは…?」

「瑠璃の強い想いが生んだ妖力の塊。つまり影みたいなものだよ。だから瑠璃から見てそっくりに見えてる。もしかして人に見られたくないとか、嫌だってそれくらい強く思ってた…?」

「当たり前じゃない! こんな外で無理矢理なんて…。嫌だって言ったのにひどいよ…。流石にちょっと子狐丸を嫌いになった…」

「ごめん…なさい…。楽しそうに海で遊んでた瑠璃を見てたら我慢できなくて」

「私ははしゃぐのさえ許されないの!?」

「違うけど! 脚とかだすし…他にも見えてて…だから気をつけてって言ったのに」

あの気をつけてってセリフは子狐丸が我慢できなくなるからって意味だったの!?だから離れてたのね…。


「でもご飯食べてたときは平気そうにしてたじゃない」

「お腹膨れた後に、また無防備な姿を見せるから…」

食欲が満たされたから次は…ってか! 本能で生きてんな!?この子!!


「はぁ……。でさ、これはいつ消えるの?」

無表情で突っ立ってる自分をみてるのとか怖すぎる。

「斬っていいならすぐ消せる」

「いいよ、やって…」

子狐丸はなんの躊躇いもなく私を斬った。本当の私ではないけど…。


「……子狐丸、私を斬るのに躊躇もしないんだ?」

「あれは瑠璃じゃない。本当の瑠璃はもっと何倍も美人だから」

「そういう問題じゃないよ!? 例えば子狐丸の影が現れて、私がその影にさっきみたいな事されてたら許せる!?」

「無理!!」

「同じ事じゃない! 私はなんの躊躇いもなしに子狐丸に斬られた気分だよ!?」

「同じじゃないよ! それに斬っていいって言ったのに理不尽…」

確かに言ったけど! 気持ちの問題だよ…。


「はぁ…なんかもうすっごい疲れた」

「瑠璃…」

「何よ?」

「続き…」

「殴るよ?」


折角のデートだったのに。初めての海に連れてきてもらえて本当に嬉しくて楽しかったのに…。

全部が台無しになった。

いくら子狐丸が妖怪だからって、全部私が合わせなきゃいけないの?それはおかしいよね!?

この先ずっと我慢して耐えなきゃいけないなんて…無理だ。

いずれ耐えられなくなって本気で別れる選択肢が出てきてしまうくらいなら、今からでもお互いの妥協点を見つけておかないと…。


今はまず、私が本当に怒っているんだっていうのを自覚してもらいたいかな…。

あんな事されて怒らない人いる?


帰り道は言葉もなく…。  

ううん、子狐丸は話しかけてきたけど、無視を決め込んだ。まるでいつかみたいに…

だってあれだけ言ったのに私が怒ってる理由を理解していないだもの。

外だったからとかそんなんじゃない! 私の意思を無視したからだよ…。本気で嫌だったんだから…。



帰宅した後、私は荷物をまとめた。

「瑠璃、何してるの?」

「私はしばらく奈子さんの家に泊めてもらいます。子狐丸が本当に反省するまで帰りません」

「え…」

驚いて固まってしまった子狐丸を残し、奈子さんの家へ。

突然だけど事情を話せばわかってくれると思うし…。



奈子さんの家を訪ねたら快く迎え入れてくれて、話も聞いてくれた。


「それは流石に子狐丸が悪いわ。 勝手にムラムラして無理矢理襲ったんやろ?しかも外で」

「はい…。ひどいですよね?いくら恋人でも許せないこともあります…」

「そらそや。 なんでも受け止めるんが恋人ではないしな。 ええよ、気が済むまでうちにおったらええ。子狐丸んとこはダンナ行かせるわ。多分言わな理解せーへんやろうし、瑠璃ちゃんから話しても甘く受け止めるやろうからな」

「ありがとうございます…ご迷惑おかけしてすみません」

「ええって。たまには女二人でのんびりしよな」


その夜は奈子さんに色々と話を聞いてもらったり、アドバイスをもらったりと、遅くまで話し込んでた。

奈子さんは本当に頼れるお姉さんです。







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