表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
境界の娘 ~人ならざるものと生きていくのも楽じゃないけど、それなりに楽しくやっています~  作者: 狐のボタン


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

43/49

初デート



この一週間の仕事期間中に報酬として手に入れたものの中でも可愛らしい服を選んで着替えた。 

現世が夏に近いからか、持ち出されてきた服も夏服がほとんどだったけど、その中でも可愛かったオフショルのワンピース…。

少し肩や胸元とか露出はあるけど、フリルもついてて色も爽やかな水色で可愛いんだよね。

ミュールはないから何時もの運動靴だけど仕方がないかな…。

今までオシャレとかする余裕なんてなかったから正解もわからないけど、私が気に入ったものだし…似合ってるといいな…。


外で待っていてくれた子狐丸は私を見るなり抱きしめてきた。

「どうしたの?」

「すごく可愛い。このまま家の中に戻りたいくらいに」

「褒めてくれるのは嬉しいけど、今日は出かけよう?」

「うん、今は我慢する…」

私がデートしたいって言ったのをしっかりとわかっててくれてるのが本当に嬉しいよ…。


「それもつよ」 

「ありがと」 

お弁当を包んだ風呂敷を持ってくれる子狐丸。大きな重箱でそこそこな重さがあったから助かります。


「どこに向かうの?」

「この時代は、まだとある場所が歩いていける距離にあってね」

「内緒?」

「見てのお楽しみ」

「わかったよ。楽しみにしておくね」

のんびりと歩く田舎道は風も心地よく、気温も丁度いい。

現世だったら今は梅雨で雨が降ってて湿気も多く、晴れたらそれはそれで暑いから、こちらで出かけられて良かったかも。


「こっちの方角には街とかなんにもないの?」 

いつも行く街とは正反対の方角に向かってきてるから…

「点々と集落はあるよ。でもいつも行く街ほど大きなものは近くにはないかな」

「へぇ〜…。その集落もやっぱり妖怪が住んでる?」

「当然。ここらだと鎌鼬とか、ろくろ首の姉さんがいるね」 

「そ、そうなんだね…」

思っている通りの妖怪ならどちらも怖いから出会わずに済ませたいな。

鎌鼬って風にのって現れ、知らないうちに斬られてて傷が塞がらないとか…。

ろくろ首は単純に意味がわからなくて怖い。首が伸びるって…ゴムですか。骨格とかどうなってるのよ…。



「あ、ほら集落だよ」

子狐丸が指差す先には確かに数件の民家が。

何人かが畑で作業してる姿が見える。見た感じは普通に人の姿だね…。

これはいつも買い物に行く街でもそうなんだけど、現世をコピーした世界ゆえに、あまりにも人の姿からかけ離れてる妖怪は、生活しにくくて人の姿に変わっていると聞いた。

確かにペラッペラの一反木綿とか風が吹いたら飛ばされるし、火車なんて燃えてる車輪だもんね。

一応、人化しててもみんなある程度の特徴はあるらしく、一反木綿なら木綿の浴衣を着ていたり、火車は髪が燃えるような赤色をしてる。獣系の人なら耳とか尻尾。子狐丸もそうだね。


「あの人達は?」

「鎌鼬だね。野菜の収穫してるみたい」

なんかスパッと野菜を切ってる姿が想像できた。

遠巻きにお辞儀だけして通り過ぎ、しばらく歩くと嗅ぎなれない香りが…。


「これ、なんの匂い?」

「さすが瑠璃は感度がいいね?」

そのセリフ、外で言わないでくれる!?似たような事を毎晩のように耳元で囁かれてるんだから!


「これは潮の香りだよ。海が近いからね」

「海!?」

今まで海なんてこの目で直接一度も見たことがない。

いっそ空想の産物なのでは?と疑いたくなっていたほど縁がなかった。

実家のある土地も海からは遠いし、一人暮らしを始めたボロアパートも海からは遠かったはず…。



急く気持ちを抑えきれず、足早に小山を登ったら、目の前に広がるのは大パノラマ。一面に広がる大海原と水平線…。

「うわぁ………」

「瑠璃は海って初めて見たでしょ?」

「うん…。すごい……」

それ以外の言葉が見つからない…。


真っ青な空と海の境目が混ざってしまって、わからなくなりそうなくらいに海も青い。 

水面が太陽の光を浴びてキラキラとしているおかげでようやく水平線がゆるいカーブを描いているのがわかる。

なんてキレイなんだろう…。


しばらく言葉もなく眺めていたけど、今度は近くで見たくなって、小山を下り海岸まで走った。

真っ白な砂浜、初めて聞く寄せては返す波の音…。

何もかもが初めての経験で楽しくて、嬉しくて。

砂浜も駆け抜け、波打ち際に。

泡立つ白波、透明度の高い海の中には小魚がみえる。少し沖では大きな魚が跳ねてて…。魚ってこんなふうに泳ぐんだ…。スーパーでぐったりとして並んでいる姿しか知らないから…。


「あまり近くに行くと濡れちゃうよ?」

「少し海に入ったらだめ?」

「寒いほどの季節じゃないし、足を入れるくらいなら平気かな」

靴と靴下を脱ぎ捨てて、ワンピースのロングスカートをたくし上げて海の中へ!


「冷たいっ! でも気持ちいい!!」

「瑠璃、気をつけて!」

「これより先には行かないから!」

「ちがっ…見えちゃうから!」

「もう全部見てるのに…」

「そういう問題じゃない!」

今更子狐丸に脚くらい晒したって平気でしょ! この海の感動には代えられない!

誰もいなくて、まるでプライベートビーチなんだから。


パシャパシャと飛沫を上げて走り回り、立ち止まると足首に波が寄せては返す…。

足裏の砂が波にさらわれていく、こそばゆい感覚も楽しい!

子狐丸はニコニコとこっちを見てるだけで近寄ってはこない。 もしかして海嫌い?


「子狐丸は海に入らないの?」

「僕はいいよ。普段見れない瑠璃を見てたいから」

なによそれ! でもいいんだ、今は楽しいから!


………

……



しばらく波打ち際ではしゃぎまわり、流石に疲れて砂浜に上がった。

子狐丸が風呂敷をシート代わりに広げてくれていたからそこに座る。

「ちょっとはしゃぎ過ぎました…」

「だね。初めて見たよ、あんな楽しそうに、子供みたいに遊ぶ瑠璃」

「普段の私をどう見てるの?」

「んー、へそ曲がりで強気を装っているけど、寂しがりやで素直になれない可愛い女の子」

「当たってるけど酷い! だいたいその説明だと可愛い要素ないよね!?」

「ううん。可愛いよ。今日は新しい瑠璃を見られたから来てよかった」

「そう…」

恥ずかしいなもう!


「お弁当にしようか! いっぱい作ったからたくさん食べてね!」

「うん、楽しみにしてた」

重箱を開いていくと、和洋折衷のおかずと、子狐丸が大好きなお赤飯で作ったおにぎりが。

「たんとお食べ」

「いただきます!!」

美味しそうに食べてくれるなぁ。頑張ったかいがあるってものです。


波の音をBGMにお弁当を食べ、子狐丸と他愛のないおしゃべり。

こんな幸せがいつまでも続いたらいいのに…。












評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ