036
記憶だけを頼りに薄暗い夜道を山へ向かって歩いてる。
街を抜けるまでは家々の明かりがあるからよかったんだけど、その先は本当に真っ暗で…。
ほぼ手ぶらで家を飛び出してきたのを早々に後悔してる。
私は本当に…いつもいつも勢いで行動して、後先を何も考えてない。
歴代の元カレと付き合うと決めたときもそう。こちらの世界へ逃げてきたのもそう。
そして今回も…。
強くなるって決めたのに。あんな女の人一人現れただけでこんなに心をかき乱されて。
妖魔界にまで来たのに、私は何も変われてないんじゃないかと思えてくる。
真っ暗な道をトボトボと歩いて向かうのは境界のある山。
子狐丸が他の人のところへ行ってしまうのなら、ここにいても仕方がないもの。
現世に戻って、紗千さんの言うとおりにしてもいいかもしれない。
どうせ私は一人では何もできないし、家の思惑に流されるしかないのなら、せめて誰かの役に立たなきゃ。
街灯もない暗い夜道を歩いてきた割に、道を間違えずに来れたらしい。
こちらへ来たときに見かけた河童のいた集落が見えてきた。
こうも真っ暗だと、住民の存在を証明する明りがすごく頼もしく思える。
山まであと少し…そう思い踏み出した一歩が地面につく前に突然肩を掴まれた。
「瑠璃!! どこに行くの!?」
「ほっといてよもう! 子狐丸はあのお姉さんの所に行けばいいじゃない!!」
「はぁ…あれ奈子だったよ。瑠璃を探して家まで行ったら白状した」
「奈子さんは幼女じゃん!!」
「妖怪なんだよ?姿くらい変えられる。 昼間、奈子に相談したんでしょ? ”ちょっと瑠璃ちゃんには危機感を持ってもらお思て“だってさ」
「じゃああのお姉さんは奈子さんだったっていうの?子狐丸の恋人じゃなく?」
「恋人なんていない! 瑠璃にはなってほしいけど…」
「狩りをして報酬に女の人とそういう事してスッキリしてたんじゃ…」
「ないよ!! 僕には瑠璃しかいないって何度言ったらわかってくれるの?」
「だって…。私は子狐丸を傷つけてきたし、自分に自身も持てないし、こうやって考えなしに動いちゃうし…」
「それが瑠璃でしょ?僕はずっと傍にいて見てきたから全部知ってるよ」
「決められてるから?私と結ばれるようにって」
「それも違う。前に話したよね?もし瑠璃が他の人を選んだら僕がどうなるか」
「うん…刀に戻るって」
「あれ、少しだけ嘘ついた。僕が瑠璃を認めないと判断すれば自分で刀に戻ることもできる」
「…なんで戻らなかったの?」
「瑠璃が好きだからだよ。何があっても守るって誓ったからね」
「愛想尽きてないの?」
「こうやって急にいなくなられたりされると心配はする。でもそんなことで好きな気持ちは変わらないよ?」
なんでよ…。いっそ嫌いって言ってくれたら全部全部諦められたのに。
そんなこと言われたらまた希望を持っちゃうじゃない…。
「瑠璃。もう我慢しないではっきりいうね?またこんな風にいなくなられたら心配でおかしくなるから」
「…なに?捨てるって言うならはっきりしてよ…」
「違う! 僕の恋人になって。瑠璃だけの刀になるよ。必ず守るから」
ここまで想ってもらってたのに…。私は何をしてるの…。
「………ごめんなさい」
「瑠璃!?他に誰か決めた人がいるの?」
「ううん、違うの! 今のは断ったんじゃなくて…子狐丸を疑ったから。散々傷つけといて勝手だよね私…」
「それはもういいって言ったよ」
「でもさっきも子狐丸を疑って…」
「あれは奈子が悪い。そうなるように仕向けたんだからね。まったく…余計なことをしてくれたよ」
「ううん…。そうでもないかも。 私も子狐丸が大好きだから…他の人に取られたって本当にショックで後悔したから。もっと早く気持ちを伝えていたらって…。 大好きだよ…子狐丸。 私のこと貰ってくれる?こんな私だし、これからも心配や迷惑をいっぱいかけると思う…でも…」
その先は言葉にさせてもらえなかった。子狐丸に口を塞がれてしまったから。
…………
………
「…んっ…っ」
子狐丸、苦しい…。ぱしぱしと叩くけどわかってくれなくて、あまりの苦しさに思い切り突き飛ばしてしまった。
「瑠璃…嫌だった?」
「違うけど、苦しいよっ! 長すぎ!! 人は呼吸してるの!!」
「ごめ…嬉しくてつい…」
「加減だけはして。いろいろな意味で死んじゃうから」
「気をつける」
夜道は危ないからと過保護な子狐丸に抱きあげられて帰宅。
玄関には奈子さんが…。
「ごめんな、瑠璃ちゃん! そこまで思い詰める思わんかってん…。ちょっと不安にさせたれば踏み出す勇気になるんやないかと思ってな…」
「じゃああのお姉さんは本当に?」
「うちやで」
白い煙に包まれたかと思うと、目の前にはうちに訪ねてきたお姉さんが。
「ひどいです…子狐丸と浮気するなんて…」
「してへんて!!」
「してないよ!!」
「ふふっ…」
「もう、人が悪いわ瑠璃ちゃん…」
「お返しです。 でもそんなお姉さんにもなれるんですね」
「そらそうや。そやなかったらうちのダンナの相手なんかでけへんやろ?」
お姉さん姿でも充分無理そうだけど…。源さんは巨人なだけあって本当に体が大きいし。
「初めは痛かったけどな? あんなもんは慣れや慣れ。ピーーーも受け入れてまったら大した事あらへんよ」
「奈子さんストップです! 生々しい単語使うのやめてもらえません?」
「瑠璃ちゃんもすぐ慣れるて。 ほなごめんな。この埋め合わせはまたするから、今日のところはお暇するな。 子狐丸も頑張りや!」
「うるさい、早く帰れ」
「ほななー!」
奈子さんはお姉さん姿のまま走っていった。
「納得した?」
「うん…ほんと疑ってごめん」
「もういいから。夜ご飯…食べようか。せっかく作ってくれたんだし」
「そうだね。すぐに温め直すよ」
お互い苦笑いして家に入り、レンジで温め直したご飯を二人で食べた。
なんかちょっと気まずいのは絶対に奈子さんのせい。
子狐丸が後片付けをしてくれると言うから任せて、お風呂へ。
女のカンとでも言うのか、今日は絶対に綺麗にしておかなくちゃいけないと思い、いつも以上に念入りに身体も髪も洗い、湯船に浸かりながら色々と葛藤して…。
ようやく気持ちを固めてお風呂を出たのは二時間後だった。
「遅いからお風呂で寝てるのかと心配したよ。大丈夫?」
「うん…」
この日の夜、人生で一番痛い思いをした。
それと同時に生まれて初めて感じた幸せと満たされた感覚は一生忘れないと思う…。




